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O plus E誌 2014年10月号掲載
 
 
猿の惑星:新世紀(ライジング)』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2014 Twentieth Century Fox
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月19日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2014年8月12日 Scotiabank Theatre Vancouver
2014年8月21日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  リボーン2作目は,シーザーの指導力で重厚かつ安泰  
  数年前から毎年アカデミー賞の予想欄を設けていることは,既にご存知だろう。別項を設け,作品賞や監督賞の予想も書くようになる以前から,「視覚効果賞」「長編アニメーション賞」の2部門の予想は本文に盛り込んでいた。この両部門の予想はほぼ的中させていたのが,面目躍如である(当欄なら当然とも言えるが)。
 ところが,見事に視覚効果賞を外した年がある。第84回アカデミー賞で,『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11年10月号)を◎,『ヒューゴの不思議な発明』(12年3月号)を○と予想したのだが,結果は逆だった。『ヒューゴ…』も5部門受賞の素晴らしい作品であったが,ことCG/VFX技術のレベルに関しては,前者の方がかなり上であったと,今でも確信している。Subsurface Scatteringを駆使して描いた猿の顔の表現,パフォーマンス・キャプチャで俳優の表情や動きを捉え,それを猿の動作に変換する技術は正に最高水準であった。
 視覚効果だけでなく,かつてのシリーズ(全5作品。第1作は1968年公開)の「リボーン(reborn)」作品としても大成功であったと思う。その新シリーズの続編が,丁度3年ぶりにやって来た。急げば先月号に間に合ったのだが,前作を復習し,本作の関連情報を収集し,しっかり吟味してから紹介するため,本稿を1ヶ月遅らせることにした。前作のDVD中のメイキング映像を再見し,SIGGRAPH 2014で本作のメイキング解説を堪能し,市中の映画館で3D版をじっくり観賞し,しかる後に,日本で2D版の試写を再度熟視した次第である。
 映像表現だけでなく,物語的にも深みのある作品だった。遺伝子進化で知能や言語を得た猿が,衰退した人類と入れ替わり地球を支配して行く過程は,ほぼ予想通りの展開である。ウイルスの蔓延により人類が滅亡状態に陥るであろうことは,前作の最後で既に描かれていた。核戦争でなく,パンデミックが原因という理由付けが,いかにも現代風のアレンジだ。猿の台頭は公民権運動を象徴しているようであり,各種族内での意見の相違,対立の様子は,まるで小国内の権力闘争だ。真のリーダーの資質を問う物語は,国際政治の舞台での指導者不在を皮肉っているかのようにも感じられた。
 監督はルパート・ワイアットから,『モールス』(10)のマット・リーヴスに交替している。主演は,前作同様MoCapでシーザーを演じ切るアンディ・サーキス。素顔を出さず,ここまでの圧倒的な存在感を示す主演というのも珍しい。人間の出演者は,ジェイソン・クラーク,ゲイリー・オールドマン,ケリー・ラッセルらだが,完全にシーザーの引き立て役だと言える。
 以下,CG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ 人類の大半が死滅した2020年の地球,いきなりアップで登場するシーザーの顔のリアルさに驚く。それも雨中で,雨が顔や身体を滴り落ちている(写真1)。特殊メイクや着ぐるみなら何でもない場面だが,CGでこれを描写するとなると,濡れた肌や毛の微妙な表現力を要したはずである。前作同様,本作の全編を通じ,多数の猿の中で,どれがシーザーであるか確実に見分けがつく(写真2)。彼だけでなく,仲間のコバやロケット,息子のブルーアイズも識別できる(写真3)。とりわけ,シーザーの思慮深く,意志の強い表情は,アンディ・サーキスのMoCap演技力の賜物だ(写真4)。目と口の力強い演技がシーザーの威厳を見事に表現している。
 
 
 
 
 
写真1 雨が顔面を滴り落ちる様や,濡れた毛の描写が秀逸
 
 
 
 
 
写真2 銃を構えるシーザーも息子のブルーアイズもすぐ分かる
 
 
 
 
 
写真3 こちらは叛乱を起こす敵役のコバ
 
 
 
 
 
写真4 目と口の演技で存在感を出すアンディ・サーキス
 
 
   ■ 彼らが棲息するサンフランシスコ郊外のミュアウッズの森。ここでの冒頭のシーケンスだけで,かなり高度なVFX映像だと感心した(写真5)。森はどう見ても実写だ。その中を猿たちが縦横に動き回り,多数の鹿が疾走し,熊までが登場する。すべて本物に見える。どう配置して合成したのかと思ったが,手前からCG製の樹木や小枝を合成し,雨,靄,土煙等も描き加えたというメイキングを聞いて,ようやく納得した。
 
 
 
 
 
写真5 冒頭の森のシーケンスは高度なVFXの連続
 
 
   ■ 猿たちの挙動を改善するのに,MRIで体内をスキャンし,改めて筋肉モデルを再構築している。老猿や小猿を登場させるのに,実際に老人や子供にMoCap演技させている。パフォーマンス・キャプチャの変換技術はまた一段と進歩している(写真6)。では,これが本当にリアルなのか? 最近,小豆島で猿の群れを観察する機会を得たが,本物の猿はもっと間抜け面であり,挙動も緩慢だった。本作では,観客が猿だと感じ,かつ進化した猿ならあり得ると思えるギリギリの線を描いている。
 
 
 
 
 
写真6 馬に乗った猿の演技は,このスーツを着用してキャプチャする
 
 
   ■ CG/VFXの最大の見どころは,生き残った僅かな人類が住むサンフラシスコの荒廃した光景だ(写真7)。単に市街地の幾何モデルを入力し,CGで描いたというレベルではない。一部は実写映像を加工し,一部は大規模なオープンセットやミニチュアセットを作り,そこに想像力を働かせて荒廃を描き加えている(写真8)。カリフォルニア通りからの眺めなど,現地住民なら背筋が寒くなる描写だろう。CG/VFXは,ほぼWeta Digital 1社で処理している。大作の大半がフェイク3Dに逃げている中で,リアル3Dで通した映像にも好感が持てる。クライマックスのタワー内での攻防の3D表現も上々だ。
 
 
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写真7 見慣れたサンフランシスコ市街地の荒廃ぶりに息を呑む
 
 
 
 
 
写真8 噴煙や人間と猿が入り交じった合成も見事
(C) 2014 Twentieth Century Fox
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分を一部入替,追加しています)  
   
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