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O plus E 2022年Webページ専用記事#6
 
 
ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』
(アマゾン・スタジオ)
      (C) Amazon Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月2日よりAmazon Prime Videoにて独占配信中]   2022年11月4日 シーズン1(全8話)視聴完了
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  大ヒット作の壮大な前日譚が,ネット配信でスタート  
  コロナ渦で新しいVFX大作が映画館公開されなかった2年前は,止むなくネット配信作品を取り上げて,紙幅を埋めていた。「映画」扱いされる2時間前後の単発作品だけでなく,「TVシリーズ」扱いされている全6〜10話のシリーズ作品も,計6回このメイン欄に登場させた。時間比率的にはVFXシーンは多くないものの,レベルは低くなく,十分語るに足る作品もあったことはご存知の通りである。
 ネット配信市場が増大し,映画業界にとっても力を入れざるを得ない状況になった以上,人気映画の続編もその対象となってきた。契約者の継続視聴が期待できるものは,複数話のTVシリーズ化とする方が投資効率が良く,当然の成り行きとも言える。そう思いながらも,当メイン欄でしばらく取り上げなかったのは,劇場公開の新作映画に追われて,複数話の完結まで観る時間的余裕がなかったからである。無視できないシリーズも登場しているので,年明けの大作欠乏期にかけては,何シリーズか取り上げたいと思う。
 真っ先に取り上げるべきは,映画史に名を残す『ロード・オブ・ザ・リング(以下,LOTRと略す)』3部作(01〜03)の前日譚である本シリーズだ。アカデミー賞視覚効果部門で3作すべてがオスカーを得たのも特筆すべき偉業であり,それがどんなTVドラマシリーズになるのか注目せざるを得ない。加えて,トールキン財団との交渉では, Netflix,HBO,Amazonが競った結果,Amazonが史上最高額の2億5千万ドル(約350億円)で映像化権を得て,5シリーズ製作するという。この点でも注目度は群を抜いている。
 言うまでもなく,映画版『LOTR』の原作は,J・R・R・トールキンが遺した不朽の名作「指輪物語」とその「追補版」だ。前日譚となると,『ホビット』シリーズ3部作があったのではないかと言われそうだが,少し整理しておこう。「指輪物語」の出版は1954年から1955年にかけてであるが,同じトールキンが書いた前日譚の「ホビットの冒険」は1937年の出版である。即ち,物語の中身も出版時期も「ホビットの冒険」⇒「指輪物語」の順なのだが,映画としては後者を基にした『LOTR』3部作が先に製作され,その大ヒットを受けて,10年以上後に前者を基に『ホビット 思いがけない冒険』(13年1月号)『同 竜に奪われた王国』(14年3月号)『同 決戦のゆくえ』(15年1月号)が製作・公開された。いずれも監督はピーター・ジャクソンが務め,当欄では6作すべてに☆☆☆評価を与えている。
 では,新しく始まった本シリーズはというと,両3部作の数千年前の「中つ国第二紀」を舞台にしているという。ちなみにこの「第二紀」というのは,「ジュラ紀」「白亜紀」等の地質時代区分ではなく,トールキンが「指輪物語」の時代背景を語るのに導入した架空の時代区分である。「第一紀」は4902年,「第二紀」は3441年,「第三紀」は3021年続き,「第四紀」の長さは不明とのことだ。主要登場人物が第何紀の何年に,どの国で何をしたかまで,きちんと記述しているというから,壮大な構想力に改めて畏れ入る。「ホビットの冒険」「指輪物語」はいずれも「第三紀」の比較的近い時代の物語であるので,「第二紀」の始まりからスタートする本シリーズは,前日譚といっても遥か昔の出来事ということになる。
 時代区分や国名,種族名がトールキンによって定義され,記述されているとはいえ,詳しい物語が存在する訳ではない。主に「追補版」の記述に基づき,「指輪物語」の中で断片的に語られた過去の出来事の記述と矛盾がないよう,今回新しいオリジナル物語が構築されたと考えてよい。その分,上記2つの3部作よりも,登場人物にもその性格付けにも,自由度が大きい訳である。
 もうここまで語っただけでも,壮大な構想の企画であることが分かるだろう。そのシーズン1には,制作費として4億6,500万ドル(日本円で,約504億円)を投じたと発表されている。これを見逃す訳には行かず,当欄で語らない訳にはいかないこともご理解頂けるだろう。
 
