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O plus E 2021年Webページ専用記事#5
 
 
エターナルズ』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C)Marvel Studios 2021
 
  オフィシャルサイト [日本語]    
  [11月5日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー中]   2021年10月28日 大手広告試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  MCU26作目はフェーズ4の中心作で, 当欄の必修科目  
  本作に対する当欄のスタンスは,上記の一文に尽きる。過去10年間,良くも悪くも,この映画評のメイン欄はMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)と共にあったと言って過言ではない。この間,『スター・ウォーズ』サーガの新3部作+スピンオフ2作も登場し,ライバルDCコミックスはMCUに対抗して,DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)を打ち上げた。完全な便乗商法だ。メイン欄占有率に関してはMCUが断トツで,良くも悪くもではなく,CG/VFXの発展史にとっては圧倒的にプラスの貢献度である。
 本作はMCUの26作目であり,フェーズ4の3作目とされている。このフェーズは最終的な公開年から便宜的に区分されているに過ぎず,同じフェーズ内の作品が確たる統一コンセプトに基づいて作られている訳ではない。衆目の一致するところ,MCUの大きな区切りは『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)であった。ここが実質上のフェーズ3の終着点と思えるが,別路線で製作されてきた『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19年Web専用#3)の公開が後になったため,これがフェーズ3(2016〜19年)の最終作として扱われている。
 図らずもコロナ禍で,2020年公開予定のMCU映画がすべて公開延期となり,しばし間が空いて,2021年後期からがフェーズ4の開始となった。ただし,その1作目『ブラック・ウィドウ』(21年7・8月号)は,『…エンドゲーム』の前日譚であり,どう見てもフェーズ3の積み残し作品である。その分,『アベンジャーズ』シリーズのファンにとっては,素直に観られるスーパーヒーロー映画で,ワクワクする展開であった。
 本作も当初予定からは約1年遅れの公開となったが,その途中で『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21年Web専用#4)と順序が入れ替わった。同作は初めてアジア系のヒーローが主役となる異色作ゆえ,夏の終りの閑散期に公開しておいて,「ポスト・アベンジャーズ」の大本命たる本作を秋のハイシーズンまで待機させたのだと思われる。前宣伝の分量からしても,本作がフェーズ4の中心となる意欲作であることが伺えた。
 という訳で,当欄にとっては何が何でも観なければならない必修科目のような存在である。シリーズ化することは確実であるから,他のMCU作品との関連も把握しながら,熟視し,分析し,当欄の愛読者に報告することを義務づけられている作品と言える。ここまで書けば,賢明な読者は,出来映えは感心せず,何度も観たくなるような映画ではなかったことに気付かれるだろう。長々と前置きを述べながら,渋々でも記事にせざるを得ないと,自らを奮い立たせている次第である。
 
  クオリティは低くないが, 11人覚えるのが一苦労  
  本作の表題ともなっている「エターナルズ」とは,宇宙の始祖・セレスティアルズによって生み出され,地球の守護者として派遣されたヒーローチームの名称である。太古の昔から地球人類を見守って来た存在とのことだ。アベンジャーズがサノスを倒して平和が訪れたかに見えたが,半数になった人類が元の数に戻ったことから,新たな脅威が発生し,地球滅亡の危機が迫る。猶予はたったの7日間。これを察知したエターナルズの1人が,世界中から仲間を集め,この危機に立ち向かうという設定である。
 集まったエターナルズ達は10名で,セルシ,イカリス,エイジャック,セナ,ギルガメッシュ,スプライト,ファストス,キンゴ,マッカリ,ドルイグというらしい。予め配られたプレスシートで覚えようとしたが,誰が誰で,どんな超能力の持ち主か,さっぱり頭に入らない。アイアンマン,キャプテン・アメリカ,ソー, ハルク等の各ヒーローの超能力や個性を分かっていた上で,集結した「アベンジャーズ」を把握するのとは訳が違う。最初から,観客側にハンデを負わせているようなものだ。
 監督は,『ノマドランド』(21年3・4月号)でオスカー監督となったばかりのクロエ・ジャオ。当然,本作の監督への抜擢は,アカデミー賞3部門受賞より前だろうが,この若いアジア系女性監督に,こうした娯楽大作を仕切れるのかも興味の的であった。
 以下,個別項目に分けて論評し,評点をつける。

