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O plus E 2019年Webページ専用記事#5
 
 
ジェミニマン』
(パラマウント映画/ 東和ピクチャーズ配給)
      (C)2019 PARAMOUNT PICTURES
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月25日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年10月8日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
ロボット2.0』

(アンプラグド& KADOKAWA配給)

 
      (C)2018 Lyca Productions
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [10月25日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年10月4日 GAGA試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  同日公開の2本は,いずれも1人2役以上で登場  
  隔月刊の間を埋めるためのWeb専用記事なのに,このWeb#5は本誌よりも充実している。何と今回は画像入りのメイン記事6本の予定だ。月刊のままであったとしても,最近はCG/VFX大作を拾い切れない。その大半が世界同時公開になりつつあり,公開直前の試写会が多いため,締切に間に合わないためだ。
 今回の6本の内,4本がロボット,クローン,サイボーグといったSFものである。内2本をペアにして語ろう。同日の公開の上に,主演男優が1人2役というのが共通項だ。いや,中身をじっくり見れば,2役以上だということが分かる。片やクローン人間,もう1本は開発者に似せて作ったロボットが登場する。
 
 
  もう「不気味の谷」は感じない,若作りのコピー人間  
  ウィル・スミス演じる主人公のヘンリー・ブローガンは,DIA(米国国防情報局)のエージェントで,凄腕のスナイパーである(写真1)。引退を決意したヘンリーが,政府に依頼されたミッションを遂行中,突然何者かに襲撃され,翻弄される。ヘンリーの動きをすべて把握して攻撃してくる神出鬼没の暗殺者は,彼とそっくりで,若さ溢れる自分のクローンだった。DIAは,彼の類い稀なる運動能力,狙撃能力をもつクローン(ヘンリー・ジュニア)を育成する計画を秘かに進め,秘密組織「ジェミニ」の責任者であるクレイトン・ヴァリス(クライヴ・オーウェン)が父親として彼を育てていたという訳である。
 
 
 
 
 
