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O plus E 2021年Webページ専用記事#6
 
 
キングスマン:ファースト・エージェント』
(20世紀スタジオ/ウォルト・
ディズニー・ジャパン配給 )
      (C) 2021 20th Century Studios
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [12月24日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2021年12月15日 大手広告試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  荒唐無稽だが,豪華さと過激さで楽しめる歴史娯楽大作  
  公開の9日前であったが,本作はマスコミ試写があり,しっかりそれを観て,なかなかの力作だと感じていた。年末の多忙時期であったので,すぐにWeb専用記事を書く余裕がない上に,翌々日に別ページの『マトリックス レザレクションズ』を映画館で観て,不愉快になってしまった。公開日順からして,それを先に書き,本作をすぐ直後に続けるつもりだったのに,『マトリックス…』を書く気になれなかった。「喪に服す」と言った勝手な理屈をつけて,2週間も映画評記事の執筆を放棄してしまったため,本作もその道連れになってしまった。
 だいぶ日が経ってしまったので,映画館での上映回数もかなり減っているが,最近の大作映画の中では,上映館を探してでも観る価値はあると言っておこう。そう遠くない時期にDisney+で配信されるだろうから,それでじっくり観てもいい。筆者自身も記憶が怪しくなって来たが,その記憶を何とか辿りながら,振り返ることにしよう。
キングスマン』(15年9月号)『キングスマン:ゴールデン・サークル』(18年1月号)に続く,シリーズ3作目である。<キングスマン>とは,英国の秘密結社で最強のスパイ組織だが,国家組織には属していない。007ジェームズ・ボンドは,秘密諜報員であっても,MI6なる政府組織に属していたから,身分はかなり違う。MI5もMI6も本部は立派な政府ビルの中にあるのに対して,<キングスマン>の拠点は,表向きはロンドンの中心地サーヴル・ロウにある高級紳士服店であり,その地下に秘密基地がある(写真1)
 
 
 
 
 
写真1 これが本作での「Kingsman紳士服店」
 
 
  本作の原題は『The King’s Man』。「The」が付くからにはただの続編ではなく,本家本元という意思表示なのだろうが,邦題がそれを補っている。確かに前2作の素直な続編ではなく,誕生秘話を描く「ビギニングもの」である。本作で描かれる時代は1914年に始まり,一気に第一次世界大戦の前夜にまで遡っている。何と,100年以上も昔の世界で,国王ジョージ5世の治世である。ヴィクトリア女王から嫡流のエドワード7世を経た即位で,その後,エドワード8世,ジョージ6世,現在のエリザベス2世へと続くから,国王が4代続いた時代(エドワード8世が世紀の恋で直ぐ退位したから,実質は3代)の真っ只中である。なるほど,女王陛下の「Queen’s Man」でなく,国王陛下の「King’s Man」であることが納得できる。ちなみに,前2作の主演はタロン・エガートンとコリン・ファースのコンビだったが,そのコリン・ファースが『英国王のスピーチ』(11年3月号)で演じていた吃音の国王はジョージ6世である。
 監督・製作は,前2作に引き続き英国人監督のマシュー・ヴォーン。今や本シリーズが彼の堂々たる代表作の位置づけである。英国貴族オーランド・オックスフォード公役の主演には,レイフ・ファインズが起用された。『ハリー・ポッター』シリーズで最凶の敵ヴォルデモート卿,『007』シリーズではジュディ・デンチの後任のM役と,個性的な助演が目立ったが,本作では平和を願いキングスマン組織を作った主人公である。ビギニングものとしては,M・ヴォーン監督は『 X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11年7月号)を撮っていて,プロフェッサーXと敵対するマグニートの2人の若き日を描くのに,それぞれジェームズ・マカヴォイとマイケル・ファスベンダーを配して若返えらせていた。本作もこの手かなと思ったが,初老のR・ファインズがキャスティングされていたので,少し意外だった。
 彼の息子コンラッド役に,若手イケメン男優のハリス・ディキンソンが配されていた。『マレフィセント2』(19年Web専用#5)でエル・ファニング演じるオーロラ姫と結ばれる,いかにもいかにもの王子を演じた若手男優である。彼が父の遺志を継いで<キングスマン>を現代まで率いるのかと思ったら,それも違っていた。T・エガートンとC・ファースが演じたエージェントたちとは無縁のようだ。特殊な身体能力を得たキャプテン・アメリカなら戦争中から現代まで生きていたが,それとて第二次世界大戦のことであり,第一次世界大戦となると相当昔のことである。
 その世界大戦前夜の各国の思惑,ロシア革命の舞台裏,戦争勃発の引き金となったオーストリア皇太子の暗殺事件等々,当時の政治情勢がしっかりと描かれる。史実をもとにした近代の歴史絵巻で,映像的にも風格のある滑り出しであった。楽しさをウリにしたコメディタッチの前2作とは,かなり趣が違うなと思ったら,次第に荒唐無稽で華麗さと過激さを併せ持った大仰な史劇へと変わって行く。中盤以降は,米国の参戦を巡って陰謀が張り巡らされ,「闇の狂団」が正体を現わし始め,スパイものらしい展開となる。
 当時の衣装や宮殿は豪華で,戦場の描写も十分リアルであり,筆者の評価は高かったのだが,蓋を開けてみると,欧米の批評家の評価は高くなかった。中学や高校ではろくに習わなかった欧州近代史の単純明快な描写は,日本人には分かりやすかったはずだが,誇張と自己流解釈が過ぎて,この外連ぶりが批評家たちには許せなかったのだろう。我が国で言えば,定番の戦国時代か幕末ものなのに,妙に現代風にアレンジして,視聴者に媚びるようなNHK大河ドラマが嫌われるのと似ているのかも知れない。
 VFXは随所でしっかり多用されている。ところが,当欄にとって大切で,解説したいシーンのスチル写真が見事に提供されない。止むなく,以下ではVFXだけに拘らず,本作の見どころと感想を述べる。
 ■ 米英の一流VFXスタジオなら,NYやロンドンの中心部は,どんな時代でも見事に再現できる準備は出来ていると何度か書いた。まさに本作の1910年代のロンドンもその類いであった。本作では,英・独・露3カ国の王族・貴族達が登場するが,その衣装や邸宅もきっとこうだったのだと思わせる質感,豪華さである。例えば,ロシア宮廷での出来事を描いた写真2は,欧州のどこかの宮殿を借りてのロケだろう。一方,写真3となると,全部本物なのか,背景はCGで描いたものかは,簡単には識別できない。ここに登場する怪僧ラスプーチンが驚くべき存在で,リス・エヴァンスの怪演が見ものの1つだ(写真4)。彼とオックスフォード公父子の戦いの中で,ラスプーチンのダンスのようなアクションを見せるが,これは間違いなくVFXの産物だろう。
 
