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O plus E 2020年Webページ専用記事#4
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『オールド・ガード』:今月もまずNetflixオリジナル作品から取り上げよう。7月10日から世界中に独占配信中のスーパーヒーロー映画だ。原作は同名のグラフィックノベルで,「オールド・ガード」は不死身の戦士たちの集団名である。喉を切られようが,何発銃弾を受けようが,たちまち傷1つない身体に回復する治癒力をもつ超能力者たちで,何世紀もの間生きていて,秘密裏に人々を助ける活動を続けているという設定だ。であれば,CG/VFX満載の大作かと期待したが,残念ながら普通の実写映画レベルだった。主演は女性リーダーのアンディを演じるシャーリーズ・セロンで,製作陣にも名を連ねている。当欄で最初に彼女を取り上げたのは『ノイズ』(00年2月号)で,ジョニー・デップの妻役だった。誰でも演じられそうな役で,特別な印象はなかった。可憐で繊細な美女から,オスカー女優となった『モンスター』(03)での汚れ役を経由し,最近はクールでタフな戦う女性役がよく似合う。年齢とともに変身・成長した女優の成功例だと言えよう。他の超能力者達を演じるのは,マティアス・スーナールツ,マーワン・ケンザリ,ルカ・マリネッリ,キキ・レインらだが,殆ど馴染みがない。物語は,彼らの不死身の姿を映像に収めようとした元CIA工作員の策略にはまるところから始まる。同等の能力を得た新人が出現した時に,彼らはそれを察知できる。何世紀も前の歴史上の出来事に彼らが関与していたというエピソードは,西洋史に通暁していれば一段と興味が増すだろう。彼らは永遠に不死身ではなく,ある時点からこの治癒能力が失われることがあると判明した時から,物語は一気に複雑さを増す。男女間のラブはないが,男同士の恋愛感情があるのは,最近のLGBT映画の味付けだ。単なるアクションだけでなく,超能力者の心の葛藤も描いているが,悪人の描写が類型的過ぎるのが本作の欠点と言えよう。監督は『リリィ,はちみつ色の秘密』(09年4月号)の女性監督ジーナ・プリンス=バイスウッドで,原作者のグレッグ・ルッカが脚本・製作総指揮を担当している。
 『ソワレ』:「ソワレ」は「マチネ」の対語であり,演劇や演奏会では,それぞれ「夜の部」「昼の部」に相当している。舞台用語とだけ思っていたが,フランス語で単に「日没後の時間」の意味であると,今回初めて知った。若い男女の逃避行を描いた本作では,夜間のコインランドリーや浜辺等で2人が会話を交わすシーンが何度か登場する。豊原功補,小泉今日子,外山文治監督らが立ち上げた映画制作会社・新世界合同会社の第1回プロデュース作品であり,なかなかの意欲作である。俳優を志すが,芽が出ず,オレオレ詐欺まで働くダメ青年の翔太を演じるのは村上虹郎だ。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(17年10月号)『ハナレイ・ベイ』(18年9・10月号)『楽園』(19年9・10月号)等の助演が印象に残っている。若手の中で,不思議に記憶に残る男優である。彼が故郷の和歌山に戻り,高齢者施設で出会った女性がタカラで,新星・芋生悠がこのヒロイン役に抜擢されている。さほど美形ではないが,深い影を引きずるこの難役を存在感たっぷりに演じている。ある夜,タカラを誘いに行った翔太は,刑務所帰りの父親に暴行されている現場に遭遇する,そして,父を刺してしまったタカラと連れ立ち,警察の捜査をかい潜る逃避行に突き進んでしまう……。サスペンスタッチのクライムムービーではなく,単なるラブストーリーでもないが,強いて言えば,先の読めないロード厶—ビーに属する。「微妙な関係のこの2人は,この先一体どうなるのだろう?」という思いにさせてくれる。ラストシーンは,詳しく書く訳に行かないが,思いがけない2人の接点を見せてくれる。筆者はしばらくその意味が分からなかった。幸い「オンライン試写」であったので,何度かそのシーンの前後を反復して熟視してしまった。
