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O plus E誌 2009年10月号掲載
 
 
『ワイルド・スピード MAX

(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)

      (C) 2009 Universal Studios
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月9日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2009年7月6日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]
 
         
   
 
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ファイナル・デッドサーキット 3D』

(ニューライン・シネマ
/ギャガ配給 )

      (C)MMV New Line Productions, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月19日より丸の内ピカデリーほか全国松竹系にて公開予定]   2009年9月9日 アキバシアター(東京)
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  シリーズ4作目で原点回帰・再浮上を狙った2作品  
 

 何かと共通項の多い2作品だ。毎度米国の批評家には酷評されるが,固定ファンの多い人気シリーズである。共に4作目となる今回は何やら題名も似て来たが,元来ジャンルは違う。片方は無法ストリート・カー・レースを描いた爆走バイオレンス・ムービーであり,他方は登場人物が次々と惨い事故死をするサスペンス・ホラーである。配給会社が首尾一貫しない邦題をつけてきたが,原題は4作目で原点帰りをし,起死回生の再出発を図ったという点ではとてもよく似ている。
 題名の変遷を振り返ってみよう。前者シリーズが『The Fast and the Furious』(01)『2 Fast 2 Furious 』(03)『The Fast and the Furious: Tokyo Drift 』(06) に対して,『ワイルド・スピード』(01年10月号) 『ワイルド・スピードX2』(03年9月号) 『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(06年9月号) という意訳で切り抜けていた。ところが,原題が4作目でシンプルな『Fast & Furious』 (09) と原点帰りしたので苦しくなり,『ワイルド・スピード MAX』としたが,何が「MAX」なのかさっぱり分からない。
 後者は,原題が『Final Destination』(00) 『Final Destination 2』 (03) 『Final Destination 3』 (06) とシンプルなのに,邦題は『ファイナル・デスティネーション』(01年2月号)『デッドコースター』(03年7月号)『ファイナル・デッドコースター』(本誌非掲載)と迷走してしまった。そこに4作目が『The Final Destination』(09) と来たが,表記のような奇妙な邦題とせざるを得なくなった訳である。これでは,4作品が同コンセプトのシリーズと分からないではないか。

   
  原メンバー復活は正解だが,レース場面は新味なし  
 

 さて,片方ずつ語ろう。1作目の『ワイルド・スピード』は小気味いい秀作だった。主演はイケメン潜入捜査官のポール・ウォーカーと盗品密売アウトローのヴィン・ディーゼルで,悪漢ものとしても出色だった。LAを舞台に,ニトロ噴射装置を配した改造カーの爆走がウリだった。「この映画はプロのスタント・ドライバーの運転によるもので,絶対に真似しないように」との注がついていた。2作目はP・ウォーカーだけが1枚看板でマイアミに舞台を移したが,魅力は倍増どころか半減だった。3作目は繋がりもなく,主役も変わり,舞台を東京になっただけで,全くの駄作だった。
 そこで原点回帰し,存在感のあるスキン・ヘッドのワル,ドミニク(V・ディーゼル)が南米の逃亡先から帰国し,退職していたブライアン(P・ウォーカー)もFBIに臨時復職するという設定である。ドミニクの恋人と妹役も第1作目のまま再登場し,オリジナルメンバーであることを最大のウリにしている。監督のジャスティン・リン,脚本のクリス・モーガンは3作目からの継続登板だが,まるで違う映画に変身できたのは,やはりオリジナルメンバーの存在感と言わざるを得ない。
 つかみとして,冒頭のトレーラー丸ごとの奪取作戦は実に痛快で迫力あるシーンだ(写真1)。有り得ないバカバカしい強盗劇であるが,映画ならではの痛快で大胆な見せ場だ。本シリーズのもう1つのウリは,どんなクルマがチューンナップされてレースに出てくるかだが,主演の2人は,ドミニクが70年型のシルバーのダッジ・チャージャーに,ブライアンが99年型の青いスカイライン R34 GT-Rに乗る(写真2)。スカイラインの車名が残る最後のGT-Rで,多分に日本人の「スカG」ファンを意識した選択だ。疾走シーンでは,しっかり丸いテールランプが何度も映るよう計算されている。

   
 
写真1 冒頭のトレーラー強奪は見事なアクション演出
 
   
 