  映画版LOTRファンも満足できる合格点の出来映え  
  シーズン1は全8話で,各話は「過去の影」「漂流」「アダル」「大きな波」「分岐点」「奈落」「目」「合金」と名付けられている。最初の2話が2022年9月2日からネット配信され,10月14日の第8話配信でシーズン1が出揃った。最初の2話配信から24時間以内に,全世界で2,500万人が視聴し,Amazon Prime Video史上の新記録となったそうだ。
 各話はTVシリーズとしてはやや長めの65〜72分で,合計時間は558分である。偶然なのか,意図的なのか,『LOTR』3部作の合計と全く同じで,『ホビット』3部作の計475分よりは長い。ボリューム的にも大作映画3本分を観たことになる。
 監督は,J・A・バヨナ,ウェイン・チェ・イップ,シャーロット・ブランドストームの3人で,それぞれ,2話,4話,2話を担当している,この中で,J・A・バヨナは,当欄で『インポッシブル』(13年6月号)『怪物はささやく』(17年6月号)『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(18年7・8月号)の3本を取り上げている。彼だけが第一線の映画監督で,他の2人はTV分野中心のディレクターのようだ。
 邪悪な冥王モルゴスをエルフが倒して第一紀が終り,少し平和になった第二紀の中つ国から物語は始まる。ただし,エルフと共に戦った人間たちには豊かな国ヌーメノールが与えられ,モルゴスに味方した南方国の人間はエルフに警戒されている。やがて中つ国には,悪の出現の兆候が現われ,『LOTR』に登場した冥王サウロンもその存在が明らかになる。詳しい物語は書き切れないが,希少金属ミスリルから3つの指輪が作られるまでを描いているとだけ言っておこう。多数の登場人物が交錯する群像劇であることは『LOTR』と同じだ。
 その中で,『LOTR』にも登場していた(名前が出ていた)のは,エルフ族の戦士で部隊長のガラドリエルと,半エルフで高官のエルロンドの2名だけである。『LOTR』でケイト・ブランシェットとヒューゴ・ウィーヴィングが演じていた役柄だ。本シリーズでは,それぞれの若き日の姿をモーフィッド・クラークとロバート・アラマヨが演じている。もっとも,若き日といっても数千年前であるが,不老不死のエルフにとっては何でもない時間であり,何千年も経つと多少はルックス的に老けてくるのだと解釈しておこう。
 M・クラークが演じるガラドリエル(写真1)は凛々しくかつ美しく,これならC・ブランシェットが醸し出していた神秘的な美しさに繋がると納得できた。エルロンド役のR・アラマヨはH・ウィーヴィングには全く似ていないが(写真2),物語中では大きな役割を果たしていた。その他で印象に残ったのは,南方国王の血を受け継いだハルブランドで,チャーリー・ヴィッカースが演じている。殆ど無名の男優だが,なかなかのイケメンで,『LOTR』でアラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセンを彷彿とさせる(写真3)。そう意識させようという意図的なキャスティングなのだろう。
 
 
 
 
 
写真1 シリーズ全体を牽引するガラドリエルが凛々しい
 
 
 
 
 写真2 エルロンド役は,H・ウィーヴィングに似ていない   写真3 イケメンのハルブランドは,アラゴルンを彷彿とさせる
 
 
   かくなる設定のもとに制作された本作の出来映えは,映画版『LOTR』のファンの目を満足させることができるものであり,合格点を与えて良いレベルだと感じた。映画版が最高傑作であったため,それより優れていることはないが,期待外れではない。『LOTR』に抱いたイメージ通りに新しい物語を楽しめるのだから,ファンにとってはそれで十分だ。物語は重厚であり,映像も素晴らしく,複数のエピソードが並行して同時進行するのは映画版以上と言える。
 以下,本シリーズに登場するCG/VFXを中心とした論評である。
 ■ シーズン1の全体は,映画版と同様,ニュージーランド・ロケを敢行したという。美しい山々の姿が同じなのだから,それをバックにした戦闘だけで,もう映画版『LOTR』の世界に入った気がする(写真4)。山中のエルフの里の描き方もしかりだ(写真5)。こうしたシーンからして,既にCG/VFXの産物である。戦いの後の死者の兜の山(写真6),炎と化して落下する赤い隕石や落下後の炎(写真7)もCGで描かれている。技術的には平凡だが,第1話「過去の影」からVFXパワー全開の感があり,かなりの製作費をかけた大作であることを印象づけている。
 