 『行き止まりの世界に生まれて』:題名だけで,閉塞感漂う社会を描いたインデペンデント系映画だと想像できる。良作を数多く見出してくる配給元のビターズ・エンドの眼力を信用して,多少の暗さは我慢するつもりだったが,アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門のノミネート作であり,エミー賞受賞作とのことである。「ラストベルト」と言われる米国の地盤低下都市の中でも,最も惨めな都市のNo.3のイリノイ州ロックフォードが舞台だ。3人の青年とその家族の12年間を撮り溜めた実録映像が編集されている。すべて実話となると,暗さも本物だ。なるほど,ここに住む人々の大半は,未来がなく,やるせない。家族とそりが合わない孤独な黒人青年のキアー,自堕落でダメ男の白人のザック,母が再婚した中国人のビン,スケートボードで知りあった3人が,必死でもがいて生きている様が活写されている。DV,差別,雇用問題等々,米国の社会的病巣は映画で何度も目にするが,ドキュメンタリーとなると生々しさも格別である。大きな感激や感動はないが,観客の1人1人が何かを感じるはずだ。自分に照らすのか,哀れみなのか,社会への憤りなのかは人それぞれだろう。少し心が癒されるのは,ザックの息子エリオットが成長して行く様子だ。大きな救いはないが,ラストで何か少しだけほっとする。この記録を取り続け,映画監督になったビンの今後の活躍に注目したい。
 『mid90s ミッドナインティーズ』:同じく米国の低所得者層の少年・青年たちを描いた青春映画で,本作にもスケボーが登場する。こちらはフィクションで,1990年代半ばのロサンゼルスが舞台だ。音楽プレーヤーの主流はディスクマンで,まだiPodもスマホもなかった時代だった。主人公は13歳の少年スティーヴィー(サニー・スリッチ)で,彼が交流する年長者の青年4人組も17, 8歳であるから,平均年齢は上記の『行き止まりの…』よりも若い。シングルマザーの家庭で,男2人兄弟だが,何もやっても兄イアン(ルーカス・ヘッジズ)に勝てないスティーヴィーが,不良のスケボー・グループに憧れ,自らその一員となることでアイデンティティを見出そうとする心境がよく描けている。喫煙,飲酒,ドラッグ,セックス……に溺れる様は,さして悪ではないが,クズの手前の底辺層の日常だ。監督・脚本は,『マネーボール』(11年11月号)『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)の助演で注目を集めた男優のジョナ・ヒル。特に90年代に限定する必要はなく,典型的な青春の1コマに思えたが,LA出身でこの時代に思春期を送った監督にとっては,想い出深く,描きたかった時代風景なのだろう。これが初監督作品だが,いい才能だ。俳優としての演技力も増しているが,監督として化ける可能性も大だと感じた。この映画では,音楽が大きな役割を占めている。残念ながら,公式のサントラ盤には,Trent Reznor とAtticus Rossが担当したオリジナルスコアのピアノ曲4曲しか収録されていない。他にも時代を象徴するロック,軽快なポップス,若者の主張をピップホップが映画に寄り添っていて,エンドロールでは25曲がクレジットされていた。特に秀逸だったのは,黒人青年のレイとスティーヴィーが黄昏時にゆったりとスケボーを楽しむシーンで流れる歌唱曲(曲名不明)で,映像も音楽も美しかった。
 『宇宙でいちばんあかるい屋根』:ほのぼのとした映画だ。原作は野中ともそ作の同名青春ファンタジー小説で,時代は2005年になっている。主演は,中学3年生の「大石つばめ」役の美少女・清原果耶。いま多数のTV番組,映画に登場する売れっ子女優で,来年のNHK朝ドラの主役だそうだ。対するは,ビルの屋上に出没する不思議な老婆「星ばあ」を演じる桃井かおり。筆者らの年代には,「翔んでる女優」として存在感があった彼女が,もう老女を演じる年齢なのかと感慨深い。もっと奇抜な怪演を期待したのだが,ほどほどの抑え気味演技だったのは,この映画全体のトーンに合わせたためか。悪くはないのだが,故・樹木希林が演じていたら,もっと似合っていただろうと感じた。