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O plus E誌 2019年5・6月号掲載
 
 
神と共に』
(ロッテ・エンターテインメント/ツイン配給)
 
 
 第一章:罪と罰
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(C) 2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS


 
     
  [5月24日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2019年4月4日 GAGA 試写室(大阪)
       
 
 第二章:因と縁
   
(C) 2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS


 
     
  [6月28日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2019年5月3日 サンプルDVD観賞
  オフィシャルサイト[日本語]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  テーマは地獄ファンタジー,膨大なVFXで描写  
  邦画の大作の次は,韓国映画のヒット作だ。スケールの大きなファンタジー・アクション映画で,VFXの使用量は『空母いぶき』よりも,こちらの方が圧倒的に多い。過去に観た韓国映画でも最大級と言って過言ではない。2部構成で,第二章は第一章の約1ヶ月後に公開されるが,ここでは2本まとめて語ることにしよう。
 元は韓国の人気ウェブ・コミックで,長期連載の中から,ある人物を中心に物語を再編集して映画化したとのことだ。題名に「神」があるので,「神話ファンタジー」と言えなくもないが,「地獄ファンタジー」と言った方が正確だ。この地獄の定義や描写がユニークで,ワクワクする。「3人の使者と共に,7つの地獄を突破しろ!」がキャッチコピーだが,冥界に行った亡者は,49日間に7つの地獄で裁判を受け,すべて無罪でクリアできた亡者のみが現世に生まれ変わるという設定である。
 2部作の全編で登場する3人の使者は,過去1000年間で47人を転生させているが,これが49人に達すると彼らもまた人間に生まれ変われる。第一章はその48人目である消防士キム・ジャホン(チャ・テヒョン),第二章は49人目である彼の弟スホン(キム・ドンウク)を使者たちが護衛・弁護する物語となっている。
 監督・脚本は,『ミスターGO! 』(14年5月号)のキム・ヨンファ。CG製のゴリラを野球選手として活躍させたこの映画の実績で,韓国映画初という2部作の同時製作の監督に抜擢されたようだ。3人の使者のリーダー格カンニム役は『チェイサー』(09年5月号)のハ・ジョンウ,戦闘能力の高い護衛ヘウォンメク役を「アシュラ」(16)のチュ・ジフン,死者の生前の姿が見える女性補助弁護士ドクチュン役に『私のオオカミ少年』(12)のキム・ヒャンギというキャスティングである。その他,閻魔大王役のイ・ジョンジェ,屋敷神役のマ・ドンソクも存在感のある俳優である。
 ちょっと意外だったのは,男性使者役のチュ・ジフンが典型的な韓国風イケメン男優であるのに対して,女性使者役のキム・ヒャンギがおよそ美人女優ではなかったことだ(写真1)。性格がよく,親しみのある顔立ちと言えるが,これじゃまるでオフィスの隅にいる女性事務員か殆どセリフのないお手伝いさん風の容色だ。ところが,物語の進展につれ,彼女の癒し系の存在に心地よさを感じ,第二章の終盤で彼女の生前の姿が明らかになると,なるほどこのキャスティングで良かったのだと納得する。
 
 
 
 
 
写真1 女性使者役のキム・ヒャンギ(右)は,韓流の美人女優とはだいぶ違う
 
 
  仏教的背景をもつ世界観,日本人には親しみやすい  
  2部作の内,映画としては第一章の方が断然面白い。冒頭からこのファンタジーの世界観に圧倒され,7つの地獄の描写と各々で無罪を勝ち取る展開に,すっかりハマってしまうからだ。特に日本人には,閻魔大王,三途の川といった馴染みのある言葉が出て来て,同じ仏教的死生観があると感じる。それでいて,韓国と日本の違いを点検したくなるのも,この映画の愉しみである。
 ■ 日本の定説では,「三途の川」は「此岸(現世)」と「彼岸(あの世)」の境目であり,六文銭を払ってこの川を渡る。しかる後に冥界の王たる「閻魔」の審判を受け,最も悪行のあった者が六道の最下層の地獄に落ちる。ところが本作では,冥界に入った後,7つもの地獄を巡って,個々の悪行の審判を受け,最後の「天倫地獄」に裁判長の「閻魔大王」が待っている。「三途の川」は1つめの「殺人地獄」と2つめの「怠惰地獄」の間にある。
 ■ 「殺人」「怠惰」「ウソ」「不義」「裏切り」「暴力」の6つの地獄には「変成大王」「初江大王」「泰山大王」「五官大王」「宋帝大王」「秦広大王」がいて,それぞれかなり個性的に描かれていた。「閻魔大王」と言えば,かなり大柄の肥満体で,長い顎髭のイメージだが,本作では細面のイケメンで,凛々しいルックスだった(写真2)

