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O plus E誌 2020年11・12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ホモ・サピエンスの涙』:スウェーデンの鬼才(奇才?)ロイ・アンダーソン監督の5年ぶりの新作である。時代も性別も年齢も異なる人々が織りなす悲喜劇,計31話のエピソード集だ。平均2分強,どれもカメラは固定のままのワンカットである。「人間のもろさ,弱さを描いている」という。強いて言えば,シニカルとユーモアのごった煮だ。それぞれ絵画がモチーフになっているらしいが,本人か,余程の絵画通でない限り分からないだろう。黒沢清監督の『スパイの妻』(20)の1年前に,同じヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞(監督賞)を受賞している。これなら,黒沢演出の方がずっと素直で,可愛く思えた。一定のユーモアはあるので,難解だ,監督の独りよがりだというほどではない。筆者は,三分の一は呆れて笑えた。三分の一は意味不明で,残りは平凡で何も感じなかった。「最近面白かった映画は?」と問われて,斜に構えて答えたい映画ファンには最適だ。
 『ボルケーノ・パーク』:中国製のB級パニック映画だ。20年前ならこのVFXを絶賛しただろう。今やこの品質,この使い方では誰も驚かない。「天火島」なるリゾートの島が舞台で,空中から火口を眺め,地中深くに降りて地層を観察する「火山テーマパーク」の計画中に,突然大噴火が始まった…という筋書きだ。即ち,『ジュラシック・パーク』(93)の火山版である。そりゃ温泉地での「地獄巡り」よりも迫力はあるだろうが,20年前に噴火して死者を出した活火山をテーマパークにしちゃいけないよ。大噴火,火砕流,遊覧ロープウェイ,展望台等は勿論CGで,ホログラム風の透明ディスプレイも登場するが,どれもチープだ。音楽もしかりで,少し滑稽味のある中国語が緊迫感を損ねている。監督は『トゥームレイダー』(01)のサイモン・ウェストだが,スタッフはほぼ全員中国人のようだ。国内だけでこの量のCG/VFXをこなしたことには敬意を表しておこう。
 『家なき子 希望の歌声』:誰もが題名を知っている名作児童文学の映画化作品で,本作は原典通りのフランス語で語られる実写版だった。子供の頃読んだはずだが,内容はうろ覚えだ(多分,皆そうだろう)。日本アニメーション製の「世界名作劇場」で見たはずだが,『フランダースの犬』『母をたずねて三千里』等とストーリーがかぶってしまいがちだ。改めて観るのもいいものだ。不幸を背負った少年の波乱万丈の物語で,意地悪な人物もいれば,善良な人々も登場する。時代は19世紀末,本作はパリの孤児院の前に捨てられていた子供が11歳になった頃の1年間の物語に凝縮されている。主人公のレミは,例によって美少年(マロム・パキン)が演じている。旅芸人の親方ヴィタリスには,フランスの名優・ダニエル・オートゥイユが配されていた。ナレーションは老いたレミ役のジャック・ペランで,彼が自らの回想を孤児たちに聞かせるという趣向だった。
 『滑走路』:コミックやベストセラー小説の映画化は多いが,本作の原作は歌集だという。32歳での自死を選んだ萩原慎一郎の和歌がベースだが,長編映画に仕立てるのは,脚本家(桑村さや香)と監督(大庭功睦)の腕だ。中学生時代に受けたいじめに悩み,非正規雇用の辛さの中で生きてきた歌人ゆえに,物語もひたすら暗い。カウンセリングを受ける厚労省の若い官僚,夫との関係が不安定な切り絵画家の妻,いじめに苦悩する秀才の中学生……。この3人の人生が交錯した時,希望の光が差しこむという。それだけを楽しみに,前半の悲惨で退屈な暗い物語を耐えていた。なるほど,後半でしっかり人間関係のパズルが埋まる。なかなか達者な脚本だ。3人の内,画家役の水川あさみが先頭にクレジットされているが,暗さでは若手官僚・鷹野役の浅香航大が群を抜いていた。元々こういう顔立ちで地なのか,それとも演技なのか。後者だとしたら,抜群の好演だ。