写真1 主人公はDIA随一の凄腕スナイパー
 
 
  23年も前から,ヘンリーがそこまでの狙撃手であったか,クレイトンもDIAの要職にあったのかという疑問が残るが,筋立てとして矛盾はない。ドローン羊が作られたのが,23年前の1996年であるから,既にその時にクローン人間の生成技術も完成していたと考えれば,辻褄は合う。
 監督は,『グリーン・デスティニー』(00)『ブロークバック・マウンテン』(05)の名匠アン・リー。オスカー2度受賞の名監督だが,CG大作は『ハルク』(03年8月号)『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(13年2月号)で経験済みである。ヒロインは,メアリー・エリザベス・ウィンステッド。『ファイナル・デッドコースター』(06)で大事故を予知できる主人公を演じ,『ダイ・ハード4.0』(07)『ダイ・ハード/ラスト・デイ』(13年3月号)でマクレーン刑事(ブルース・ウィリス)の娘役だった女優である。さして美人に見えなかったが,途中から,徐々に魅力的に見えてくる。DIAエージェントで,中盤からヘンリーと行動を共にして敵と戦うパターンは,スパイ・アクションものの定番だ。
 この種の辣腕エージェントのアクション映画としては,凡庸で,さしたるサスペンスもない。ただただ若いクローンのウィル・スミスをどう見せるか,この映画のウリはその1点に絞られている。以下,その観点からの論評である。
 ■ 通常,老け顔は特殊メイクを施して作る。若くする側は,簡単な化粧でそれらしく見せられる。大幅な若返りとなるとVFXに頼らざるを得ないが,かなり以前から試みられている。既に10数年前の『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(06年9月号) で,プロフェッサーX(パトリック・スチュアート)もマグニートー(イアン・マッケラン)を20歳以上若返らせていた。きちんと2人の顔面幾何形状モデルを作成していたかは定かでない。いかにもデジタル加工だなと感じるレベルで,まだまだ違和感があった。『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(15年8月号)では,お馴染みのターミネーターT-800を,青年期,壮年期,老年期の3世代のルックスで描いていた。老年期は67歳のA・シュワルツェネッガーがそのまま演じ,青年期はシリコン・ラバーとCGの併用だった。後者は,いかにも作り物だが,金属製のロボットにラバーの皮膚を付けて製造したばかりのT-800という想定だから,違和感があっても問題はない。壮年期は,本人の演技に顔だけ少し若返りだが,別途CGモデルがあるので,これはそう難しくなかっただろう。登場場面もそう多くなく,夜のシーンであったので,出来映えをじっくり観察して評価できるレベルではなかった。
 ■ 最も真面目に顔面の年齢変化に取り組んでいたのは,アカデミー賞視覚効果賞,メイクアップ賞を受賞した『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(09年2月号)である。80歳で誕生し,どんどん年齢が若くなって0歳で死亡するという主人公をブラッド・ピットが演じ,彼の顔をCG/VFX技術で 80歳から少年期まで変化させていた。強く印象に残ったのは,80歳の老人の顔である。実年齢より若い青年期の顔は,ブラピがカッコいいなと感じただけで,若い方の顔はあまり記憶に残っていない。共演のケイト・ブランシェットの若い顔も同じ技術で作っていた。ただし,上記のいずれの作品でも,老若,年齢差のある2つの顔が並んで登場することはなかった。
 ■ こうした過去作品に比べて,本作での若返りは圧倒的にレベルが高い。登場場面も多く,2人を見比べられるシーンも多用されている。完全に年齢の違うウィル・スミスが2人いると感じる出来映えだ(写真2)。ウリにするだけのことはある。勿論,Facial Capture技術でウィル・スミス自身の顔の演技を観測し,若いCGの顔にマッピングしている。実際には,ウィル・スミスの20年前の出演作での顔立ちとは少し違っているが,むしろ今の顔を若くしたこの顔の方が,本作の目的には合っている。劇中で少し感心したのは,若いヘンリー・ジュニアが涙を流すシーンだ(写真3)。ウィル・スミスが涙を出す実演まで,しっかり転写している訳だ。ここまで来ると,偽物が本物に近づく時に感じる「不気味の谷」(Uncanny Valley)現象を軽く飛び越えている。この技術があれば,また映画作りが変わる。少年時代,青年時代に若手俳優を起用することなく,回想シーンが自在に描けるからだ。もっとも,まだ制作コストが高いので,代役を起用する方が圧倒的に安上がりである。
 
 
 
 
 
写真2 手前が23歳のクローン暗殺者。なるほど,そっくりで若い。
 
 
 
 
 
写真3 涙を流すシーンまで,実演を正確に転写
 
 
  ■ 顔の話ばかりをしたが,老若の2人のバイクチェイス・シーンは見応えがあった(写真4)。このシーンにもVFX技術は多用されている。CG/VFXの主担当は,Facial Captureが得意なWeta Digitalで,他にScanline VFX,Park Road VFX, UPP,Legend 3D,Eastside Effects,等が参加している。プレビズ担当は 最大手のThird Floor社だ。本作は,60fpsで3D撮影する「3D+IN HFR」の導入もセールスポイントにしていた。倍速ゆえに,バイクアクションもボケずに効果があったのかも知れないが,映画全体は3Dにする意味を余り感じなかった。
 
 
 
 
 