 
 
 
 
 
写真2 天倫地獄と閻魔大王(中央)。こちらもだいぶイメージが違う。
 
 
   ■ 物語は続いているので,第一章ほどの驚きはなかったが,第二章もそれなりに面白かった。第二章では下界(現世の人間社会)でのエピソードの比率が高く,地上げ,生活保護等の俗で生々しい話題が登場する。サラ金,ファンド,リーマンショック,ビットコイン等の言葉も出て来る。韓国で生活したらホームレスになる等,韓国経済を茶化している。これには笑った。終盤は一転して,3人の使者の真実が明らかになり,法廷劇としても見応えがあった。堂々たる2部作の締め括りである。

 
 
  韓国最大手Dexter Digital社による意欲的なVFX  
  上記の世界観を魅力的にしているのは斬新なビジュアルであり,膨大な量のVFXでの実現である。以下,それを当欄の視点から論評する。
 ■ まず冥界の始まりは,岩場で蒸気や火炎が立ち上る「火湯霊道」で,その中を移動する木製の歩道が組まれていた。箱根大涌谷,別府温泉,登別温泉等で見かけた「地獄谷」の風景にそっくりだ。韓国の温泉事情は知らないが,同じように「地獄めぐり」の観光スポットがあるのだろうか? 日韓の文化の類似性を再認識した。
 ■ 何と言っても,7つの地獄の美術デザインが素晴らしい。各地獄の入口のビジュアルでまず圧倒し,各地獄の法廷のシーンもそれぞれユニークなデザインを凝らしている(写真3〜6)。各地獄の内部や境界には,「剣樹林」「寒氷峡谷」「天地鏡」「真空深穴」「千古砂漠」なる場所があり,こちらも同様に美術班の意欲が感じられる。一部は大掛かりなセットを組んだようだが,殆どはCG/VFXによる実現であり,俳優たちは大半のシーンでグリーンバックでの演技を強いられている。
 
 
 
 
 
写真3 最初の関門は「殺人地獄」の法廷
 
 
 
 
 
写真4 「怠惰地獄」での裁判は,竹製の水上法廷で
 
 
 
 
 
写真5 ホログラム像が登場するのは「ウソ地獄」の法廷
 
 
 
 
 
写真6 「暴力地獄」では,大きな石造りの法廷で申し開き
 
 
  ■ 裁判が進むにつれて地獄鬼や怨霊が出現する。一方,下界に降りた使者たちは超能力を発揮できるので,飛んだり,姿を消したりできる。いずれもCG/VFXの活躍の場だ(写真7) 。その主担当は,前述の『ミスターGO!』を担当したDexter Digital社である。韓国最大のVFXスタジオであり,傘下にDexter Chinaも有している。本作の製作にも名を連ねているので,同社の社運を賭けての作業だったことだろう。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 下界での使者の行動はVFXシーンの連続
 
 
   ■ 第一章の終盤で,砂地に母親の顔が描かれるシーンが登場する(写真8)。人海戦術で砂絵を描いた可能性もあるが,これは多分CGだろう。第二章では,CGで描いた恐竜,虎,鹿,狼等が登場する。意欲は買えるが,残念ながら,そのクオリティは今イチだった。とりわけ,虎は『アラジン』と比べると,その差が目立つ(写真9)。怪魚(写真10),魔物(写真11)や地獄風景のように,誰も本物を見たことない場合は多少誤魔化せるが,実在する動物の描写では,まだ欧米のCGスタジオほどの実力はないようだ。 
 
 
 
 
 
 
 
写真8 砂地に描かれた人物像は手作業? CG?
 
 
 
 
 
写真9 この大きさだと目立たないが,アップで見ると少し見劣る
 
 
 
 
 
写真10 三途の川に棲むピラニア風の人面魚
 
 
 
 
 
写真11 倒すと砂塵となって消えるのは最近の流行。これは上出来。
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  (画像は,O plus E誌掲載分に入替・追加しています)  
   
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