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O plus E誌 2006年12月号掲載
 
 
硫黄島からの手紙
(ワーナー・ブラザース映画
&ドリームワークス映画)
 
      (c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L. L. C.  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [12月9日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2006年10月11日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  日本人兵士の描写,細部のリアリティ,CGの威力  
 

 先月号で紹介した『父親たちの星条旗』で描かれた太平洋戦争での硫黄島での激戦を,今度は裏返しにして日本軍側からの視点で描いた作品だ。といっても,続編でも同じシーンの別アングル撮影でもない。『父親たちの星条旗』が,原作が存在する実話なのに対して,こちらはオリジナル脚本によるフィクションである。
 日本では前作と同じ映画館で連続公開される。それも太平洋戦争開戦日に近い12月9日だというのに,アメリカでは来年の2月9日まで日の目を見ない[注]。第1作で日本人兵士の登場シーンはごく僅かであったのと同様,この映画で米軍兵士の登場シーンは僅かだ。99%日本語のセリフなので,米国では全くヒットしないと見たのか,それとも1作目がアカデミー賞ノミネート(1月下旬予定)される時期を狙っての公開作戦なのだろうか。
 原作ではないが,『「玉砕総指揮官」の絵手紙』(小学館文庫)なる本がヒントになっている。1920年から30年代にかけて武官としてアメリカ駐在していた栗林忠道中将が家族に宛てた手書きのイラスト入りの書簡集である。きっと硫黄島でも書き綴っていたに違いない。彼の絵手紙を含む数百通が,戦後60年経って地中から掘り返されるとの想定に基づいている。
 この国際通の日本人指揮官を,『ラスト サムライ』(04年1月号)『バットマン ビギンズ』(05年7月号)『SAYURI』(06年1月号)の渡辺謙が演じる。もはや堂々たる国際スターだ。もう1人の実在の人物,ロサンジェルス五輪の金メダリストで硫黄島に散った「バロン西」を『半落ち』(04)の伊原剛志が演じる。その他,栗林中将に反発する伊藤中尉に中村獅童,若い兵士・西郷に二宮和也,元憲兵の新米兵士・清水に加瀬亮を配している。これもイーストウッド監督が選んだのか,いいキャスティングだ。テレビで人気の若手俳優を使わないと客は来ないなどと考えているから,ロクでもない映画しか作れない邦画界は,少し見習うべきだろう。
 よくぞここまで日本人らしい日本人兵士像を描けたものだ。本当に,これを外国人監督が演出したのかと驚く。名脚本家のポール・ハギスを助けて脚本を書いたのは日系アメリカ人女性のアイリス・ヤマシタで,これが初の映画脚本執筆だという。登場人物の子孫や硫黄島協会の取材協力があったとはいえ,見事な脚本だ。後半のシーンでは,何度も上手いなと監督の演出の冴えも感じた。
 日本人将校がアメリカ人捕虜の傷の治療を命じ,投降し捕虜となった日本人兵士をアメリカ軍が射殺するという描写にも驚いた。これまでアメリカ映画が日本軍をこんな描き方をしたことはなかった。何というフェアプレーだ。監督・製作のクリント・イーストウッドのこの2作の企画意図は,アメリカ人兵士も日本人兵士も気持ちは同じという一点に尽きる。それは理解しても『父親たち…』の兵士達にはそれほど感情移入できなかった。本作品の方が数段優れていると感じるのは,我々が日本人だからなのか,それとも脚本の質の差なのだろうか。
 生きて帰ることを絶望視された将校や兵士を中心に描いていながら,戦闘シーンの迫力はすごい。さすがハリウッドだ。細部のリアルさはこれまでのどの戦争映画にも勝っている。手榴弾での自爆シーンには息を飲む。トーチカに向けての火炎放射や,火だるまになる兵士のリアルさにも驚く。当時の無線機やそこから流れる内地からの激励の歌まで,描写のきめ細やかさに感心する。
 前号では「摺鉢山はほとんどCG製」と書いたが,この映画の冒頭では明らかに現地ロケの本物だ(写真1)。前半1/3はCG/VFXとは無縁のシーンが展開するが,敵機襲来,爆撃とともに一気に迫力が増し,視覚効果の活躍の場となる。洋上の800隻の艦隊,空を飛ぶ大編隊は勿論CG製で,空爆を受ける摺鉢山は既にデジタル技術の産物にすり替わっている。上陸する多数の兵や輸送船のVFX合成などは前作でも観た光景だ。分量的には第1作目よりもぐっと少ないのだが,印象深さではむしろ上だ。突如目の当たりにしたアメリカ軍の物量の圧倒的な存在感を,VFXが見事に表現している。その威容への敗北感は日本人兵士共通の思いであり,映画の観客もまたこの映像を観てアメリカの実力を再認識する。
 前号では書き忘れたが,現代のシーンを除いて,極めて彩度の低いモノトーン調の映像がほぼ全編で貫かれている。日章旗や襟章の赤が僅かに見える程度である。もちろん,撮影したフィルムをデジタル化し,それを画像処理で階調変換できるゆえの技である。第1作以上にこの微妙な着色の具合は,太平洋戦争末期の日本軍の心の色を表わしているかのように感じられた。  

 
     
 
 
 
写真1 摺鉢山も最初は硫黄島での実写(左)だったが,米軍上陸シーンはアイスランドで撮影しCGを合成(右)
(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. and DreamWorks L. L. C.
 
   
 

 [注]
 その後,急遽繰り上がり,僅か5館の限定公開ながら12月20日に米国公開さ れて,2月始めには720スクリーンにまで増えている。この映画の方が評判が良 く,『父親たちの星条旗』よりも賞が狙えると判断されたためだ。その結果, ゴールデングローブ賞では,見事最優秀外国語映画賞に輝き,お目当てのアカ デミー賞では「作品賞」にノミネートされるところとなった。
 早くから,この映画の方が出来がいいと喝破し,大声でそう述べて来た立場 としてはわが意を得たりであり,いい気分である。  

 
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