 『フード・ラック!食運』:焼肉を中心とした食通映画だ。監督はダチョウ倶楽部の寺門ジモン。グルメを自認し,焼肉に強い拘りがあり,家畜商の資格までもっているという。これが初監督作品だが,8年かけて製作しただけあって,素直に面白かった。嫌味な評論家も一癖ある料理人も登場し,まるで「料理コミック」「グルメ漫画」そのものタッチとテンポで映画が進行する。主演は,EXILE NAOTOと土屋太鳳。NAOTOはなかなかいい味を出していた。土屋太鳳には毎度全く演技力を感じないが,本作ではいつものキャピキャピの女性役で,ただ明るく振る舞っていれば済んだ感じだ。なるほど,監督の焼肉に関する知識,蘊蓄は凄い。母と子のお涙頂戴のパートが少しクサイのが欠点だ。この映画は,満腹時に観ては行けない。肉の描写に辟易する。空腹時だと映画の終了が待ちきれなくなる。普通の状態で観て,そのまま焼肉店に直行するのが最適だ。
 『ヒトラーに盗られたうさぎ』:ドイツ映画で,題名通りナチス・ドイツ当時の物語だ。原作は絵本作家ジュディス・カーが少女時代の体験を綴った児童文学の古典だそうだ。時代は第2次世界大戦前の1933年で,まだヒトラーが大きな権力を得る少し前の話だ。ナチスに批判的なユダヤ人作家の一家は,予測される迫害を怖れ,スイスへと逃げる。収容所,ガス室等は登場しないが,背景事情と迫り来る危機は理解できる。物語はパリから英国へと展開するが,山岳地帯の湖もパリの夜景も美しい(CGか?)。撮影場所は限られるのだろうが,馬車やクラシックカーを配するだけで,スイスの町もパリも約90年前の光景で通用するというのが凄い。家族の物語だが,ハリウッド映画のようなベタベタしたわざとらしさがないのも嬉しい。逆境の中を前向きに生きる10歳の少女アンナが聡明で,凛々しく,可愛い。10年後にどんな女優になっているのか愉しみだ。
 『アーニャは,きっと来る』:上記と同じく児童文学の映画化で,1942年ナチス占領下のフランスでのユダヤ人救出作戦を描いている。ピレネー山脈の麓の村レスカンが舞台で,こちらは山越えでスペインへの脱出を計画するが,山々の美しさは同じだ。彼らを助ける13歳の羊飼いの少年ジョー(ノア・シュナップ)が主人公で,老年の彼が回想する語りで本作は始まる。アーニャはユダヤ人少女の名だが,劇中には殆ど登場しない。映画の冒頭で,ドイツ兵が迫る中,父親が他人に託し,少女の帰還を待ち侘びる設定だからだ。ナチス・ドイツの進駐で,長閑な村の平和な生活が脅かされる様子や,ユダヤ人をかくまおうとする心情がしっかり描かれている。最大の欠点は,セリフがすべて英語であることだ。英国の小説を英国で映画化したからとはいえ,フランス人少年やドイツ人伍長が滑らかな英語で語り合うシーンは,どう考えても不自然に感じた。
 『君の誕生日』:韓国映画で,2014年に沈没したセウォル号の遺族を初めて正面から描いた作品らしい。事故で息子を亡くした喪失感から立ち直れない母親と,当時海外にいて立ち会えなかった罪悪感に悩む父親,この2人の間に漂う微妙な関係を名優2人(ソル・ギョング,チョン・ドヨン)が見事に演じている。日本人はこの事故の社会的な影響を正しくは理解できないから,日航ジャンボ機事故か地下鉄サリン事件に置き換えて,遺族の想いを想像することにした。父親と母親なら,筆者は当然父親側に感情移入しやすく,かなり優しい旦那だと感じた。それを考慮しても,この母親の態度(残った娘や支援団体に当たり散らす,周りの迷惑も考えない発言等々)には,腹立たしさを覚えた。「遺族の喪失感はどの事故でも同じなのに,お前だけがいつまで拘っているのだよ!」と。この憤りを感じるということは,演出も演技も一級だったということだろう。
 『記憶の技法』:主役は高校生の男女だが,所謂キラキラ・ムービーではなく,むしろそれとは正反対の心理サスペンス中心の,良くできたミステリーだった。原作は,2016年に急逝した漫画家・吉野朔実の同名コミックで,黒沢清の愛弟子の女性監督・池田千尋がメガホンをとる。これが監督6作目だ。ある日,両親が実の親でないことを知って衝撃を受けた女子高生の鹿角華蓮が,修学旅行をキャンセルして,実の両親を探り当てる旅に出る物語だ。幼少期に受けた衝撃から,彼女が記憶喪失癖に苦しんでいるのは,殺人事件が関係していることは容易に想像がつく。ミステリーの謎としては平凡だが,記憶のピースを埋めて行く謎解きプロセスの描写が巧みだった。彼女の旅に雇われて帯同する男子高生・穂刈怜との掛け合いも,青春ムービーとして楽しい。華蓮役はガールズダンス&ボーカルグループ「E-girls」の石井杏奈,怜役には栗原吾郎が配されている。
