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O plus E誌 非掲載
 
 
 
ダイ・ハード4.0
(20世紀フォックス映画)
 
      (C)2007 TWENTIETH CENTURY FOX  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [6月29日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2007年6月19日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  懐かしいタフガイ刑事の復活は,期待を裏切らない  
 

 初夏から人気シリーズの3作目の公開が相次ぐ中で,本作品は4作目だ。といっても,お馴染の「世界一運の悪い男」ジョン・マクレーン刑事のカムバックを喜んでいるのは40歳以上のオヤジ層中心かもしれない。若い観客層には馴染みは薄いだろうから,ちょっと振り返っておこう。
 第1作は1988年の作で,TVシリーズ『こちらブルームーン探偵社』に出ていたブルース・ウィリスの大出世作となった。高層ビルを狙うテロリストと孤軍奮闘で闘うタフな刑事を好演し,たちまち人気シリーズとなり,1990年に国際空港を舞台とした2作目が,1995年にNY市内と郊外でテロリストと渡り合う3作目が作られている。既にクリント・イーストウッドの『ダーティハリー』シリーズはピークを過ぎていたが,エディ・マーフィの『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズ,メル・ギブソンの『リーサル・ウェポン』シリーズの最盛期であり,刑事アクションものが花盛りの時代であった。筆者はビデオに録り溜めて,何度も眺めた。
 その復活は,懐かしく嬉しくはあるが,何で今更12年ぶりにという気もする。『ホステージ』(05年5月号) や『16ブロック』(06年10月号)も同工異曲の当たり役だったから,余計にその感は強い。多分,興業政策上浮上した企画なのだろう。早くからスキン・ヘッドで年齢不詳であったが,B・ウィリスはまだ52歳。まだまだ老け込む歳でもないので,アクション・スターとして使えるうちに,もう1作稼いでおこうという魂胆なのかと想像できる。
 大事件に巻き込まれ,凶悪犯やテロリストと対峙する刑事ものの展開や結末は容易に想像できる。悪漢に翻弄され,危機一髪の連続で満身創痍,最後は大逆転でハッピーエンドと相場は決まっている。それを承知の上で,もっともらしい舞台設定とアクションの工夫を楽しむわけである。ならば,ここはプロデューサや脚本家になったつもりで,本シリーズの第4作目に相応しい企画を考えてみよう。

 (1) ジョン・マクレーン刑事はとにかくタフで人間臭い。ジェームズ・ボンドやイーサン・ハントのようにカッコ良くてはいけない。ハリー・キャラハン刑事ほど孤高でヒネくれてはいないが,相棒はいない。今回も事件の中で,同調者や協力者を見つける展開がいい。
 (2) 美人パートナーも要らないが,敵の中にはクールな美人がいてもいい。ただし,ロマンスには無縁だ。ハリウッド映画だから,家族主義も大切だ。2作目まで登場した夫人の扱いをどうするかが難しい。
 (3) 前作までの流れなら,ハイテク駆使の国内組織犯罪に立ち向かうのが似合っている。あまり政治色の強い国際犯罪や海外での活躍は似合わない。
 (4) 第1作目からSFX/VFXはかなり使われていた。その後の技術進歩が凄まじいから,本作では格別な先端技術は必要なく,標準的なインビジブルVFXで十分だろう。

