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O plus E誌 2021年1・2月号掲載
 
 
『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画
(アット エンタテインメント配給 )
      (C)2019 FOX STAR STUDIOS A DIVISION OF STAR INDIA PRIVATE LIMITED AND CAPE OF GOOD FILMS LLP.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [1月8日より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー]   2020年11月22日 オンライン試写を視聴
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ボリウッド映画初の宇宙ものは,女性科学者が主役  
  こちらも,本誌発行時には既に公開が始まっている映画で,しかも宇宙ものだ。1月8日に公開されたのは主要都市だけで,後は順次公開だというので,遅れながらも本号で取り上げることにした。本作も宇宙探査がテーマであるが,SF映画ではなく,国家レベルの宇宙開発計画の成功例を映画化したものである。映画製作本数世界一のインド映画だが,こうした本格宇宙ものは初めてとのことだ。Netflixの隆盛にも目を見張るが,インド映画産業の活力も注目に値する。
 昨年末,日本国内では「はやぶさ2」が無事地球に帰還したことに沸き立った。小惑星探査で,惑星表面内部からサンプルを採取したという点では偉業であるが,世界レベルでは,各国がもっと大規模な宇宙開発にしのぎを削っている。伝統的に米国,ロシアが牽引していることは誰もが知っているが,最近,中国の進出が目覚ましい。2003年に有人宇宙飛行に成功し,2013年に無人探査機の月面着陸を達成,2019年に世界で初めて月の裏側へも着陸させたことは記憶に新しい。
 一方のインドはと言えば,1970年頃から独自のロケット開発を開始し,21世紀に入ってからこれを加速している。まだ着陸経験はないものの,2008年に月面探査機を月の周回軌道に乗せることに成功した。続いて2014年には,中国よりも先に探査機を火星周回軌道に投入することを達成した。この後者が「火星探査機マーズ・オービター・ミッション(ミッション・マンガル)」で,本作はこの計画の成功物語を映画化したものである。その意味では,「はやぶさ(1号)」の2010年の帰還後,『はやぶさ/HAYABUSA』(11年10月号)『はやぶさ 遥かなる帰還』(12年2月号)『おかえり,はやぶさ』(12年3月号)の3本の映画が作られたのと同じ発想だ。本数は1本だが,CG/VFXの利用は本作の方が上で,大作感がある。また,成功後すぐにではなく,ISRO(Indian Space Research Organisation,インド宇宙研究機関)の設立50周年を記念して,2019年に製作されたことも付記しておこう。
 副題に「崖っぷちチームの…」とあるのは,2010年にISROの威信と命運をかけたロケットの打ち上げが失敗に終わり,その責任者たちは実現性の乏しい「火星探査計画」の閑職に異動させられたことを指している。そこから一念発起,女性科学者の画期的なアイディアを採用し,低予算で計画実現に向かう物語となっている。
 映画は「Fox STAR」ブランドだが,本作を手がけるのに,『パッドマン 5億人の女性を救った男』(18年11・12月号)の製作チームが再結集している。監督を務めたR・バールキが製作・脚本に回り,助監督だったジャガン・シャクティが監督に昇格し,アクシャイ・クマールは引き続き主演で,プロジェクト責任者のラケーシュ・ダワンを演じている。とは言うものの,大きなウリは,女性科学者たちが活躍に焦点を当てた女性映画だということだ。インド映画の女優は馴染みが薄いので名前は省くが,タラ,クリティカ,エカ,ネハ,ヴァルシャーなる5人の女性の科学者が物語を牽引する。ケヴィン・コスナーとNASAで働く女性数学者3人を描いた『ドリーム』(17年10月号)を思い出す。
 実際には,本作の女性5人がどこまでプロジェクトに寄与したのかは不明だが,この5人だけでプロジェクトが動く訳はない。ISROの女性職員比率は日本のJAXAの比率よりも上らしいので,女性が多数参加していただろうが,『パッドマン…』の成功から,女性科学者を前面に押し出す戦略を採ったのだと想像する。
 以下は当欄の視点からの分析と感想である。
 ■ 冒頭のロケットの打ち上げ失敗も含めて,CG/VFXの出番は随所にあった(写真1)。ISROの全面協力下での製作というから,打上げシーンや施設内の様子は,本物の映像を借用した可能性も高いが,どこがそうなのか区別はつかなかった。飛翔し,爆発するロケット(写真2)や火星周回軌道での探査機(写真3)は当然CGだろう。前者は見るからに少しチープだった。
 
 
 
 
 
写真1 インド製PSLV-XLロケットの打ち上げシーン
 
 
 
 
 
 
 
写真2 こうしたアングルでのロケットはCG製だろう
 
 
 
 
 
写真3 こちらは火星周回軌道に到達した宇宙船
 
 
  ■ それに管制室や格納庫等の描写は良くできている(写真4)。実物は知らないが,しっかり調査して本物そっくりに作られていると想像した。その反面,違和感があったのは,女性科学者のほぼ全員が民族衣装のサリー姿で登場することだ(写真5)。いくら公式の民族衣装とはいえ,男性がスーツ姿の技術会議や管制室の中まで,本当にサリー姿なのだろうか? さすがにないだろうと思ったのだが,お馴染みの歌って踊るシーンもしっかり登場する(写真6)。それが緊迫感を損ねていることが残念だ。このダンスシーンのために,ほぼ全編でサリー姿にしたのじゃないかと勘ぐってしまった。
 
 
 
 
 
写真4 ISRO施設内の格納庫等の描写も丁寧
 
 
 
 
 
写真5 本当にIRSO施設内でもサリー姿だったのか?
 
 
 
 
 
写真6 やはりお馴染みのダンスシーンがあった
(C)2019 FOX STAR STUDIOS A DIVISION OF STAR INDIA PRIVATE LIMITED
AND CAPE OF GOOD FILMS LLP, ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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