【オープニング・シーケンス】
 最近のVFX大作は冒頭シーケンスに力を入れ,飛び切り魅力的に仕上げているので,まずここだけを別格で論じよう。大作らしいものものしさで「エターナルズ」の由来が語られた後,BC5000年,メソポタミアの海沿いで人類が生活しているシーンが登場する。いきなり海から現れた醜悪な怪獣(写真1)が人類を襲おうとするが,天空から降臨したエターナルズ達(写真2)がこの危機を救う。いやあ,痛快,痛快。スーパーヒーロー映画はこうでなくっちゃと拍手喝采した。これなら,このシリーズは楽しめるぞと思わせてくれる冒頭シーケンスであった。
 
 
 
 
写真1 これがディヴィアンツ。醜悪そのもの。 
 
 
 
 
 
写真2 人類を護るために現れたエターナルズ
 
 
  こういう高揚感,満足感があったのはここだけで,後はおよそ地球人を助けようとしない。関わりも多くない。痛快シーンは皆無だ。勝手に地球の危機を察知して,自分たちだけで大仰に騒ぎ,敵と戦っているだけだと地球人なら言いたくなる。

【登場人物とキャスティング】
 10人のエターナルズは,簡単に覚えられなかった。上述したように,『アベンジャーズ』シリーズのようにMCUのお馴染みのキャラがいなくて,全員初登場であるだけでなく,チームの柱となる人物がはっきりしなかったこともある。
『X-MEN』シリーズも次々と新しいミュータントが登場したが,ウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)という大きな柱があったので,彼との比較や絡みで,他も順次覚えていった。『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党, 集結』(21年Web専用#4)も,一挙に14人もの受刑者を集めて特殊部隊を組むというので面食らったが,既にお馴染みのハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)という目立つ柱があった。残るメンバーは約半数があっという間に落命してしまったので,後はすぐに識別できた。
 本作の10人のエターナルズの中で,最強の戦士イカリス(リチャード・マッデン)の名前はすぐに覚えた。戦術リーダーであり,空中浮揚して,目から強力なパワービームを発するので分かりやすい(写真3)。危険な女戦士セナは,アンジェリーナ・ジョリーが演じているので,それだけですぐに分かる。戦闘好きで,身勝手な別行動をとり,どんな武器でも思うままに作ってしまう。やはり,存在感はピカ一だ(写真4)
 と言いながら,しばらくの間,覚えたはずのイカリスとデインを混同していた。イカリスはセルシのかつての恋人であり,デインは人間世界でセルシの職場の同僚で,現在の恋人である。時間を往き来して,両方が恋人で登場するから,紛らわしい。人間であるデインもエターナルズと行動を共にするので,余計に関係がややこしい。計11人だ。人間まで覚えなければならないのなら,早く言ってくれよと言いたくなった。
 
 
 
 
 
写真3 目から強烈なビームを発する最強戦士のイカリス 
 
 
 
 
 
写真4 女戦士セナを演じるアンジー。存在感はピカ一。
 
 
 その他は,見かけが似ているから覚えにくいのではない。むしろその逆で,原作コミックのキャラクターの性別,人種,年齢を変えてでも,意図的にバラエティに富ませている。10人の内の4人が女性で,スプライト(リア・マクヒュー)の外観は12歳の少女だ(実は何千年も生きている)。発明家のファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)は黒人,怪力のギルガメッシュ役は韓国ソウル生まれの,マ・ドンソク(現在は米国籍で,ドン・リーを名乗る)が演じている。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017年9月号)『悪人伝』(20年7・8月号)の悪人面の男優である。さらに,人の心を支配できるドルイグ役のバリー・コーガンはアイルランド生まれ,セレスティアルズと交信できるエイジャク役のサルマ・ハエックはメキシコ生まれ,陽気なキンゴ役のクメイル・ナンジアニはパキスタン生まれ,セルシ役のジェンマ・チャンは中国系英国人と,出身国や人種にも多様性をもたせている。それだけなら,一旦解散し,世界中に散っていたからだと言い訳できるが,高速移動できるマッカリに本物の聴覚障害者ローレン・リドロフを起用し,ファストスはゲイであるという設定まで入れている。そこまでして多彩に見せたいのか,少しやり過ぎではないかと感じた。
 この10人のリーダーの役割は,召集をかけたエイジャックから,次第にセルシに移ってくる。ところが,この役を演じるG・チェンがあまりにも地味だ。『シャン・チー』の主人公達ほど酷くはないが,さほど美形ではないし,オーラも感じない。看板シリーズの主役を託すなら,もう少し名のある才色兼備の女優を起用するか,ルックスだけで万人を惹きつける新人女優を抜擢して欲しかったところだ。