 『ノッティングヒルの洋菓子店』:ノッティングヒルはロンドンの高級住宅街で,映画ファンならジュリア・ロバーツ主演の『ノッティングヒルの恋人』(99)を思い出す。いや,同作を連想させるために,原題『Love Sarah』を邦題にしたのだろう。原題は,お洒落なこの街に新装開店した洋菓子店の名称で,店主予定だった腕の良いケーキ職人のサラを追悼してつけた店名だ。事故で急逝したサラ本人は全く登場しない。一緒に店を開くはずだった親友イザベラ(シェリー・コン),サラの母親(セリア・イムリー)と娘(シャノン・ターベット)の3人が遺志を継いでこの店を開店し,成功させようとする奮戦記だ。男性シェフのマシュー(ルパート・ペンリー=ジョーンズ)が職人として加わるが,女性3:男性1の比率も,色男マシューの描き方も,いかにも女性監督らしい作品だ。物語は淡泊だが,出て来るケーキはすべて美味しそうで,その点でも女性向きの映画と言える。
 『燃ゆる女の肖像』:フランスの女性監督が描いた貴族の娘と女性画家の同性愛映画。と言ってしまえば,流行りの薄っぺらなLGBT映画に思えてしまうが,まさに絵画のように美しく,鮮烈なラブストーリーだった。舞台となるのは,18世紀のフランス・ブルターニュ地方の孤島にある伯爵家の館だ。崖の上にある古城のような外観や暖炉のある部屋の佇まいで,観客の心もタイムスリップしてしまう。伯爵夫人から画家マリアンヌが受けた依頼は,結婚を忌避する娘エロイーズの散歩相手を装って,見合い用の肖像画を描くことだった。制作が進む内に,当初頑なだった令嬢の心もほぐれ,やがて2人は禁断の恋に落ちてしまう…。マリアンヌ役のノエミ・メルランは凛々しく情熱的でキャリア・ウーマン風,エロイーズ役のアデル・エネルは優美で少し古風な令嬢にぴったり。この映画の成功は,2人の美女のキャスティングに尽きる。ラストシーンが鮮烈だった。
 『ネクスト・ドリーム/ふたりで叶える夢』:素晴らしい音楽映画だ。コロナ禍でもネット配信映像ばかり観ていずに,たまには映画館に行き,良質の音響効果の中で観るべき映画だ。かつて大ヒットを連発した歌姫グレース(トレイシー・エリス・ロス)とその雑用係で音楽プロデューサーを夢見るマギー(ダコタ・ジョンソン)の2人が主人公で,ハリウッド音楽業界の内幕も描かれている。女性監督ニーシャ・ガナトラが撮った女性の活躍を描く映画で,題名から成功譚であることは約束されている。マギーが発掘した新人歌手デヴィッドを演じるケルヴィン・ハリソン・Jrの美声もT・E・ロスの歌唱も絶品であった。吹替えでなく,歌手経験がない俳優2人がここまでの歌唱力を披露することに驚嘆した。後で,トレイシーがダイアナ・ロスの娘であり,ケルヴィンも両親が歌手であることを知って納得した。そーか,グレースはダイアナ・ロスがモデルだったのだ。
 『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』:久々にこの名前を聞いた。筆者らの若い頃が全盛時代だったドイツの著名な写真家で,日本人なら篠山紀信,海外では彼の名前を男性なら知っていた。2004年に逝去した故人だが,生誕100年記念で今年作られたドキュメンタリーである。一流ファッション誌で活躍したが,ほぼすべて長身のモデルを起用していた。ほとんどが変わった女性の裸体写真で,モノクロが多い。ハイヒールを履いた(股を開いた)チキンの写真には驚いた。その一方で,被写体にはサッチャー元首相やヒトラーまでが登場する。なるほど斬新で,大物感が漂っている。12人の女性のインタビューでは,「被写体の人格を映し出す」と褒めたり,「変態だ。女性蔑視だ」と主張する女性もいる。終盤に登場する夫人の会話が出色だった。ヘルムートの人間性が余すところなく表れている。ホテルの屋上で過ごす夫婦2人の写真も強く印象に残った。
