head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
title
 
O plus E誌 2016年4月号掲載
 
 
エクス・マキナ』
(ユニバーサル映画)
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月11日より渋谷シネクイント他にて公開予定]   2016年3月4日 輸入盤Blue-ray Disc観賞
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  今年のオスカー受賞作なのに,日本での公開予定なし  
  当欄始まって以来の,ちょっと異例の掲載作品だ。原題を記したが,『エクス・マキナ』と読むらしい。邦題が未決定なのではなく,日本での配給会社がなく,全く本邦での公開予定がないのである。
 それなのに,なぜ本号のメイン欄で取り上げるかと言えば,先月末の第88回アカデミー賞視覚効果賞の受賞作品だからである。当欄にとって最重要の視覚効果賞部門は,今年は本命不在で,推したい作品もなかったのだが,無理やりの予想も見事に外れた。試写未見どころか,日本で公開予定なしでは当たる訳がないと,Webページには早速愚痴を書いた。むしろ真っ当な言い訳ができたくらいのところに,思いがけず,観る機会を得た。
 授賞式の翌日届いたCinefex誌の2016年2月号には,当初の予告にない,本作のメイキング解説が載っていた。季刊誌であったこのVFX専門誌は,昨年末から隔月刊に転じたばかりだが,1月のオスカー・ノミネートを見て,急遽2月号に短い記事を押し込んだようだ。なるほど,いかにも今風のSF映画で,女性ロボットを描くのに,なかなか魅力的なVFXを駆使している。
 ならば,輸入盤Blu-ray Discを購入して英語で観ようかと思って調べたら,スペイン版には多国語の字幕が有り,日本語もある上に,Amazonですぐ翌日に届くという。そーか,その手があったか! もっと早く気付いていれば,アカデミー賞予想に反映出来たのに,残念だ。
 英国製のSF映画で,最新AIを搭載したロボットが,人間から見て,人間と区別がつかない応答や行動ができるのか,専門用語で言えば「チューリング・テスト」に合格するかどうかというテーマだ。『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(15年3月号)の主人公A・チューリングの提唱した試験方法で,計算機科学分野では常識の1つである。ロボットが人間と対等に交流できるか,ロボットは感情や意識をもつかという,古典的SFの定番テーマの1つだが,AIブーム再燃の時節柄,それに少し見合った設定となっている。
 英国映画で,母国では昨年1月に公開されている。監督は,英国の小説家・脚本家のアレックス・ガーランド。本作が監督デビュー作だが,勿論,自ら脚本も手がけ,今回のアカデミー賞では脚本賞にもノミネートされていた。最大手検索エンジン企業(Googleを想定?)の男性社員ケイレブが主人公で,アイルランド出身のドーナル・グリーソンが演じている。今が旬の若手男優で,上述の『レヴェナント…』にも出演している。天才プログラマの企業オーナー,ネイサン役には,『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(15年10月号)で主演したオスカー・アイザック。2人は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)でも共演している。そして,AIロボットのエヴァを演じるのは,何と『リリーのすべて』(16年3月号)で主演女優賞のオスカーを得たばかりのアリシア・ヴィキャンデル。話題性では彼女が一番で,何という贅沢なキャスティングだ。これが,本邦公開予定なしとは呆れる。
 オーナーの大邸宅に招かれたケイレブは,エヴァのチューリング・テストを依頼される。彼女を人間らしく感じるか,彼女の誘惑に抗することができるかが問題だが,これは少し狡い。美形のA・ヴィキャンデルが演じ,しかも肉感的なボディコン・スーツで迫られたのでは,大抵の男は魅了されてしまう。物語は,エヴァが感情や意識をもつかというテーマにまで発展する……。
 以下は,当欄の視点からのコメントである。
 ■ 最大の見どころは,エヴァのデザインだ。顔面と手先,足先のみが皮膚で覆われているというが,むしろ後頭部から頚部(写真1),腹部,腕(写真2)と下肢から,体内が透けて見えるかのように,CG映像が重畳描画されていると考えた方がいい。この実写とCGの比率が絶妙な上に,内部メカの描写が新鮮だ(写真3)。いかにも人間を真似たアンドロイドであり,かつ演じる俳優の魅力も引き出せるデザインである。もう1体のメイド・ロボット,キョーコが普通の人間型外観(写真4)であるのに対して,エヴァはユニークかつ,魅力的である。
 
 
 
 
 
写真1 後頭部はほぼ金属で,頚部が少し透けて見える
 
 
 
 
 
写真2 肩と手を除き,両腕はほとんど透明で内部メカが見える
 
 
 
 
 
写真3 上:スーツ姿で演じるA・ヴィキャンデル
    下:CGを重畳する部分の比率と内部デザインが秀逸だ
 
 
 
 
 
写真4 キョーコの外観(上)は人間だが,一皮むけば中は金属製(下)
 
 
  ■ このデザインの最大のポイントは,腹部のくびれ具合だろう。このCGによるくびれが,よりバストやヒップのラインを美しく見せている(写真5)。終盤,A・ヴィキャンデルのオールヌード・シーンが登場するが,貧乳であり,さして魅力的でなかった。間違いなく,CGによる腹部のくびれが,ロボット・スーツ姿を引き立てている。この腹部から透けて見える背景シーンの違和感のない描写,無機質で鏡面反射が多い室内での映り込みシーン(写真6)でも,VFX処理の質は高いと感じた。
 
 
 
 
 
写真5 腹部のくびれがエヴァを魅力的に見せている
 
 
 
 
 
写真6 照明配置や映り込みも,よく練られている
(C) Universal Pictures
 
 
  ■ 本作のVFX主担当はDouble Negativeで,他にはMilk VFX,Utopiaが参加している。英国No.1の,いや目下世界No.1のVFXスタジオが本気で手がけたシーンなのだから,オスカーに耀くのも,むべなるかなである。では,筆者が先にこの映画をビデオ観賞していれば,オスカーの本命と予想していたかと言えば,大本命にはせず,せいぜい単穴くらいの評価だったと思う。
 
  ()
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
 
  [注]3月上旬に4月号用に上記の記事を書いた時点では,本邦での公開予定は公表されていなかったのに,その後,急に公開の運びとなったようだ。当欄の記事が影響を与えた訳ではないだろうが,素直に喜ばしい。  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next