O plus E VFX映画時評 2024年1月号

『アクアマン/失われた王国』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[1月12日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]

(C)2023 Warner Bros. Ent. TM & (C)DC


2024年1月15日 TOHOシネマズ二条

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


DCEU最終作は驚くべき宣伝文句で, これじゃこの映画が浮かばれない

 DCEU15作目にして最終作である。当欄ではもはや言うまでもないだろうが,マーベルコミックの「アベンジャーズ」を中心としたフランチャイズMCUに対抗して,「ジャスティス・リーグ」を中心に「DC Extended Universe」と名乗った映画群なのはいいが,製作方針は迷走気味で,興行収益も冴えなかった(当欄では,結構褒めたのだが)。新たなDCU (DC Universe)がスタートするというので,何だろうと思ったが,製作担当首脳陣を一新して取り組む新フランチャイズ名に過ぎないようだ。即ち,メジャー配給会社ワーナー・ブラザースの社内態勢のご都合に過ぎない。既にDCUの最初の10本の計画が発表されているが,スーパーマン俳優を刷新した『スーパーマン:レガシー』(2025年7月公開予定)以外は,どんな映画になるのかよく分からない。それでも,全体的に飽きられつつあるアメコミ実写映画が面白くなるなら,それでいいのだが…。
 気になるのは, DCEUの店仕舞いは適当に済まそうとしている態度だ。配給ルートは公開形態や広報宣伝を真面目にやる気があるのかと疑う情況である。DECU14作目『ブルービートル』は,日本国内で劇場公開せず,ネット配信とBlu-ray/DVD販売に直行してしまった。本作も完成披露試写/マスコミ試写がなく,映画館での公開まで待たざるを得なかった(よって,紹介が遅れた)。既にSNS上で「思ったよりも面白かった」という投稿があるが,筆者も全く同意見だ。内容的には,娯楽映画として十分見応えがある。当欄の看板であるCG/VFXも質・量共に申し分ない。それなのに,相応の広報宣伝がなされず,興行的にも失敗するなら,格安コストで酷使されたCGアーティストたちが不憫ではないか。かくして,少し異例の小見出しを冠したように,当欄では徹底してこの映画の応援に回ることを宣言しておく。
 そもそも映画の宣伝には,著名人の感激の言葉が並び,新聞や雑誌での映画評の都合の良い部分が切り出されていることは,誰でも知っている。60年以上前からずっとそうだ。その上に配給会社は,パンチのあるセールスコピーを連発して来る。そう分かっていながら,本作の広報宣伝には驚き,かつ呆れ返った。手元に届いたプレス資料の冒頭には,



とあるではないか。予告編映像の冒頭は前作が加わり,



である。宜しい,前作同様の立派な「海中アクション・エンターテイメント」であることは素直に認めよう。それを実現したのが,前作『アクアマン』(19年1・2月号)の監督・主演コンビの続投であることは何の不思議もなく,監督交替でないのが幸いである。問題は,何でここに『ワイルド・スピード』が出て来るのかだ。J・ワン監督を紹介するのにも,『ワイスピ』シリーズの監督であることが強調されている。米国版予告編では,こんな紹介文句は登場しない。
 この2人は,同シリーズでタッグなど組んでいない。J・ワン監督がメガホンをとったのは,シリーズのメインライン10作中の第7作『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15年5月号)であり,J・モモアが敵役として登場したのは最新の第10作『同/ファイヤーブースト』(23年5月号)である。8年も間が空いているし,別監督のメガホンでの脇役に過ぎない。そもそも『ワイスピ』シリーズは「ユニバーサル映画」であり,国内配給が東宝東和であるのに,大手ワーナーがライバル他社のヒットシリーズを持ち出すとは,どういう了見なのか? J・ワン監督のストーリーテラーぶりを宣伝するなら,ワーナー配給の『死霊館』シリーズなる堂々たるヒット作があるではないか!  
 もっとも,映画本編中の会話では,パロディでMCUの人気キャラの名前や『ハリポタ』シリーズ中の作品名が登場する。これらは洒落っ気であるから,上記の筆者の嘆きとは質が違う。