【脚本と演出】
 エターナルズの10人が覚えにくいのは,人数だけの問題ではなく,それそれの魅力を引き出す演出がなかったからだ。『アベンジャーズ』シリーズでは,既に個々の単独主演作で得意技が知られているヒーローにも,しっかりとした出番が与えられていた。ましてや,新規参入メンバーとなると,その魅力を満喫させるだけの活躍時間が割かれていた。それをしながら,全編でまとまりのあるストーリーとし,満足感の高い映画に仕上げていたことに,毎度感心していた。脚本力,演出力である。
 本作の上映時間はほぼ同じだけありながら,殆ど脚本面での工夫が感じられなかった。元はアメコミであり,スーパーヒーローの活躍による爽快感こそが,最大のセールスポイントではないか。明るく,痛快な映画で何が悪いのか。高級感を出したいのか,シリアスな物語にしたがる傾向がある。仰々しい音楽,妙に気取った暗い絵作りで,哲学めいた宇宙の摂理を説いて何になる? 筆者には,根本的な企画が間違っているとしか思えない。
 脚本だけでなく,監督の演出力にも問題があると感じた。風変わりなドキュメンタリー風の映画でオスカーを得たのは,ある種の物珍しさ,人種差別と言われることを恐れるアカデミー賞審査員の投票行動ゆえの産物だと思う。この監督は,こうした世界レベルの娯楽大作を演出するには,力量不足だと感じた。これは本人の実力以前に,起用した製作者側の問題だ。

【CG/VFXの質と量】
 最近,ディズニー配給作品だけでなく,半数以上の娯楽大作を低評価していて,自分でも気が滅入るが,いずれもCG/VFXだけはしっかりと作り込まれている。本作のVFXは,質・量共にさすがMCU作品と思える出来映えだった。
 数えれば切りがないほどだが,代表的シーンだけを列挙しておこう。
 
  ■ まずは,写真1で示したモンスターで,これが宿敵ディヴィアンツである。その後も何度か登場するが,この醜悪さは一級品だ。おそらく,ILMのベテラン・アーティストがデザインしたクリーチャーだと予想する。
 ■ エターナルズを運んで来た宇宙船(写真5)は「ドーモ(Domo)」と呼ばれていたと記憶している。『2001年宇宙の旅』(68)の「モノリス」を巨大化して,水平に置いたような躯体に見えたが,どうやら水平面は長方形ではなく,三角形(即ち,高さ方向が短い三角柱)のようだ。CG描写するのに何の問題もないが,その外壁にコズミック・エネルギーを蓄えた金管模様が配されていることに注意されたい。中盤で,このドーモが再度登場する。イラクに赴いたエターナルズの前で,地面が崩落し,地中から巨大なドーモが姿を現す(写真6)。ドーモそのものよりも,この大規模崩落の描写が見事だった。

 
 
 
 
 
 
 

写真5 エターナルズを運ぶ宇宙船のドーモ

 
 
 
 
 
写真6 地面が陥没し,地中からドーモが出現する
 
  ■ コズミック・エネルギーを象徴する金ピカ模様は本作の至るところで登場する。人類に初めて姿を見せる写真2の時に,既に各エターナルは身に着けている。光線のように見えるし,太い針金細工のようにも見える。これを武器として自由自在に操れるのがセナだ。ギルガメッシュは前腕に配備して,アームガードとして使っている(写真7)。このパワーを軽く利用するだけで,バスなどは簡単に横転させることができる(写真8)
 
 
 
 
 
写真7 コズミック・エネルギーは武器としても盾としても使える 
 
 
 
 
 
写真8 宇宙のエネルギーを少し使えば,こんなことも
 
 
  ■ その他,壮大さを演出したい場面で,CG/VFXが多用されている(写真9)。質は悪くないが,最近のCG技術からすれば,何も目新しくない。本作のVFXの主担当はILMで,その他,Skyline VFX,Weta Digital, Luma Pictures, Rise Visual Effect Studio等が参加していた。
 
 
 
 
 
 
 

写真9 壮大なシーンでVFXが多用されているが,至るところに金の輪。
(C)Marvel Studios 2021

 
 
 【総合評価】
 脚本&演出で酷評したのは,前宣伝が盛んで,過去の実績から期待が大きかったからだ。☆+評価にしようかと思ったが,『シャン・チー』以下という訳にも行かないので,☆☆に留めた。スーパーヒーロー映画のあり方を間違えているだけで,映像,音楽,個々の俳優の演技は悪くない。美術やメイクも一流だ。これから方向を少し変え,初期のMCUのマインドに少し軌道修正するだけで,次作以降はかなり改善された作品になると思う。いや,そう期待したい。ただし,監督交替は必須条件だろう。

 
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