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(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています。) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ザイオンのバトルだけは評価しておこう | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
この号が出るのは,公開後3週間近く経ってからだ。既に批評家やファンの間でひとしきり論議を呼んだ後で,もはや話題にすらなっていない気もする。それでも,本欄の評価がどうなるか気になる読者も少なくないので,VFX界今年最大の話題であったこの映画の完結を取り上げない訳には行かない。 何と世界63カ国“同日・同時公開!”だという。中国までがこれに参加したのには驚いた。日本では,11月5日夜11時に一斉公開だったが,さすがに水曜夜のその時間に劇場に行く気にはなれなかった.翌日は休みでないし,帰りの電車もなかったからだ。 翌日,職場を抜け出しハンバーガーとコーラ持参で真っ昼間に出向いてみると,地方都市のシネコンはガラガラで,もちろん若い男ばかりだった。なぜか熟年のオバサンが1人いたが,背広ネクタイ姿のオヤジも私くらいなのでいい勝負だ。 監督,出演者等の紹介は省こう。この映画をいきなり見る人はいないだろうから,そんな紹介は不要だ。この一作を待望していたのは,1作目も2作目も見た観客だ。もう少し正確にいえば,1作目に驚き,感激し,2作目には戸惑い,怪訝に思い,「そんなはずはない。きっと最後には見事にまとめて上げて,恍惚感に浸らせてくれるはずだ」と信じていたファン,いや,そう思いたかったファンが大半で,勿論私もその1人だ。 前作『マトリックス リローデッド』のエンドロールの最後に流れた予告編はなかなか魅力的だった(写真1)。ネオと宿敵エージェント・スミスとの最後の戦いは,ラスト14分,70億円もかけたという。こいつは相当期待していいかなと思わせた。 結論を先に言えば,その期待というか,願いはものの見事に裏切られる。最後まで待っても一向にマトリックスの謎はすっきりしないし,オラクル(予言者)の言っていることもよく分からない。重要人物であるはずのメロビンジアンもその妻パーセフォニーも,何のために出てきたのか,これじゃ前作と同じだ。この辺りの不満は既に散々語られていることだろう。 物語は『…リローデッド』の続きとして始まり,前作の要約も説明もロクになく,いきなりハイテンションでぶっ飛ばす。テンポは悪くない。予告編で観た雨中の対決に向けて一気呵成に進んで行く。超ハイスピードで駆け抜けて行く躍動感が心地よい。話のわき道は一切ない。展開は結構分かりやすい。 上映時間2時間9分の中ほどの人類にとっての最後の砦ザイオンを巡るマシンの大群との戦いは素晴らしかった。20分いや30分近くもあったのだろうか。これをアクションという言葉で語れないほどの大迫力で長尺のバトル・シーンだ。構図も,カメラワークのスケールも大きい(写真2)。『ロード・オブ・ザ・リング』に負けていない。この絵やキャラクタそのものは好きではないが,よくぞまあここまで描き込んだものだと感心する。絵コンテではとても無理で,メインはCGによるPreVizだったと思うが,それでもこの複雑さと動きの激しさとをこれだけの時間続けるのは大変だ。全体を綿密に演出し遺漏なく仕上げるのは,下手な映画数本分の労力に匹敵する。この映画はこの部分だけでも観る価値がある。「こりゃリローデッドより数段上で,やるわい」と思って観ていた。会場全体がそうだったろう。ここまでの評価は☆☆☆だった。 このバトルが終わり,少しスローダウンして一息つき,いよいよ最後の対戦だ。手に汗にぎり,息が詰まる。ワクワクする。先の戦い以上のコクのある見せ場があると思ってみていたが,これが意外とつまらなかった。70億円にしては物足りない。最終的にはやっぱり意味不明。説明する気などないんだ,この兄弟は。欲張りすぎて,シナリオも世界観そのものも破綻している。 |
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次回作に期待しよう | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
失望感はこれくらいにして,以下いくつか気づいた点を列挙しておこう。 ■そもそも現実世界の描き方は,なぜこんな重々しいメカなんだろう。プラグもケーブルもアナクロそのもの。まるで第2次大戦下のUボートの船内じゃないか。それでいて,コンピュータのモニタだけ薄型の液晶モニタというのが片手落ちだ。これが未来でマシンに支配される人類のイメージだというなら,そんな常識は早く捨てた方が良い。 ■一方,視覚を失ったネオが感じる世界を写真3のように描いたのは秀逸だった。このビジュアル担当者はセンスがいい。褒めてあげて下さい。 ■モーフィアスの元恋人の女性戦士ナイオビが操縦するロゴス号の動きは見事だった。このシーンも徹底的にPreVizしておいて,実写とCGの合成で派手なアクションに仕上げたのだろう。模型とモーションコントロール・カメラだけが頼りだった『スター・ウォーズ』(77)のミレニアム・ファルコン号とは雲泥の差だ。これが技術の進歩である。このシーンの演出者に座布団1枚。 ■今年もSIGGRAPHに参加しながら,とうとうそのレポートはさぼってしまった。恒例のVFXメイキング・セッションで感じたことを書いておこう。『リローデッド』(と同時に作ったこの『レボリューションズ』も)には,CG/VFXとしてかなりのチャレンジをしている。エージェント・スミスのクローンやネオまでもフルCG化したシーンはもちろんそうだ。CGネオの髪の毛の担当者は日本人だった。その挑戦心は買えるが,まだ未消化で仕上げが甘いと感じた。技術的にはILMの『ターミネーター3』の方が少し上だ。完成度まで含めると数段上で,挑戦はするが無理をせず,さすがプロの仕事だ。作品に恵まれないので,オスカーを逃しているだけだ。 ■技術水準だけを見れば,『ロード…』シリーズのWeta Digital社などは,上記2社よりも少し落ちる。それでいて2年連続視覚効果賞でオスカーを獲ったのは,使い方の上手さだ。その点この『マトリックス…』シリーズは,1作目で革命的な手法を見せておきながら,その名声が仇となってか,脚本もジョン・ゲイターのVFXも消化不良で終わってしまった。残念だ。でも,彼らの次回作の挑戦は,暖かい眼差しで迎えよう。 |
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