ファンタジー要素を除いては,何てことのない青春ラブストーリーと家族の日常を描いた平凡な物語だ(中盤に少し事故はあるが)。それでも,これだけの美少女は,見ていて気持ちがいい。制服姿がよく似合い,ずっと見守りたくなる。劇中の空中浮遊やクラゲはCG/VFXで,屋上シーンは単純な背景合成だろう。心地よさの1つの要因は,不愉快な若者言葉や,怒鳴り合いがなかったからだ。ラストは2020年のシーンだが,主人公は姿を見せない。さすがに,この美少女を15歳老けて登場させるのは無理だったのだろう。監督・脚本は,『新聞記者』(19)で日本アカデミー賞最優秀作品賞を得て大ブレークした藤井道人。その受賞後第1作で,これだけ異質の作品をこなすとは,この先が楽しみだ。
 『東京バタフライ』:邦画が続く。音楽映画で,挫折を乗り越え,別の人生を生きようとする4人組(女性1人,男性3人)の青春ヒューマンドラマだ。全員22歳の学生バンド「スコア」が,本格デビュー寸前に解散する。その6年後の彼らの生き方を描いている。紅一点の主演は,シンガーソングライターの白波多カミン。「京都のアンダーグラウンド女王」と呼ばれているそうだ。これが映画初主演だが,いかにも素人くさい。勿論,リードヴォーカルとして,自作曲を劇中でも歌っている。他の3人は,水石亜飛夢,小林竜樹,黒住尚生。彼らはプロの俳優だが,メジャーな存在ではないので,全員揃って素人バンドらしい雰囲気を漂わせている。緩やかに進行する物語で,こちらも最近の若者映画定番の怒鳴り合いがない。6年後の4人の職業も描かれる光景も現代風だが,まるで1970年代の若者を描いているような感覚に浸れる。メンバーの男同士の会話も,知人,友人,見守る人々も昔くさい。脚本がいい,演出もいい。監督・佐近圭太郎はこれが長編デビュー作だが,まだ30歳とは思えない達者な演出だ。上記3作の監督とは出自は違えど,次回作以降も注目しておきたい監督としては同じだ。
 『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』:フランス映画で,監督・脚本は大ヒット作『最強のふたり』(12年9月号)のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュのコンビだ。心優しい感動の物語の中に,ユーモアが込められている点では本作も同じだが,物語が進行するに連れ,頭が下る思いと腹立たしい思いが募ってくる。監督の演出や出演者たちの演技に対してではなく,頭が下るのは主人公の男性2人の信念と志の高さに対してであり,腹立たしいのはフランス政府の小役人たちの言動に対してである。障害者と介護人が登場するのは『最強のふたり』に似ているが,だいぶ設定が違う。主人公は,他施設が見放した自閉症児を受け容れてケアする「正義の声」を経営するブリュノ(ヴァンサン・カッセル)で,親友のマリク(レダ・カテブ)は社会からドロップアウトした青少年の独立を支援する団体「寄港」を営んでいる。マリクが派遣する若者たちが介護スタッフとして「正義の声」で働いているが,施設は無認可で赤字経営,スタッフは無資格であるため,社会問題総合監察局の検査官が調査に乗り出し,施設閉鎖の危機に直面することになる……。まさに副題通りの実話であり,実際の自閉症児たちが多数起用されている。名優2人は,モデルとなった実在の人物2人と密着し,施設にも訪れて役作りに専念したという。注目すべきは,これまで癖のある人物,嫌味な人物を演じれば一級で,個性的な悪人役が似合ったV・カッセルの演技だ。これほど穏やかな表情で,優しい態度で自閉症児たちに接する役柄は,今までの彼の印象とはかけ離れている。実力俳優ならこの程度の人物造形は当然なのかも知れないが,あまりの落差に感心し,それが感動度を倍加させている。強いて難を言えば,この映画の邦題が感心しない。原題の『Hors Normes』は「規格外」を意味しているが,英題の『The Specials』をカタカナにして使うと,安っぽく,この映画のもつ味わいを損なっていると感じた。
 
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