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O plus E 2020年Webページ専用記事#5
 
 
フェイフェイと月の冒険』
(Netflix)
      (C) 2020 Netflix
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [2020年10月23日よりNetflixにて独占配信中]   2020年11月2日 Netflixの映像配信を観賞
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ネット配信でこの品質のCGアニメに遭遇したことに感激  
  昨年まではVFX大作が増える一方で,隔月刊になったO plus E誌の誌面では収めきれず,Webページ専用記事として多数紹介していたというのに,遂に当欄に書く実写のメイン記事がなくなった。とっくに完成しているはずなのに,「007」や「キングスマン」も,「ワンダー・ウーマン」や「ブラック・ウィドウ」のアメコミ・ヒロイン達も,公開延期の連続でずっと隠れていて,姿を見せてくれない。せめてフルCGのキャラ達はと言えば,大人気の「ミニオンズ」たちもしっかり稼げる時期まで待機させられている。ついつい,こんな愚痴ばかりの書き出しになってしまう。
 それじゃ淋しいので,ネット配信映画では……と探したら,あった,あった!NetflixがフルCG大作を10月23日から独占配信するという。米中の合作で,中国人の少女が月世界に飛び出すというから,コロナ禍で稼ぎ放題のNetflixは,米中貿易摩擦など何のその,各国の宇宙開発競争が熾烈化する一足先に,アニメまで宇宙を舞台にし始めた。若い男女のラブストーリーかコミック原作ものばかり描いている和製アニメとは大違いだ。
 というのは買い被り過ぎで,所詮はお子様相手のファミリー映画の範疇を越えないが,配信映像の美しさを観て感心した。色々な意味で,感慨新ただった。まず第一の感慨は,NetflixがこのクラスのCGアニメを企画・製作するようになったということ。ハイレベルのCGアニメを制作できるプロダクションは限られていて,しっかりハリウッド・メジャーが抱え込んでいたので,そこに風穴を開けたかという思いだ。
 第二の感慨は,主たる製作会社が中国のパール・スタジオであったということ。旧社名はOriental DreamWorksで,フルCG界の雄DreamWorks Animation (DWA)と中国企業との合弁会社である。『ヒックとドラゴン2』(14)等の追加制作に参加し,『カンフー・パンダ3』(16)ではDWAと共同制作扱いになっている。本作が,同社のほぼ単独制作であるなら,中国国内がこれほどのCG表現レベルに達したのかと感心した。まだセル調の2Dアニメが主流の和製アニメ業界にこの実力はない。
 第三の感慨は,映像配信の高画質とそれを活かしたCG描写の素晴らしさだ。筆者は4K配信を自宅のPCで観たが,その画質は感激ものだった。Blu-ray Discでは,ここまでの表現力はない。映画館で観るのと全く遜色ない。いや,間近でじっくり観られるゆえに,それ以上に感じた。このカラフルさ,質感たっぷりのCG映像は魅力的だ。この種のアニメが自宅ですぐに観られるなら,映画館に行く必要はないし,Blu-rayソフトの発売を待つ必要もない。お子様連れで,保護者の入場料まで当てにしている映画興行界としては,大きな打撃になるはずだ。
 と感じつつ全編を観終えたのだが,後で調べたら,上記の感慨のいくつかは誤解に基づくものだった。まず,独占配信のNetflixオリジナル作品ではあるが,同社自身のオリジナル企画ではなく,先にパール・スタジオが企画し,後でNetflixが独占配信権を獲得したようだ。当然,製作会社のパール・スタジオは高く売りつける配給網を探したことだろう。Disney+は親会社は自明で,HBOはワーナー傘下にあってヒモ付きだが,ネット配信の覇王Netflix,ライバルのAmazon Prime,後発の Apple TV+は,良質コンテンツ確保にしのぎを削っている。当然,映画製作会社としては,世界中で通用するコンテンツを高く売りつける相手を探す訳だ。このコロナ禍で映画興行のスタイルは一変している。劇場公開を渋っているハリウッド・メジャーの存在感は,コロナ後にどんどん薄れて行ってしまうと予想できる。
 第二の感慨も少し違っていた。パール・スタジオは製作会社であり,脚本家のオードリー・ウェルズに中国を舞台にした物語を依頼したり,キャラクターデザイン等の基本は自社で行っているが,CGアニメーションの大半はSony Pictures Imageworks (SPIW)が担当している。SPIWが関与するなら,このレベルの3D-CGは当然である。元々はVFXスタジオであるが,フルCGアニメにも進出し,『くもりときどきミートボール』(09年10月号)や『モンスター・ホテル』(12年10月号)のようなヒット作を生み出している。親会社のSPEがこの分野に熱心でないためか,DMAやIllumination Entertainmentのような存在感を示せていないが,実力は相当なものだ。こうして他社企画の制作依頼を受け,良作を担当して行くのは喜ばしいことだ。
 第三の感慨の映像配信の高画質は,最後まで本物だった。さしたる遅延もなく,この画質がキープできることは素晴らしい。音楽映画や密室で観るに足るホラー映画は,映画館の方が適していると思うが,その他は自宅で何度でも観られる方が圧倒的に便利だ。
 
