head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
   
title
 
O plus E誌 2009年2月号掲載
 
 
 
ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
(ワーナー・ブラザース映画 )
 
  (C)2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月7日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2008年12月11日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  物語は数奇,メイクもVFXも驚愕,描写は繊細な逸品  
 なるほど,数奇な人生だ。特殊メイクも驚愕だ。至るところに細心の注意が払われ,一分の隙もない作品に仕上がっている。監督は『セブン』(95) 『ゾディアック』(07年6月号)のデヴィッド・フィンチャー。あまり好きな監督ではなかったのだが,この一作で見直した。紛うことなく,彼の最高傑作だろう。
 80歳で生まれ,0歳で死んだ男の物語というだけで,ワクワクする題材ではないか。映画ならではネタであり,徐々に若返って行く様をどう表現するのか,VFXの出番が沢山有るに違いないと期待を抱かせた。その期待は外れるどころか,これも驚愕に値する作品だった。原作は「グレート・ギャツビー」の作者F・S・フィッツジェラルドの短編小説だという。それを167分に展開した脚本力も凄い。この長尺が全く長く感じない面白さだ。
 数奇な人生を歩む主人公を演じるのは,『トロイ』(04年6月号)『Mr. & Mrs. スミス』(05)のブラッド・ピット。フィンチャー監督作品には,『セブン』『ファイト・クラブ』(99年12月号)に続く3度目の登場である。次第に若返って魅力的になる様は,熱烈ブラピ・ファンならずとも惚れ惚れする。彼の逆方向の人生に,真正面から正対して生涯思い続ける女性となるデイジーには,ケイト・ブランシェットが起用された。本欄でお馴染のこのトップ女優の出演作品は,今更上げるまでもないだろう。そう言えば,この2人は話題作『バベル』(07年4月号)でも,モロッコを旅するアメリカ人夫婦役を演じていた。呼吸があっていたのも当然だ。
 さて,80歳の老人をどうやって若返らせるかである。徐々に老けていく女性のメイクは,そう難しいことではない。熟視していても分からなかったのが,男性側の若返りである。老人顔で生まれる赤ん坊は,デジタル加工でもフルCGでもそう難しい題材ではない。約60歳(実年齢は18歳)に達したベンジャミンはブラピのメイクだと識別できるが,分からなかったのはそれ以前の老人時代である(写真1)。顔立ちが似た老人俳優を起用したのかと思った(写真2)。それにしては,顔立ちはほぼ同じなのに,折れ曲がった腰やよぼよぼの肢体の時代と少し若返った身体が同一人物とは思えない。この身体の動きがすべてCGのようにも見えない。いつブラピとすり替わったのかも見抜けなかった。もう一度観れば見破れたのかも知れないが,初めて観て,逆順で登場され,ヒントとなるプロダクション・ノートも配られなかったので,VFX評論家も全くのお手上げだった。
 VFXの専門誌Cinefexは季刊誌で,詳細なメイキング記事は,通常は試写を見終わった数ヶ月後に目にすることになる。図らずもこの映画に関しては,新年早々届いた2009年1月号に解説記事が載っていた。それを観て,制作方法がようやく理解できた次第である。以下,VFXのネタバレを含む見どころである。
     
写真1 (右)ならブラピのメイクだと分かるが,(左)の老人は誰が演じているのか全く分からなかった
     
     
写真2 この年齢は,てっきり老人俳優を起用したのかと思った
 
■ ベンジャミンの老人顔(実は少年)時代を演じていたのもすべてブラピ自身だった。顔が代役でも,肢体をCGで描いたのでもなく,その逆だった。ブラピの顔の動きをMoCapで捕らえ,VFX処理し,動きを演じる老人の身体にデジタル合成していたのである(写真3)。見抜けなかった!
     
写真3 これが種明かし。まさか,顔だけすげ替えているとは思わなかった。
     
■ 一方のデイジーは,少女時代は子役が演じ,成人して以降は,老女に至るまで普通にC・ブランシェットが演じている。見事ではあるが普通の老けメイクだと思ったら,若い時代に加工がしてあった。画像処理でシワやシミのない若々しい女性に化けさせている(写真4) 。この映画でそうだということは,他の映画でも女優はこうやって若く美しく見せているということなのだろう。
     
写真4 女性側も画像処理で肌を若返らせていたようだ(上:加工前,下:加工後)
     
     
■ マイク船長のタグボートで働くシーンを含め,海や湖のシーンが再三登場する。それが初めはいかにもCGだ,デジタル描画だと分かる画調であり,時代を経る毎に次第にリアルな表現へとタッチを変えている(写真5) 。後年の大型船や水面のCG表現がそうである。ニューオリンズやニューヨークの街の風景も同様に変化するが,いずれもかなり美的である。随分,贅沢な映画だ。1800円じゃ安いくらいだ。描き方の差は,観客への分かりやすさというより,それぞれの時代のルックを変え,楽しんでいるかのようだ。そういえば,フィンチャー監督はマット・アーティスト出身だった。
     
写真5 デジタル処理の産物だとは分かるが,デキは悪くない

  ■ 1918年の大時計のある駅構内のシーン(写真6),1938年のNYの街並み,戦闘と銃撃シーン,船の転覆シーン等,他にも数々のVFXシーンが登場する。VFX担当社には,Asylum Visual Effects,Lola VFX,Hydraulx,Digital Domain,Ollin Studio,Savage Visual Effects,Eden FX,Matte World Digitalの名前が並んでいた。この分量となると当然だろう。  
     

写真6こういったものも,今は簡単にVFXで描けてしまう
(C)2008 Paramount Pictures Corporation and Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved

     
 さて,本稿執筆はアカデミー賞ノミネート発表の数日前だが,その予想をしておこう。作品賞,監督賞,脚色賞,美術賞,メイクアップ賞,作曲賞,視覚効果賞等にノミネートされる可能性が高い。他の有力作品が未見なので,作品賞,監督賞の行方は何とも言えないが,メイクアップ賞はぶっちぎりでゲットすることだろう。視覚効果賞も大本命であることは間違いない。対抗馬は『ナルニア国物語/第2章』あたりかと予測する。
  ()  
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から削除・追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br