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O plus E誌 2008年7月号掲載
 
 
 
スピード・レーサー』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
      (C) 2008 Warner Bros. Entertainment Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [7月5日よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2008年5月20日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  10%の快感,90%の不快感,監督権限の濫用だ  
 

 映画は監督のものである。プロデューサの力が増し,企画からキャスティング,公開時期から宣伝に至るまでを仕切っているとはいえ,作品の細部に至るまでの責任をもち,画調や作品のテイストを決定づけるのは監督だ。ましてや,大ヒットを飛ばした後で,その名前による集客力が見込める場合には,監督の権限が倍加する。
 本作の監督はアンディとラリーのウォシャウスキー兄弟,プロデューサはジョエル・シルバーである。言わずと知れた,あの『マトリックス』シリーズのトリオだ。同シリーズの後,この兄弟が製作・脚本を担当した『Vフォー・ヴェンデッタ』(06年5月号)があったが,満を持して本作では監督復帰である。映画史を飾る斬新なタッチで『マトリックス』を成功させた功労者とあっては,ジョエル・シルバーやワーナー・ブラザース社も,彼らに大きな権限を与えるのは当然のことだろう。
 この映画も結論を先に書くならば,これはどうしようもない駄作だ。観客の目もスタッフの苦労も意に介さず,自分たちが作りたいように作っただけだ。それで面白ければ,何の問題もない。『マトリックス』もきっとそうだったに違いない。それが誰の目にもに新鮮で,面白かったから英雄になれた。それで舞い上がったのか,独りよがりに拍車がかかり,大半の観客が受け容れがたい世界に突入している。いや,以前からその徴候はあった。同シリーズの2作目も3作目も話題は呼んだものの,お世辞にも出来の良い作品ではなく,ファンの期待を裏切っていた。筆者は後者の評で「欲張りすぎて,シナリオも世界観そのものも破綻している」と書いている。
 この映画の中身はと言えば,文字通りのカー・レースを舞台にしたアクション・ムービーで,天才レーサーである主人公の姓名が表題そのものだ。1967年に日本の竜の子プロが制作したTVアニメ『マッハGoGoGo』が原作で,米国で放映された時に『Speed Racer』と題されていた。アンディもラリーも日本のコミックやアニメのマニアックなファンだというが,本作ではその嗜好をストレートに出している。
 主役のスピード役に抜擢されたのは『イントゥ・ザ・ワイルド』(07)のエミール・ハーシュ,ヒロインのトリクシーには,『アダムス・ファミリー』(91)や『キャスパー』(95)に子役として出演していたクリスティーナ・リッチ,という若いコンビだ。助演陣には,ジョン・グッドマン,スーザン・サランドン,ロジャー・アラムといった芸達者に加え,真田広之も「ミスター武者」なるレーサー役で登場する。
 アニメの実写映画化というが,CG中心のデジタル表現の中に一素材として実写映像が存在する感じだ。実写映像がデジタル加工され,CGに見えてしまう箇所も少なくない。オーソドックスなカー・レースに固唾を呑む展開を期待していたら,見事に外される。レーシング・カーの動きはアクロバット的であり,格闘技に近い。全編を通しての極彩色の画調は,ポップアートやラスベガスの夜景を思い出す(写真1)。いや,一昔前の流行語「サイケデリック」がピタリと当てはまる(写真2)。  

 
     
 
 
 
写真1 ここはレース場か,夜の歓楽街か?  
 
   
 
写真2 まさに極彩色のサイケデリック! 単なる悪趣味?  
 
     
   VFXスーパバイザは,勿論ジョン・ゲイターだ。主担当スタジオはデジタル・ドメインだが,2,000カット以上のVFXとなると,他にBUF Campagnie,Evil Eye Pictures,Cafe FX等,約10社の名前が並び,ILMやSPIWまでもが参加している。なるほど,カンフーならぬ「カー・フー(Car Fu)」と名付けられたレーシング・カーのアクロバット走行やバトルのシーンは圧巻だ(写真3)。砂地のレースが引き起こす砂塵,黄昏時のレース現場での異様な雰囲気等も,見事な描画力で表現している(写真4)。細部のこだわり,描き込みもすごい。
 その高度な映像表現力が,映画の面白さに貢献しているかと言えば,答えは明らかにノーだ。芸術家気取りの兄弟監督は,映画の文法を外すことが創造性だと勘違いしているのではないか。外すこと自体はいいが,そこから感心・感動するものが生まれて来なければ,タダのオタクの道楽にすぎない。観客の10%くらいはこの奇妙なテイストに快感を覚えるかも知れないが,残る90%にとっては不快感の方が勝るに違いない。すばり,これは監督権限の濫用だ。全体像を知らず,与えられたCG/VFXの処理に精魂を傾けたクリエータたちに敬意を評して,評価は★でなく,せめて☆にしておこう。
 
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写真3 レース・シーンは迫力よりも陶酔感を重視  
 
     
 
 
 
 
 

写真4 砂漠のレースも市中のレースも映像表現は第一級
(C) 2008 Warner Bros. Entertainment Inc.

 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
   
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