VFXも良質&大量で,もっと高く評価されるべき映画

 では,アクアマンたちの応援団として,本作の位置づけ,内容,CG/VFXの見どころを眺めてみよう。

【DCEUでの位置づけとアクアマンの魅力】
 アクアマン単独主演の映画としては,これがまだ2作目である。もっと沢山見た気になっているのは,先にDCコミックのスーパーヒーロー軍団形成の『ジャスティス・リーグ』(17年12月号)があったからだ。スーパーマン,バットマン,ワンダーウーマンに加えて,フラッシュ,アクアマン,サイボーグが登場していた。軍団が先で単独主演作が後というのは,フラッシュも同じだし,MCUでは『アベンジャーズ』シリーズ4作の後で『ブラック・ウィドウ』(21年7・8月号)をリリースしている。
 J・モモアがアクアマンを演じるのが6作目と広報されている。これは間違いではないが,誇大広告過ぎる。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16)でのフラッシュ,アクアマン,サイボーグの3人は次作のためのカメオ出演で,セリフすらない。『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(21)は,上記の後出しの拡張版であるから,その中で登場しているのは当り前で,オリジナルではない。『ザ・フラッシュ』(23年6月号)ではポストクレジットで顔出ししているだけで,名前はクレジットされていない。よって,実質的な出演作はまだ3作目なのである。
 それなのに,抜群の存在感と人気があるのは,大きく2つの理由があると思われる。1つは,灯台守である人間のトム・カリー(テムエラ・モリソン)と海底王国アトランティスの女王アトランナの間に生まれた混血児アーサーであり,水陸両用のスーパーヒーローであることだ。このため,陸上でジャスティス・リーグに加わることができるし,いざという危機には,世界中の5億の水中生物を動員できる誠に好都合な存在である。MCUには水陸両用のヒーローは見当たらない。スーパーヒーローとしての能力がユニークかつ卓抜しているのが大きな魅力なのである。
 もう1つは,演じるジェイソン・モモアが飛び切り個性的で,パワフルで,この点でも一際目立つ存在だからである。他社の『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』は敵役の脇役に過ぎなかったが,抜群の存在感であった。彼が後編の次作にも登場することは確実であるから,上記の宣伝文句に入れたくなったのだろう。「アクアマン」自体は紙媒体のDCコミックで昔から存在するキャラクターであり,コミック版の「ジャスティス・リーグ」のメンバーでもある。それが実写映画のDCEUシリーズで,ガル・ガドット演じる「ワンダーウーマン」とJ・モモア演じるこの「アクアマン」が出色のキャスティングであり,見事なハマり役であったと言える。フランチャイズがDCUになっても,この2人を引き続き起用してもらいたいものだ。  前作『アクアマン』の冒頭の時代設定で,1985年で父のトムが母の女王アトランナを海岸で見つけることから物語は始まる。その後,9歳,13歳,16歳のアーサー・カリーも登場するので,『ジャスティス・リーグ』の前日譚とされていた。しかし,物語の大半を占める大人になってからのアーサーは,映画公開年の2018年には32歳ということになり,既に「ジャスティス・リーグ」に参加していたかどうかは明確にされていなかった。この映画の敵役は,異父弟の新国王オーム(パトリック・ウィルソン)で,地上人を殺そうとするオームの同盟軍に対して,海の生物と会話できる力を得てアクアマンとなったアーサーとの戦いが描かれていた。最終的には,オームに勝利し,アーサーがアトランティスの真の王となったことで物語は終わる。

【本作の展開と登場人物】
 本作は前作の正統な続編で,4年後の設定であり,映画の公開間隔と同じだ。物語の随所で既に「ジャスティス・リーグ」の一員であるかのような言動があるが,ワンダーウーマンやフラッシュ等は登場しない。登場人物の殆どが前作からの継続である。敵役はブラックマンタことディビット・ケイン(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世)で,海賊であった父をアクアマンに殺されたことから,逆恨みしてアーサーへの復讐を誓うことが,前作の終わりで語られていた。本作ではその予告通り,そっくりそのまま敵役として登場する。このブラックマンタのスーツが笑えてくる(写真1)。まるでハサミのないバルタン星人だ(少し目は大きいが)。中に人が入って着ぐるみ姿でウルトラマンの戦うレトロな怪獣を思い出す。