写真4 バイクチェイスは迫力あるが,さすがにこのシーンの追跡者は代役のスタントだろう
(C)2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
  前作より少しダークだが,CG倍増のSFコメディ  
  前作は2010年に製作され,日本では2012年に公開されたインド映画のSF娯楽大作『ロボット』(10)の続編である。 CGをふんだんに使ったコメディ,爆笑ものとの評判だった。今調べると,キャッチコピーは「ワケわからんが面白い」となっている。当欄で紹介しなかったのは,試写の案内がなく,題名も地味で,宣伝を目にすることもなく,評判が聞こえて来るまで,全く存在を知らなかったからである。まだ上映している単館系の劇場を探してでも追いかけなかったのは,次々と公開されるハリウッド系のVFX大作やフルCGアニメに追われて多忙だったためもあるが,大味なボリウッド映画のSFじゃエレガンスに欠けるし,CG レベルは取るに足らないと高を括っていたのだろう。加えて,日本公開版は139分で,オリジナルから約40分も圧縮されているという(それでも十分長いが)。それも食指が動かなかった言い訳の1つである。
 8年後に続編が作られ,インドで記録的なヒットになるとは予想できなかった。続編を作るということ自体,前作の評判が良かった証拠だろう。慌てて,前作のDVDを探したが,幸いにもAmazon Primeで無料で見られることが分かった。それも元の177分完全版である。早速,約3時間を割ける夜を待って,じっくりメモを取りながら眺めた。
 主演は,『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)のラジニカーントで,天才科学者のバシー博士と彼が自分に似せて作った人間型ロボット「チッティ」の1人2役を演じている。もっとも,この2役は『ジェミニマン』ほど似せていなくて,チッティはいかにも作り物っぽい。その上,博士には口髭と顎髭があるが,チッティにはなく,意図的に見かけを変えている。チッティは,アニマトロニクス,CG,少しメイクを施したラジニカーントの3形態で描かれている。どこで切り替わっているのか全く分からなかったと言いたいところだが,違いが容易に分かるレベルでの絵作りだ。それでも,CG/VFXのボリュームがたっぷりあるのが嬉しい。とりわけ,多数のロボットのフォーメーションが圧巻だ。球になったり,ドラゴンになったり,連なってヘリまで届いてたりする。これはボリウッド内で賄ったのではなく,ハリウッド系のLegacy Effects社が,SFXもVFXもほぼ一手に引き受けている。
 何よりも嬉しいのはチッティが,頓珍漢な対応で騒動を引き起こしながら,知識を吸収して成長して行く過程のギャグ描写だ。バシー博士が,学習しつつ,感情を持つよう改良したため,あろうことか,チッティは博士の恋人のサナ(アイシュワリヤー・ラーイ)に恋してしまう。それで起こる珍問答や大騒動が抱腹絶倒ものだ。
 悪役のボラ博士が,神経回路チップを不正入手して,チッティを大量生産し,戦闘用の殺人兵器として利用しようとする発想は『ジェミニマン』に似ている。ところが,チッティがボラ博士を殺害して暴走し,街を破壊し始める…という展開である。続編を観る前に,絶対にこの前作を観ておくことをオススメする。
 さて,続編の本作である。『ロボット2』でなく,『ロボット2.0』と題したのは,原題が『2.0』であるのを組み入れたからだろう。チッティの改良バージョンが新登場するという期待を持たせるためと解釈できる。これは少し変だぞと感じた。前作で,改良神経回路チップを搭載した赤いMPUが既に「Ver. 2.0」と呼ばれていた。であれば,いくら続編の「2」と掛け合わせたかったとしても,辻褄が合わないことになる。
 と思ってツッコミたくなったのだが,実は辻褄は合っていた。前作の最後で自分を分解してしまったチッティを,本作での非常事態で,バシー博士が復活させる。ところが,敵のパワーが強大になったため,それに対抗し得るように再登場するのは,正しく赤いMPU基板のVer. 2.0で,それもしっかり大量に登場する。おそらく,題名を付けてから,ストーリー上の辻褄を合わせたのだろう。さらに,終盤には小型化された3.0も登場する。
 監督のシャンカールは続投,主演のラジニカーントも当然続演だ。ヒロインは,バシー博士のロボット助手のニラーで,エイミー・ジャクソンが演じている。インド出身で,英国でモデルとして活躍した後,ボリウッドの人気女優となった女性だ(写真5)。敵役は,自殺した鳥類学者パクシ・ラジャンに多数のスマホが同化した「スマホロボ」で,『パッドマン 5億人の女性を救った男』(18年11・12月号)のアクシャイ・クマールが起用された。残念なのは,バシー博士の婚約者サラ役のA・ラーイが殆ど登場しないことだ。あの類い稀なる美女は,前半にビデオチャット画面にカメオ出演するだけで,後半は声だけの登場になってしまう。うーむ,残念。
 