 と勝手に予想して試写を観たのだが,狙いはドンピシャリだった。上記の前提条件下での娯楽作品としては80点,いや85点から90点近くをつけても良い作品に仕上がっていた。製作総指揮のアーノルド・リフキンはずっとB・ウィリス主演作を手がけてきた製作会社共同経営者で,同じくウィリアム・ウィッシャーは『ダイ・ハード3』の脚本の手直しにも参加したというから,気心は知れていて,前提条件は熟知しているわけだ。
 まず,(3)はFBI内部事情に熟知した知能犯によるサイバー犯罪という設定でやってきた。意外な犯人のドンデン返しはなく,伝統的に犯人は最初から一貫している。ハリソン・フォードの『ファイヤーウォール』(06年4月号)もコンピュータ・セキュリティの穴を狙った犯罪だったが,本作はもっと大がかりで,全米主要都市の交通・通信・原子力・水道等のインフラが狙われる。表題中の「4.0」は,無論「Web 2.0」をもじったもので,現代的テーマであることを強調している(なぜか,米国での表題は直前になって『Live Free or Die Hard』に変わり,『Die Hard 4.0』の題は消えた)。
 (1)の協力者の役どころは,テロリスト一味に命を狙われるハッカーのマットで,『ドッジボール』(04)『ハービー/機械じかけのキューピッド』(05年8月号)のジャスティン・ロングが演じて好い味を出している。感心したのは(2)の扱いだ。かつてのホリー夫人とは既に離婚したが,愛娘ルーシー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)との繋がりは続いているという設定だ。クライマックスではしっかり父娘の絆が物語の重要な役割をなしていて,この扱いは上手い。冷静沈着で非道な敵役ガブリエル(ティモシー・オリファント)やその一味の冷血女マイ(マギー・Q)もいいキャスティングだ。
 監督は,『アンダーワールド』(03)とその続編(06)で頭角を表わした新進気鋭のレン・ワイズマン。映画美術部門の出身で,ミュージック・ビデオ制作でも活躍していただけあって,最初からテンポがいい。コンピュータ画面のビジュアル・センスも悪くない(写真1,写真2)。ただし,これだけ簡単にサイバー・テロが実行可能では困るので,その実行にも間一髪の阻止にも,テクニカルな面での解説を入れて工夫したり,物語にもう一捻りあってもしかるべきだったかと思う。
 さて,(4)のSFX/VFXだが,デジタル時代のテロに対して,時代遅れのアナログ人間,マクレーン刑事が挑むというだけあって,CGを極力減らし,古典的なSFXとスタントアクション多用で撮影されているのが目立つ。前半の見せ場,パトカーをジャンプさせてヘリを撃ち落とすシーンは圧巻だ(写真3)。ぶつかった衝撃の感じ,飛び散る破片など,CGでは表現できない躍動感が伝わって来る。ただし,この種のシーンは,CGで事前にしっかりPreVizされていたことが窺える。
 クライマックスのスペクタクルは,マクレーン刑事が操る大型トレーラーをジェット戦闘機F-35が襲うシーンだ。LA近くの巨大オープンセットで約300mの高速道路を再現し,実物大のトレーラーと戦闘機を配して撮影したという(写真4)。ブルースクリーンで撮影した背景部は3D-CGで描いた東部都市の光景に差し替えられていたが,これはなかなか見事だった。他方,ジェット戦闘機の動きはどことなく嘘っぽく,特撮の限界が感じられた。そもそも,本シリーズのアクションをここまでエスカレートさせことが似合わない。この点だけは企画倒れと言えるだろう。
 その他では,ワシントンDCの光景,国会議事堂の爆発シーン,停電のシーン等はCG/VFXの産物だろう。VFXの担当は,The Orphanage,Digital Dimension, Pixel Magic,RIOT! 等の各社で,一流どころではないが卒のない視覚効果を生み出している。
 帰りがけの信号待ちの交差点で,若い営業マン(編集者?)風の男性が「強いオッサンやなぁ。俺もあんなに成りたいわ」と語っていた。第1作から観ていたとは思えない若者にそう言わせるだけで,この映画はエンターテインメントとして成功だ。第1作,第2作も是非DVDで観て欲しい。

 
     
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写真1 モニタ内のビジュアルもきっちり計算済   写真2 こちらはサイバー保安局の光景
 
     
 
写真3 クルマをヘリにぶつけるシーンはLA市内で実写で撮影
 
     
 
 
 
写真4 高速道路のオープンセットとそこでのスタント演技
(C)2007 TWENTIETH CENTURY FOX
 
   
   
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