写真1 (左)少し滑稽に感じるレトロなルックス,(右)これが悪役の素顔と三叉槍

 全くの新登場は,4年間の間にアーサーとメラ(アンバー・ハード)の間に生まれた赤子のアーサー・ジュニアと終盤登場する失われた王国の支配者コーダックスくらいだ。トム,アーサー,メラ,ジュニアのカリー一家はトムの灯台内に住んでいて,アーサーがジュニアを可愛がる日常風景は,思わず「いいね!」と言いたくなる微笑ましさであった。ジュニアは乳児にして,魚と会話できる能力を備えている。そこから始まる本作の大きな流れは以下の通りである。
 ①アーサーと海底国ゼベラの王女であったメラが結婚してのカリー一家の日常生活も,海の王国アトランティスも平穏無事だった。
 ②アクアマンへの復讐を誓うブラックマンタは,ある日失われた王国に伝わる古代兵器ブラック・トライデントの存在を知り,それを復活させるため,アトランティスを攻撃し,希少金属の「オリカルクム」を得る。一旦彼を退けたが,オリカルクムのパワーで地球の気候変動が起きてしまう。
 ③アトランティスの緊急評議会が開かれたが,解決策はなく,アーサーは弟オームの力を借りて戦うしかないと判断する。サハラ砂漠の地下の「砂海王国」の牢獄に収監されていたオームを脱獄させ,説得して協力を取り付ける。
 ④2人はブラックマンタの居所を探るため,海賊たちの溜まり場に出かけ,南太平洋の火山島に彼の隠れ家があることを知る。そこに乗り込んでオリカラクムの貯蔵庫や武器庫を突き止めるが,ブラックマンタは取り逃がしてしまった。
 ⑤ブラックマンタは灯台を焼き,アーサー・ジュニアを誘拐し,失われた王国ネクラスがある南極の氷河に向かう。アーサーとオームもそれを追い,ネクラス宮殿でのブラック・トライデントを巡る攻防となる……。
 前作で宿敵であったオームは本作では善人であり,異母兄アーサーとはすっかりバデイ関係になる(写真2)。何やらご都合主義で,虫のいい物語に思えるが,J・ワン監督が『死霊館』シリーズのキーパーソンであるパトリック・ウィルソンを起用していることからも,続編はこの形にし,ブラックマンタが敵役になることが既定路線だったのだろう。2人の母で元女王アトランナ役のニコール・キッドマンが何度も登場するが,相変わらず美しく,存在感も大きい。2人の母とは思えぬ若さだ。現実には,N・キッドマン56歳,J・モモア44歳,P・ウィルソン50歳であるから,兄弟の年齢は逆転しているし,母子の年齢差ではないから,今も若く見えるのも無理はない。


写真2 前作の宿敵がすっかり仲直り(左:弟のオーム,右:兄のアーサー)

 全編で戦っているように思えるが,随所で息抜きがあり,さすがJ・ワン監督の緩急のつけ方は見事だと感じる。その半面,登場人物に新鮮さがないので,新登場人物を豪華にするか,ワンダーウーマンを登場させて欲しかったところだ。そうできなかったのは,DCEUの幕引きだったからだろう。であれば,上映時間124分は少し長めなので,物語は④までで留め,展開をややゆったりにして,100分強程度にまとめた方が見やすかったと思う。
 余談だが,よく間違われるので注意しておこう。MCUの『ガーディアンズ・オブ・キャラクシー』シリーズ,DCEUの『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党, 集結』(21年Web専用#4)の監督・脚本で高く評価され,DCU企画の総帥に抜擢されたのはジュームズ・“ガン”であり,本作の監督はジェームズ・“ワン”である。

