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O plus E誌 2020年7・8月号掲載
 
 
『アップロード 〜デジタルなあの世へようこそ
(アマゾン・スタジオ )
      (C) Amazon Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月1日よりAmazonプライム・ビデオにて独占配信中]   2020年7月2日 全10話ネット観賞完了
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  軽快なSFコメディで,近未来社会の描写が楽しめる  
  さすがに本号でも,もう1本劇場公開のVFX大作を用意することは出来なかった。40年の歴史をもつVFXの専門誌Cinefexも,最新号(no. 171,2020年6月号)の内容は,すべてネット配信かTV放映のシリーズ作品となってしまった。当欄の前号で紹介した『ザ・ボーイズ』(20年5・6月号)はその1本である。
 こうした空白期を埋めるTVシリーズの中から,格好の番組があった。5月初めからAmazonプライムで配信されている本作である。エピソード数は定番の全10回であるが,初回が46分,残る9話が24〜32分と短尺だったので,一気に見終えてしまった。
 一般用語の「アップロード(upload)」「ダウンロード (download)」は計算機分野で好んで使われる言葉で,上流ノードと下流ノード間のデータ転送に使われる。古くは主記憶と補助記憶,センターと端末,サーバーとクライアント間で用いられて来たが,最近はWebサイトやFacebook等に情報掲載する場合に「アップロード」,クラウドからデータやアプリを入手する場合に「ダウンロード」がよく使われている。
 本作での「アップロード」は瀕死の人間から意識と記憶を抽出し,デジタル的に生成した死後の世界に転生させることを指している。言わば,VR空間での天国だが,初期費用と維持費用によって,住める世界とそこでの待遇が違う。現実世界の人間とはしかるべき手段でいつでも会話できる。近未来の2033年にはこれが実現されているが,現実世界に復帰する逆操作の「ダウンロード」はまだ実現していないという設定だ。
 第1話がとてつもなく面白く,ワクワクした。その後のエピソードは,この死後の世界での出来事と主人公のラブストーリーを交えた連続ドラマになっている。最終話のラストが物足りないが,これはシリーズ2に繋げることを意識してのものだろう。
 監督・脚本はTVシリーズの常道で,各回で異なるが,原案のグレッグ・ダニエルズが多くの回を担当している。TV業界で活躍してきた脚本家のようだ。主演は,交通事故で早死にしたネイサンを演じるロビー・アメル。トム・クルーズによく似たカナダ人俳優である。彼の富豪の恋人イングリッド役はアレグラ・エドワーズで,彼女は強いて言えば,ハーレイ・クインのマーゴット・ロビーに似ている。ネイサンの恋のお相手は,アップロード世界のお世話係のノラで,シンガーソングライターのアンディ・アローが演じている。エキゾチックな美人で,本作で一気にブレイクすることだろう。
 ネイサンがアップロードされたのは,ホライズン社が経営する憧れのVRリゾートホテルの「レイクビュー」で,転生された当人も「アップロード」と呼ばれ,運営会社のお世話係は「エンジェル」と呼ばれている。
 以下,近未来描写とVFXに関する当欄の評価である。
 ■ 第1話で2033年の社会の勤務形態や日常生活が描かれている。見どころは,高速道路走行の様子で,実写の光景の中に卵形の自動運転車が多数走っている(写真1)。近未来のシンボル的存在で分かりやすいデザインだ(写真2)。社内にハンドルやブレーキはなく,利用者(運転者?)は運転せず,ゲームパッドやキーボード操作を行っている(写真3)。車内専用のAIエージェントがいて,彼と会話している。スピード違反取締りの警察はドローンで追跡して来て,フロントガラスに婦人警官が映る。バイクも自動運転であり,人間は特殊シューズを履いて仮想ダンスを愉しめる。かなり快適そうな近未来だ。
 
 
 
 
 
写真1 2033年のフリーウェイ走行。卵型の小型車が移動運転車輌。  
 
 
 
 
 
写真2 実物大のスケルトン・モデルを使って,こんな風に撮影している  
 
 
 
 
 
写真3 車内にハンドルはなく,両手は好きに使っている
 
 
  ■ 瀕死の人間に契約書に署名させ,アップロードさせる手順も面白い。アップロードされた人間はCGモデル化され,記憶もコピーされたアバターとして存在する(写真4)。現実世界からVR世界に登場する人間もある種のアバターだ。レイクビュー・ホテルは部屋からの景観も好きな季節を選べる。ホテル内の各種サービスや従業員の振舞いも,なるほどVR世界と思わせるもので楽しい。
 
 
 
 
 
写真4 本人の写真を使ってアバターを作成,記憶を埋め込んでアップロードする
 
 
  ■ 近未来の情報機器で出色なのは,親指,人差指をL字にすると出現する携帯電話画面だ(写真5)。こんな薄いホログラム端末は簡単に実現できないが,頻出するので,あると便利だなと感じてしまう。ホライズン社の社内は特筆するほどではないが,ノラが自宅で使っているノートPCはキーボードだけ存在し,モニター画面はやはり宙に浮いていた(写真6)。HMDはやや武骨だったが,これは意図的だろう。バーチャルセックス用のスーツは,VR黎明期のデータスーツを思い出した。
 
 
 
 
 
写真5 指をL字にすると薄型携帯画面が現れる。これは手軽で欲しくなる。
 
 
 
 
 
写真6 ノートPCの画面も宙に浮いているホログラム・ディスプレイ
 
 
  ■ SF映画にはディストピアものが多いが,こうした軽いタッチのSFコメディも楽しい。技術レベルは高くないが,それに応じたCG/VFXも随所で登場する。VR世界の中央コンピュータがハングした時,人も馬も四角いボックスになったのには笑った(写真7)。各種VR世界を模擬体験するシステムは,AR(拡張現実)でなくIRと呼ばれていた。何の略かは分からない。オフィスの壁が透明になり,空中浮遊して仮想世界を上空から体験できる仕掛けのようだ(写真8)。本作のCG/VFXの担当はFuse FX社1社で,TVシリーズなら,技術レベルはまあこんなものだろう。
 
 
 
 
 
写真7 中央制御装置の不調で,人も馬も四角になってしまう
 
 
 
 
 
写真8 IPでは,部屋の壁が透明になり,仮想世界上空に移動する
(C) Amazon Studios
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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