 
 
 
 
写真2 王族・貴族が集まるロシア宮廷での1コマ
 
 
 
 
 
写真3 どこかの宮殿内か,大半はCGなのか,識別できない
 
 
 
 
 
写真4 これがリス・エヴァンス演じる怪僧ラスプーチン
 
 
  ■ 当時の英国王ジョージ5世,ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世,ロシア皇帝ニコライ2世の3人が従兄弟同士というのは知らなかった。欧州の王族というのは名家の血が張り巡らされているが,対抗意識も強く,彼らを反目させることが「闇の狂団」の目的だった。それぞれ個性的な人物に描かれているが,そのすべてをトム・ホランダーが1人3役で演じていた(写真5)。これには驚いた。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 (左上)ドイツ皇帝ウィルヘルム2世,(右上)ロシア皇帝ニコライ2世
(下)英国王ジョージ5世
 
  ■ 皇太子暗殺事件のサラエボの町は,イタリアのトレノで撮影したという。現代ではなく,1世紀以上前を感じさせる見事なロケセッティングである(写真6)。中盤のもう1つの見どころは,息子コンラッドが志願して従軍する,戦場での激闘である(写真7)。銃弾,砲弾が飛び交う中での戦闘の再現は見事だ。ここでもVFXはしっかりと活用され,迫力ある戦闘の連続だった。
 
 
 
 
 
写真6 100年以上前のサラエボ事件を再現 
 
 
 
 
 
写真7 コンラッドは志願して,戦地へと赴く
 
  ■ 終盤の見どころは,何と言っても,急峻な断崖の上にある台地へのパラシュート降下だ。そして「闇の狂団」の黒幕との剣でのラストバトル,断崖絶壁を巡る攻防へと続く(写真8)。よくぞこんな奇妙な形の断崖と台地を思いついたものだ。当然,CG/VFXの産物のはずだ。笑いを誘う存在として登場する山羊も殆どはCG製だろう。その主担当はFramestoreで,副担当はRise Visual Effect Studio。その他Weta Digital,BUF,Rhythm & Huesも参加していて,PreVis担当はThe Third FloorとNvizだった。
 
 
 
 
 
 
 
写真8 崖の上の台地での剣の戦い,そしてあわや落下の危機に
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
 
 
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