 『無頼』:某週刊誌に掲載中の井筒和幸監督の辛口映画評を愛読している。ご自身はどんな新作を作るのかと楽しみにしていたら,ヤクザの視点から描いた激動の昭和史だった。あぶれ者たちの群像劇は武闘派・井筒監督に相応しい。1956年から始まるが,映像は無彩色に近く,1963年へと進むにつれ段々色味が濃くなる。クルマも衣装も小物も,時代考証で見事に再現されている。温泉で射殺し,糞尿を撒き,ショベルカーで荒らす等々やりたい放題だ。新興宗教の大きな仏像を作り,ライオン,トラ,クマまで登場する。終盤,親しい人物達の死を経験し,アジアの子供や僧侶との会話……。監督の言いたかったことが少し分かった気がする。主役の井藤正治をEXILEの松本利夫が演じ,愛人から妻となる佳奈役に柳ゆり菜が抜擢されている。2人とも好演だが,終盤でも佳奈が若過ぎるのが欠点だ。全編でヤクザの描き方はリアルだが,ヒーローはいなかった。
 『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』:主演のキアヌ・リーブスが2720年にタイムワープしたり,未来から来た殺人ロボットに襲われる…と聞いても,あの『マトリックス』(99)ファンなら不思議に思わない。1922年のルイ・アームストロングが1967年のジミ・ヘンドリックスに出会うとなると,少し驚くだろう。何と,本作は『スピード』(94)でブレイクする前の彼が主演したSFコメディ『ビルとテッドの大冒険』(89)『ビルとテッドの地獄旅行』(91)の29年ぶりの新作だった。ロックスターを夢見た高校生コンビがそのまま大人になり,今も「音楽で世界を救う」ことを目指し,伝説のミュージシャン達と最強のバンドを組もうとしている。共演がアレックス・ウィンター(現在は映画監督),電話ボックスがタイムマシンであることもそのままだ。この予備知識なしに観たら呆れ返るだろうが,ハチャメチャぶりは楽しめる。品質は高くないが,CG/VFXも満載だ。
 『この世界に残されて』:これもナチス関連の映画で,本号で3本目だ。既に終戦後の1948年のハンガリーが舞台で,ホロコーストの悲劇で家族を失い,心に深い傷を負った人々を描いた映画である。妻子を失った42歳の中年産科医の男性アルド(カーロイ・ハイデュク)と,両親を失ったトラウマに苦しむ16歳の少女クララ(アビゲール・セーケ)が,喪失感を共有しつつ,次第に心を通わせて行く物語だ。本人たちは擬似親子のつもりだが,美形の16歳の少女となると,周りはそうは受け取らない。寡黙で自制心がある大人の男として,クララを庇いながら,アルドはある決断をする…。よくできた脚本で,セリフは多くないが,しっかり吟味されている。学校の教師たちが,クララを評価する言葉選びにも感心した。終戦はしたが,ソ連監視下の社会主義国の暗さがうまく描かれている。上映時間は83分だが,心に滲みる密な映画で,2人の演技が素晴らしい。
 『また,あなたとブッククラブで』:ベテラン女優4人の揃い踏みのコメディだ。ダイアン・キートン,ジェーン・フォンダ,キャンディス・バーゲン,メアリー・スティーンバージェンは,全員アカデミー賞,GG賞受賞者の大物揃いである。定期的な読書会を口実に集まる老女たちが,選んだある刺激的な本をきっかけに,自由に生きて行く人生を取り戻す物語となっている。4組の老男女の恋とセックス,彼女らにとって好都合な男性たちが登場するのは,『セックス・アンド・ザ・シティ』(08)の老人版だと言える。読書そのものには大きな意味はなく,女性同士の会話,男女の会話がミソだ。4組の老人デートがどれも豪華だった。男も女もリッチだ。自家用機でのフライト,カセドラルロックの景観,クルマやファッションも見もので,音楽も頗る軽快だった。4人の中で一番目立ったのは,最高齢のJ・フォンダである。若々しいルックスは,とても80歳(映画完成時)には見えない。
 『私をくいとめて』:31歳のおひとりさま(独身女性)のみつ子と勤務上で交流がある年下の男性・多田くんとのラブコメディである。原作小説は芥川賞作家の綿矢りさ,監督・脚本は大九明子で,『勝手にふるえてろ』(17)の女性コンビの再タッグだ。主演は,筆者が一も二もなく応援したくなる「のん」で,お相手は林遣都。実年齢は彼の方が上だ。彼女の脳内相談役Aが随所で登場し(姿はない),みつ子に語りかけるのが本作のミソだ。先輩独身OL「ノゾミさん」役の臼田あさ美が,いかにものいい感じで,先輩後輩の会話が楽しい。コロナ禍でイタリア・ロケはせず,うまく合成等で誤魔化している。終始コメディ・タッチのお気楽映画に見えて,結構,人生に対する真剣なテーマも含まれている。それをこなす「のん」の演技力は高いが,やはり実年齢26歳の彼女はどう見てもアラサーに見えない。年齢を5歳シフトして,23歳の若手男優を相手役にした方が良かった。