 
  中国を舞台としたビジュアルデザインが上々のフルCGアニメ  
  さて,本来の映画の内容に入ろう。主人公は中国人少女のフェイフェイ(飛飛)である。パンダみたいな名前だなと思ったら,1984年から1992年まで上野動物園にこの名前の牡のジャイアント・パンダがいたようだ。本作の舞台となる場所も時代も,少女の年齢も特定されていないが,彼女は町中に小川か運河があり,古い街並みが残る地方の小都市に住んでいる。時代は現代か,それに近い時代で,歴史ものではない。
 映画の冒頭では両親と楽しく暮しているが,やがて3年後に移り,その間に母親は亡くなり,父親は再婚しようとしていた。亡き母の語ってくれた「月の女神」の存在を証明しようと,フェイフェイは自らの科学知識でロケットを組立て,ウサギの「バンジー」とともに月世界を目指す。ところが,そのロケットに義弟のチンが乗り込んでいたことから,重量オーバーで墜落してしまうが,女神が派遣した狛犬に助けられて,無事月世界に辿り着く。後は,月の女神・チャンウーが絡む冒険物語が展開する。家業は中国菓子の月餅屋,ペットがウサギという「月」にまつわる話題が満載だ。この「月の女神」という存在も,中国神話上の人物「嫦娥」を題材にしているとのことだ。
 監督はグレン・キーンで,これが監督デビュー作だが,長年ディズニーアニメの作画監督を務め,『リトル・マーメイド』(89)『美女と野獣』(91)『ターザン』(99年11月号)等を生み出している。『塔の上のラプンツェル』(11年3月号)では製作総指揮であったから,フルCGアニメも経験済みだ。フェイフェイの声は,英語版ではキャシー・アンがクレジットされているが,彼女も含め,名の通った俳優は出演していない。全編ミュージカル仕様であるから,歌える俳優をキャスティングしたのだろう。
 以下は,ビジュアル面からのコメントである。
 ■ オープニングは大きな中国犬(チャウチャウかマスティフ?)のスペースドッグが宇宙空間にいて,月をかじるシーンで始まる。これがよく出来ていて,子供心をくすぐるのに最適だ。続いて,月が水面に映り,フェイフェイの足が登場するが,この水面や背景の風に揺れる柳の描写が絶品だ。この水場のシーンは中盤,終盤と何度か登場する(写真1)。絶対に手書きベースの2Dアニメや人形にコマ撮りアニメでは表現出来ない対象であり,本作のご自慢のシーンなのだろう。後半で,白く薄い着物で,髪をたなびかせて女神が舞うシーン(写真2)もしかりで,高度な3D-CGでしか表現出来ない代物だ。
 
 
 
 
 
写真1 何度か登場する柳の木と水面のシーン 
 
 
 
 
 
写真2 透明感のある薄い着物と髪がたなびくシーンも絶品
 
 
  ■ フェイフェイが住む中国の街のデザインが良く出来ている(写真3)。夜のシーンも素晴らしい。 こんな旧市街の観光地があれば,行ってみたくなる。『カンフー・パンダ2』(11年9月号)の島1つ分ほど大掛かりではないが,この街全体を予めデザインし,粗いCGでプレビズして構図を決めているのだろう。フェイフェイの家族が親族を呼んで食事するシーンの料理が頗る美味しそうだ(写真4)。中華料理が食べたくなり,久々に横浜街に行きたくなった。Go To TravelかGo To Eatで行ったら,きっと月餅も買ってかえることだろう。
 
 
 
 
 
写真3 フェイフェイが住む街。これだけで観光地。 
 
 
 
 
 
写真4 Go To Eatで中華街に行って,月餅も買いたくなる 
 
 
  ■ 主人公たちの顔立ちはと言えば,アニメ主人公らしく,丸顔で目が大きく,中国人らしくないが,少なくとも西洋人には見えない(写真5)。宇宙船も子供っぽいデザインで,ここはリアリティを追求していないのがアニメらしく,好感が持てる。日頃着ているダウンジャケットは宇宙服兼用のようだが,この光沢はなかなかの質感で,うまくレンダリングを調整していると感じる(写真6)
 
 
 
 
 
写真5 丸顔で大きな目。肌や唇の質感も上々。 
 
 
 
 
 
写真6 このダウンジャケットは宇宙服兼用か
 
 
  ■ 月の裏側で遭遇する魔法の王国は思いっきり童話の世界風だ(写真7)。シンプルに見えて,ライティングには工夫している。そうかと思えば,女神チャンウーの愛の物語は墨絵にカラー水彩着色したような画調で描かれている(写真8)。要するに,3D-CG表現しか出来ないのではなく,何でも描けるぞと主張しているかのようだ。デザイン的に最も凝っていたのは,女神チャンウーの赤いロングドレスだろう。世界的ファッション・デザイナーのグオ・ペイがデザインし,実物生地のサンプルを用意し,刺繍部分は実際に縫製して,それこらCG表現に移したという(写真9)。物語的には,平均的な冒険もの+家族愛だが,この種のビジュアルな拘りは嬉しい。
 
 
 
 
 
写真7 月の裏側にあった魔法の王国ルリアナ
 
 
 
 
 
写真8 チャンウーの愛の物語は着色した墨絵風
 
 
 
 
 
写真9 世界的デザイナーによる赤いロングドレス
(C) 2020 Netflix
 
 
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