  以下,物語を追いながら,大量のCG/VFXシーンを概観しておこう。
 ■ オープニング・シーケンスは,少し不気味な雰囲気で始まる。鉄塔の周りに多数の鳥が群がり,ある男性が鉄塔からぶら下がって自殺する。これが鳥類学者のパクシ・ラジャンで,電波塔の建設ラッシュによる電磁波の影響が鳥の生態を犯していることに抗議しての自殺であったことが後で分かる。ここで,大量の鳥は勿論CGで描かれている。続いて,街行く人々の手からスマホが離れ,空に舞い上がる。インド中の各都市でこれが起こるから,もの凄い数である。この空に舞う数も,バシー博士の寝室に登場するスマホの群れも,驚くべき数だ(写真6)。比較的簡単なCGで描けるが,この数に圧倒される。
 
 
 
 
 
写真5 博士の助手ニラー(左)は実はロボット
 
 
 
 
 
 
 
写真6 博士の寝室に押し寄せるスマホの群れ(幻覚か?)
 
 
   ■ バシー博士とニラーは消えたスマホの行方を追うが,やがて無数のスマホが合体して大きな怪鳥となり,町を次々と破壊する(写真7)。相当なレンダリング量だ。よく見ればスマホ個体が見えるよう怪鳥を描いている。少し新しさを感じる描写だ。バシー博士の宿敵となるスマホロボは,もっと露骨にスマホの化身であることを打ち出している(写真8)
 
 
 
 
 
 
 
写真7 無数のスマホが合体して生まれた怪鳥
 
 
 
 
 
写真8 自殺した鳥類学者に乗り移ったスマホロボ
 
 
   ■ この怪鳥とスマホロボの出現に危機をもったバシー博士は,封印されていた伝説の「チッティ」を復活させて,パクシの強い怨念パワーを封じこめようとする。このチッティはVer.1.0だ。バシー博士に恨みをもつボラ博士の息子まで参入し,両者の攻防が続き,バシー博士の肉体は乗っ取られ,チッティも破壊される。そこで,助手のニラーが1人でチッティ修理にかかり,「ファームウエア2.0」を搭載した赤いチップで,あの戦士チッティVer.2.0を再現した訳だ(写真9)。ここからは,前作で観た既視感のあるシーンで盛り上げ(写真10),さらにラストバトルへと突入する。このラストバトルは少ししつこく,さして楽しくない。
 
 
 
 
 
写真9 再生産された戦士のチッティ2.0(右側)
 
 
 
 
 
写真10 球形に整列したチッティは既視感のあるシーン
 
 
   ■ 新登場のVer.3.0は,小型化されたチッティで,鳩の背に乗って群れになり,敵と戦う(写真11)。これは,なかなか楽しい表現だが,とにかく群れを頻出させるのが好きな映画だ。その他では,終盤に登場するスタジアムやその大観客なども,CGの産物である。少なくとも,前作の倍以上のCG/VFXシーンがあり,CGレンダリング量は5倍以上かも知れない。相変わらず,ヤクザの親分風のどぎついルックスのチッティだが,バーションは前作の2.0のままなのだから,外観が改善されてないことは,辻褄が合っている。CG/VFXの主担当は,英国の雄DNEGで,インドにもスタジオがある。アニマトロニクス等は,前作に引き続きLegacy Effectsで,他のRhythms & Hues,Digital Domain, Prime Focus,FireFly等々,計25社が参加していた。エレガンスには欠けるが,この物量作戦に敬意を表して,☆半分オマケしておこう。
 
 
 
 
 
写真11 チッティ3.0は小型で,鳩に乗って登場する
(C)2018 Lyca Productions. All rights reserved.
 
 
   ■ 全体として,前作の楽しさは減り,少しダークな展開となっている。ボリウッド映画お馴染みの突然歌って踊るシーンが登場しない。終盤のスタジアムでのバトルで,BGMとして歌が流れるだけだ。緊迫感を損なうため,踊りは避けたのだろう。我慢していた分が爆発し,エンドクレジットでは,いつも以上のお祭り騒ぎが始まる。これでこそ,明るくノーテンキなボリウッド映画だ。 
 
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