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O plus E誌 2005年12月号掲載
 
 
チキン・リトル』
(ウォルト・ディズニー 映画/ブエナビスタ配給)
 
     
(C)Disney Enterprises, Inc.
 
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2005年11月2日 SPE試写室(大阪)  
  [12月23日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ディズニーアニメの転機となる実験作,まずは合格点  
 

 2 本目は,伝統あるDisney Feature Animationが送り出す初のフルCGアニメ 作品だ。一般観客は気がつかなくても,本欄の読者なら『トイ・ストーリー』 (95) から『Mr. インクレディブル』 (04) に至る3D-CG作品が,提携先のピクサー製作だということは先刻ご存知だろう。
 そのピクサーとの5年契約が,来年公開の『 Cars 』で切れる。ピクサーのオーナー,S・ジョブズとディズニー CEOのM・アイズナーが不仲なことから,契約更改なしと見られ,本家ディズニーは慌ててセル調2Dアニメ路線を捨てて,ようやく3D-CGへと転換した。その記念すべき第1作が本作品だ。次回作には,ディズニーが版権を握る『トイ・ストーリー3』が製作中で待ち構いる。契約とはいえ,何やら妙な感じだ。
 アイズナー会長が辞任したことから,ピクサーとの関係修復も噂されているが,そうしたショービジネス界注目の本作品は,米国では11月4日に公開され,かなりの大ヒットとなっている。経営陣もまずは一安心だろう。アニメ業界にとっても,この影響は小さくない。
 そもそも2D対3Dの対決は,興行的にはとっくに決着がついていた。宮崎アニメに格段のブランド信仰をもつ日本の特殊事情を別にすれば,表現力の上で3D-CGが有利であることは論を待たない。製作コスト面でも差はなくなった。3D-CGの隆盛は,ピクサーの企画力・創造力だけの問題ではなく,追いかけるDreamWorks/PDI の『シュレック』 (01) や20世紀フォックスの『アイス・エイジ』 (02) の成功からも自明であった。なのに,ディズニーは『アトランティス/失われた帝国』 (01) などセル調アニメの駄作を作り続け,興行的にも失敗を繰り返した。契約上の危機とはいえ,ようやく目が覚めた訳だ。
 さて,話題の本作品の主人公は,何をやっても失敗ばかりの小さな鶏の男の子だ。結構愛らしく,このキャラクタでシリーズにできないかという意欲が伺える。町中の笑いものになりながら,宇宙人の襲来から町を救うというストーリーは別段語るほどのものではない。かなり低年齢層をターゲットにしているようだから,こんなものだろう。
 元来,ディズニーアニメの人気キャラは短編中心で,長編アニメは名作路線と決まっていた。舞台設定は毎回違っても,ピクサーがキャラクタ・デザインに力を入れ,ドリームワークスも同じ路線だ。ならば,ディズニーはそのブランド力を活かして,いっそ長編で長寿シリーズ化できるキャラを生み出すべきだ。リメイクや続編が好きな割に,ハリウッドではアニメの長寿シリーズがないのが不思議だ。『ドラえもん』『名探偵コナン』『ポケモン』等,日本のアニメが人気キャラ路線で安定収入を得ていることを,もっと参考にしても良いかと思う。
 さて,CGの描画力はといえば,この映画,前半と後半でまるでタッチが違う。出だしは徹底して伝統ある2Dアニメのタッチを強調する。「ツブれてノビる」キャラの動きだけでなく,カメラワークにもその余韻を残している。緩やかなパンやズームアップが目立つのも,セルアニメのカメラを意識してのものだ。3D-CGらしいウォークスルー系の動きは全くない。
 キャラも背景も,非リアリズムをモットーにデザインしているようだ。ピクサー作品のように,「どうだ!スゴイだろう」と業界仲間にアピールする露骨なCG演出はない。それでいて,チキン・リトルの羽毛や植栽・樹木などには,CGならでの精緻な表現が目立つ(写真 1)。チキン・リトルは76,000枚の羽,700もの筋肉で表現されている。町の街路樹は各15,000〜20,000枚の葉で構成され,時間とともに成長しているという。ヤギの先生の毛髪の微妙な表現も,実に見事だ(写真 2)。

 
     
 
写真1 植栽・樹木・芝生はかなりのポリゴン数
(C)Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
  写真2 羊の先生の羽毛の精密さにも注目しよう
 
 
 
     
 

 映画の進行とともにCGならでは構図も増え(写真 3),後半宇宙船の到来以降は,3D-CGギンギンの表現となる(写真 4)。宇宙人が描く穀物畑の絵柄は『サイン』 (02) のパロディでご愛嬌だろうが,宇宙船が飛び交うデザイン,宇宙船内の造形も色もいいデザインだ。ディズニーアニメが3D-CG技術を完全に手の内に入れたと宣言しているかのような出来映えだ。

 
     
 
 
写真3 バスも構図も,3D-CGならではの表現
(C)Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
  写真4 さぁ,この宇宙船の登場以降の終盤が圧巻
 
 
 
     
 

 ディズニーアニメ本家の転機となるこの実験作は,不安が一杯だっただろうが,まずは合格点だ。ただし,しいて難を言えば,チキン・リトルは可愛い顔の割に,ザック・ブラフの声が大人び過ぎて違和感がある。日本語吹替版は観ていないが,この点をもう少し何とかして欲しいものだ。

 
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