【衣装・美術セットとキャラクターデザイン】
 ■ まず何といっても目につくのは,アクアマンの新しい金ぴかのスーツだ。上半身の金色部分にも,下半身の緑色の部分にも数え切れないほどの鱗がついていて,それを1つずつ制作して取り付けるのに3人で3ヶ月かかったという(写真3)。王として着座する時も,敵と戦う時も,地上の人間社会と交流の挨拶の席でも着用しているので,これが正装ということになる。もっとも,敵地に向かう中では,ステルス機能をもつ別のスーツを身に着けている(写真4)。③の評議会会場のデザインは古風で,参加者各人の風体も衣装もなかなかユニークだった。アトランナの衣装には虹色に輝く1,100枚の鱗を付し,メラのボレロは貝殻の装飾で,金箔が施されている。ネセウス王のアンダースーツやコーダックスの鎧の等々,衣装デザインにはかなりの労力がかっていると思われる。


写真3 多数の鱗つきの新しい金色&緑色のスーツがアクアマンの正装

写真4 敵地への潜入時にはステルス機能のある別の服で

【CG/VFXの利用場面と出来映え】
 ■ キャラクターデザインに移ろう。米国では2023年のXmas公開だが,日本で年明けの公開であったため,辰年公開が強調されていた。なぜそれほど干支に拘るのかと不思議だったが,アクアマンが乗り物として使っているのが,巨大タツノオトシゴのストームだったからだ(写真5)。海中を移動できるのは勿論,海面上に出ても大きくジャンプできる。一緒に捕まっているのは,タコのトポだ。いずれも前作に登場していたそうだが,記憶にない。出番が少なかったためだろうが,本作では両方ともしっかり目立つ登場の仕方だ。勿論,CG製できちんとモデリングし,見事な動きが付けられている。


写真5 なるほど辰年に相応しく, 空中まで飛翔するタツノオトシゴのストーム

 ■ タコと言えば,ブラックマンタが見つけた古代兵器の「オクトポット」も印象に残るデザインだった(写真6)。名前通り,8本足でタコのような挙動をする水陸両用の乗り物である。当然,CGだと思ったのだが,12人が4ヶ月かけて実物を3体作ったという。1体は内部まで完全に動き,2体目は水中シーン用で,3体目は背景に置かれているだけだという。これが実物だということは,手前にあるオブジェクトも実物だろう。球形の本体は6軸のモーションベースで稼働するが,さすがに大きく足を振り回すシーンでは,足だけもしくは全体もCG製だと思われる。その他も様々な水中生物や陸上生物のクリーチャーが登場するが,その解説は次項に譲る。


写真6 8本足の古代兵器オクトポットは, 実物大で3体を制作

【その他のCG/VFXの見どころ】
 ■ とにかく全編でもの凄い量のVFXシーンだ。海中,地下,地上のシーンが入り乱れるので,いつどこで切り替わったのか注意深く見ていないと分からなくなる。その中で登場する生物や怪獣のデザインにも凝っている。一部は前作からの使い回しもあるだろうが,近くまで迫って来るものは全部新作だろう。写真7は角のある海獣と甲殻類の魔物である。前者はアニマトロニクスでも実現できるが,CGコストが下がった現在,あえて機械式にする理由はない。後者はCGが得意とする造形だが,特筆すべき出来映えではないものの,この種のクリーチャーがいとも簡単に続々と登場することに感慨を思える。写真8は,②でブラックマンタを迎え撃つのに使われたサメ型の水中艇,写真9は③で脱獄したオームを追撃する衛兵が乗る骸骨獣で,CGならでは動きのあるシーンだった。


写真7 水中生物のクリーチャー類が次々と登場

写真8 アトランナやメラが乗って戦うサメ型の水中艇

写真9 脱走したオームを砂漠で追う骸骨獣のジョジョス

 ■ 海の中のシーンで目を見張ったのは,③に登場する海賊や俑兵たちが集う盛り場「深淵の砦」だ。スタジオ内でブルースクリーンをバックに酒場のセットを組み,なるべく猥雑に見えるようCGオブジェクトを描き加えたという(写真10)。この酒場でアーサーとオームがならず者と乱闘するシーンは見ものであった。海中都市の景観も前作以上に細部まで作り込まれ,美しく,光の演出が見事だと感じた(写真11)