 
 
 
 
写真4 大軍ではないが,それでも大半はCG製だろう
 
 
 
 
 
写真5 いかにも山中にあるエルフの里
 
 
 
 
 
写真6 落命した戦士の兜の山。その数に圧倒される。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 上:スタジオ内に作られた隕石の落下跡、下:CG製の炎を合成して仕上げを
   ■ CGで描いたヴィジュアルで,いい出来だと感じたのは,登場する複数の国や都市の描き分けだ。中つ国の他に,ヴァリノール,エレギオン,ドワーフの王国,ヌーメノール,南方国,ロヴァニオン等々が登場するが,その景観や建物は見事にデザインされ,リアリティ高く描かれている(写真8)。模型でこの複雑さは表現できないから,CGのパワーとコストダウンの賜物である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

写真8 上:ガラドリエルの故郷のヴァリノールの景観,中:ドワーフ王国の町,下:海に面したヌーメノール

 
 
   ■ 映画版『LOTR』に比べて,港や海のシーンが多用されている。ヌーメノールは島国であるので,必然的に海のシーンが多くなるが,町の光景はベニスを思い出してしまう(写真9)。中つ国とヌーメノールやヴァリノール間の移動にも船が使われているので,船上のシーンや海上を船が航行するシーンも再三登場する。海のシーンが美しい。高額製作費なので,多数の船を実際に作ったのだろうが,CG制の船を合成したと思しきシーンも多数ある(写真10)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真9 ベニスを思い出すヌーメノールの町。船は本物だが建物の大半はCGで描き加えている。
 
 
 
 
 
 

写真10 この帆船はCGで描いて合成したのだろう

 
 
   ■ 妖怪や怪獣の類いのクリーチャー類は,雪トロル,海の化け物のワーム,醜い獣のワーグ等が登場するが,特筆すべきレベルではなかった(写真11)。この点では映画版『LOTR』の方が遥かに多彩で,デザイン的にも優れていた。担当は映画版と同じWeta社であり,動きの表現にはお得意のMoCapを使っていると思われるが,物語の中で大きなウエイトを占めていないので,さほど力を入れなかったのだろう。それなら,ファンサービスとして,お馴染みのゴラムの先祖に当たる生物を登場させて欲しかったところだ。醜さにかけては,オーク族の醜悪さは相変わらず一級品だが,これは基本的に顔面メイクであり,VFXは使っていないと思われる(写真12)
 
 
 
 
 
 
 

写真11 醜い獣が登場するが,あまり感心しない

 
 
 
 
 
写真12 醜さではオークの特殊メイクの方が上
(C) Amazon Studios
 
 
  ■ 種族的には,エルフ,人間の他に,小人のドワーフ,ハーフットが登場する。このハーフットが,ホビットの先祖ということらしい。隕石の跡から姿を表わす巨人(「よそびと」と呼ばれている)と小人のハーフットの身長差はかなりあるが,カメラ配置やVFX合成を駆使して,それらしく見せている。その一方で,『ホビット 決戦のゆくえ』と同様に,エルフとドワーフの交流シーンで,身長差の表現が破綻しているシーンが目立った。改善されていないのが残念だ。
 ■ CG/VFXシーンの多くは,第1話,第2話に集中していて,中盤から後半はドラマの進行が中心となる。後半では,第6話で,ダムの決壊に始まり,火山の大噴火,火砕流が村を襲うまでの壮大なVFXシーンの連続が圧巻だった。CG/VFXの担当は各話によって少しずつ異なるが,シーズン1全体では,ILM, Weta FX, Method Studios, Cause & FX,DNEG, Rodeo FX, Rising Sun Pictures, Outpost VFX等,多数社が参加している。プレビズ担当は最大手のThe Third Floorで,かなり綿密な事前撮影計画の下にこのVFX大作が制作されたことが感じられた。
 
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