 『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』:題名だけで見たくなる映画だ。フィクションでも興味深いが,実話のドキュメンタリーだという。ケニア在中のプリシラ・ステナイ(愛称ゴゴ)は,子供3人,孫22人,曾孫52人をもつ94歳の老女だが,若い頃に就学を許されなかったことから,曾孫娘6人と一緒に小学校に通うことを決意する。世界最高齢の小学生だ。格別に凄い映像記録ではないが,こういう題材を見つけてきた監督は偉い。私立小学校の緑の制服と赤いネクタイが印象的だった。驚いたことに,授業中は教師も児童も英語で会話していて,ゴゴも英語で答えている。国語はスワヒリ語だが,公用語には英語も入っているからだ。少し郊外に出ただけで野生の象の群れやライオンの家族がいるが,そのライオンに英語で話しかけている。ライオンも公用語が分かるらしい(笑)。教育とは何かを考える素晴らしい映画だった。子供たちが歌うエンドソングの歌詞が,いいね!
 『ジョゼと虎と魚たち』:原作は大阪が生んだ女流作家・田辺聖子の短編小説で,2003年に犬童一心監督の実写版が作られている。筆者の興味の的は,おせいさんの繊細で巧みな文体がアニメ映画でどんな印象になるかであった。車椅子生活の若い女性ジョゼ(愛称)と祖母に雇われて彼女のお相手をする大学生・恒夫が主人公である。憎まれ口を利くジョゼ,負けずに対抗する恒夫,やがて2人は打ち解ける。即ち『最強のふたり』(11)の若者版,男女の恋愛版だと言える。ジョゼの声を演じる清原果耶が大阪出身で,まともな関西弁なのが嬉しい。大阪の街角風景が随所に登場するのも嬉しい。一方,恒夫の声は中川大志。余りに普通の非関西人の大学生で,誰でも演じられる感じだ。これは和製アニメの欠点で,主人公をほぼ同じ顔立ちに描いてしまうせいだ。展開や結末が実写版と異なるのは止むを得ないが,妻夫木聡が演じた恒夫には感情表現で全く敵わない。
 『AWAKE』:将棋を題材とした映画と言えば,実在の棋士を描いた『聖の青春』(16)『泣き虫しょったんの奇跡』(18),中学生棋士が登場するフィクション『3月のライオン 前編・後編』(17)が記憶に新しい。少年時代からのライバル2人を描いた本作は後者に近い。プロになることを断念した英一(吉沢亮)がAIを駆使して開発した将棋ソフトAWAKEが,若手人気棋士となった陸(若葉竜也)に挑む対局シーンが最大の見せ場だ。舞台となるのは2015年の電王戦(ドワンゴ主催)で,人間のプロ棋士とAIのどちらが強いかが話題になった時代である(既に決着はついている)。AWAKEは実際にこの年の電王戦に登場したソフト名で,開発者が将棋の奨励会経験者であったことに着想を得た山田篤宏監督のオリジナル脚本とのことだ。盤面解説,ロボットアームが駒を動かすシーン等の工夫は感じるが,主人公がAIプログラミングに習熟する過程の描写が甘いと感じた。
 『新感染半島 ファイナル・ステージ』:ヒット作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)の続編で,前作に引き続き,ヨン・サンホ監督がメガホンをとっている。謎のウイルスの蔓延から4年後も朝鮮半島はゾンビに支配されていたが,前作とは物語的な繋がりはない。半島を船で脱出する際に,感染した姉とその子供達を失った軍人のジュンソク(カン・ドンウォン)は,香港で廃人同様の生活を送っていた。ある日,大金が積まれたトラックを回収する任務を任され,義兄と共に半島に戻ることになる。彼らの任務を阻むのは狂気の民兵集団で,大量のゾンビの攻撃とも戦うサバイバル・アクションが繰り広げられる。際限ない銃撃戦と凄まじいカーアクションが延々と続く。町も道路もゾンビ達もCG製で,まるでゲーム感覚だ。余りに過激かつ醜悪で,国際ラジー賞があるなら,作品賞受賞は確実と思えた。それに馴れると中毒状態になり,最後は痛快に感じてしまった。
 
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