写真2 ブライアンが乗る青のスカイライン R34 GT-R
 
   
 

 レース模様は少しマンネリで新鮮味はないが,ファンにはこれでいいのだろう(写真3)。ドリフトのオンパレードで,徹底的に暴力的,アウトローで,あまりクールではない。まるで高倉健と鶴田浩二が登場する東映仁侠映画を思い出させる古くささだ。それでいて,CG/VFXはかなりパワーアップしている。というか,従来は実写のカー・スタントをウリにしていたのに,かなりのシーンがCGで代用されている。CG/VFXでコストダウンを図っていると言っても過言ではない。アメリカとメキシコの国境の地下を通る秘密のトンネルが登場するが,このトンネル内の疾走シーンの大半はCG製だろう(写真4)
 この映画はヒップポップ調の音楽が騒々しい。DVDならそこだけボリュームを下げないと,隣家に迷惑だ。

   
 
写真3 ストリート・カー・レースはあまり新味なし
 
   
 
 
 
 
 
写真4 トンネル内のシーンは実車で,周りがデジタル製
(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
  キワモノに3Dを組合せて,刺激度は倍増
 
 

 一方の『Final Destination』シリーズは見事なまでに定型化されたパターンを踏襲している。毎度若い無名俳優たちを起用してコストダウンを図るとともに,徹底したB級ホラーの味付けを守り続けている。若い男女の中の誰か1人が予知夢を見る能力があり,大惨劇に巻き込まれて死ぬことを免れる。ところが「死の運命」から逃れることはできず,生き残ったはずの者たちが,次々と凄惨な事故死を遂げるというパターンだ。大抵のホラーは最後はハッピーエンドなのに,この映画は遠慮会釈がない。それも目を背けたくなるほどの酷い死に方,滑稽とも思えるような展開だ。評論家にキワモノと酷評されても,面白いものは面白い。一度観たらやめられない,病みつきになる3年おきの「恐怖の祭典」である。
 本作の監督は『スネーク・フライト』(06年11月号)のデヴィッド・R・エリス。本シリーズの2作目の監督であり,6年ぶりの再登板だ。今回予知夢を見る主人公のニック演じるのは,ボビー・カンポ。若き日のポール・ニューマンに似たなかなかのイケメンだ。一方,女性群にはあまり印象に残る俳優はいなかった。
 原題で「4」とせず「The」を冠した本作は,話題の3D映画の形で登場した。それも最近の大人しい自然な立体感でなく,飛び出し感を強調する古いスタイルの演出だ。これがハンパな数ではなく,話の切れ目毎に3D予知夢が登場する。惨劇の発端となるサーキット上の異物(写真5)に始まり,横転するレースカー(写真6)や飛んで来るタイヤ(写真7)も当然3D-CGによる表現だ。その後も,崩落シーン,爆発シーン等,随所でCG/VFXの出番がある(写真8)。主担当はHybride TechnologieとCafeFXの2社だ。そう高級なVFXではないが,少しチープな作りがこの映画のテイストと合致している。もともとキワモノの本シリーズに,どぎつい3D表現を組合せたのは正解だ。

   
 
写真5 大惨事の原因となる小さな工具も立体表示で注目の的
 
   
 
写真6 横転し観客席まで迫り来るレースカーも立体表示で恐怖倍増
 
   
 
写真7 空中から飛来するタイヤはもちろんCG製
 
   
 
 
 
 
 
写真8 一難去った後の惨劇の連続にも,CG/VFXやワイヤーアクションがしっかり使われている
(C)MMV New Line Productions, Inc. All Rights Reserved.
 
   
 

 本作の別の工夫は,次はこう来るだろうと予想させておいて,それを見事に外してくる。2段,3段構えで事故死に追いやったり,そのまま何事もなく終わらせたりする。完全に見慣れたファンを欺く手口である。そのためか,前作までの怖さが少し減ってしまったのが残念だ。本シリーズの根っからのファンである筆者は,この意外性の演出が気に入らず,少し評点を下げた。
 それでも,若い男女には受けていて,満足度も高かったようだ。ファミリー向けのCGアニメでは物足りない,刺激を求める世代のデートムービーに最適だ。

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  (画像は,O plus E誌掲載分に入替・追加しています)  
   
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