写真10 ならず者たちの海中の盛り場は, いかにも猥雑

写真11 海中都市の景観は精細で美しくなり,光の使い方が見事

 ■ ④の火山島のシーンは,野外スタジオに作った人工的なジャングルとハワイの州立公園の自然のジャングルの両方を使っている。煙を噴く火山,マノア渓谷の滝,原生植物はCGで加工しているので,どこまでが実写なのか見分けがつかない(写真12)。巨大化したバッタに襲われるが,それは勿論CGだ。ジャングル奥地のブラックマンタの隠れ家やその周辺は,監督得意のホラー映画風であり,美術班の腕の見せ所だと感じた。


写真12 火山島のジャングルはハワイロケ+VFX加工

 ■ ⑤で登場する7つの王国の1つで,氷で覆われた未知の王国ネクラスは,ブラックシティとも呼ばれていた。言葉の響きからして「根暗」だ。南極の氷河の中にあるという想定だが,さすがに南極の地でアクション演技を撮影する訳には行かないので,南極,グリーンランド,アイスランドをドローン撮影した映像を基に,ネクラス王国を描いている(写真13)。遠景シーンの宮殿はCGだが,建物近くのシーンはセットを作った上での撮影で,ロウで作ったフェイク氷で覆った特殊撮影である。宮殿内のアクションシーンは,基本的に広いセット内での撮影であるが,随所にVFX加工がなされている。


写真13 南極の氷河にある未知の王国ネクラスの宮殿
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM & (C)DC

 ■ 本作のCG/VFXの主担当は老舗ILMで,他にScanline VFX,DNEG,MPCといった一流スタジオでも多数のCGアーティストが参加している。さらにCinesite, Eyeline Studios, Halon Entertainment, Rodeo FX, Clear Angle Studios, Basei等々にも発注されている。プレビズは,ProofとNVIZの2社を起用して実施された。

【総合評価】
 海中が中心なので,必然的にVFXシーンが多いのは当然だが,一流スタジオが複数参加しただけあり,質的にも盤石であった。では,本作が日米同時公開で昨年(2023年)の内に公開されていたなら,当欄はどう評価してかというと,残念ながら「私の選んだ2023年度ベスト5&10」の「総合評価部門」のBest 5には入れなかったと思う。「SFX/VFX技術部門」の順位付けなしの5作品には,他の1本を追い出してでも,本作を入れていたことだろう。いや,VFXの質的には他作品より優れているので,本作を頭1つ抜けた1位にし,他の4本を同時2位に並べていたと思う。
 最も悩んだのは,本作の評点をにするか,に留めるかである。応援に回ると言いながら,評価が中庸の止まりなのは心苦しいし…。散々悩んだ結果,やはり最近の基準ではにはできず,である。10数年以上前なら,CG/VFXの質と量で評価であっただろうが,ハリウッド大作でのVFX多用が当り前になった以上,基準を徐々に変更していることは既にご存知の通りだ。ただし,の範囲はかなり広く,本作は「中の上」であって,MCU第33作の『マーベルズ』(23年11月号)のは「中の下」である。同じくデイズニー配給で期待外れだった『ウィッシュ』(同12月号)も同じく「中の下」だ。宣伝担当者がヨイショした『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』は「中の中」で,本作の方が優れている。
 本作を「上の下」に出来なかったのは,MCUとDCEUが牽引した実写スーパーヒーロー映画の過去10数年全体で総合的に評価したからである。振り返ってみれば,実写+VFXでを与えたのは,2023年はJ・ガン監督の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(23年5月号)の1本だけ,2022年も『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(22年Web専用#1)の1本に過ぎない。スーパーヒーローものの評価が厳しくなっているのだ。本作には何が足りないかと言えば,世界観が少し古い。ただし,安直にマルチバース導入にしなかったのは評価できる。
 また①~⑤まで目まぐるしく移動するものの,ストーリーは単純で,脚本も少し弱い。それを期待以上に楽しく,最後まで飽きさせずに見せてくれたのは,J・ワン監督の腕と素晴らしいビジュアルのお陰だ。その意味では,「中の上」ではあるが,十分入場料分の価値はある。DCEU最終作の出来映えを確認するため,映画館に足を運ぶことをお勧めする。本作が爆発的にヒットしていれば,ゴキブリ(に見える嗜好品)のトッピングつきのチーズバーガーが人気商品になったのだろうが,そうはなりそうにないので,ハンバーガーチェーンは残念に感じていることだろう(笑)。

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