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O plus E誌 2017年8月号掲載
 
 
purasu
ザ・マミー/
呪われた砂漠の王女』
(ユニバーサル映画/東宝東和配給)
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月28日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2017年6月29日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
purasu
東京喰種 
トーキョーグール』

(松竹配給)

      (C)2017 「東京喰種」製作委員会&(C) 石田スイ
/集英社

 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月29日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2017年7月4日 松竹試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  夏休み定番の怪奇映画の和洋対決  
  夏休み公開のダークファンタジーの和洋2本を比べて語ろう。片や伝統あるユニバーサル映画が過去の怪奇映画を次々と大作としてリメイクする「ダーク・ユニバース」シリーズの第1作である。迎え撃つ邦画の原作は,発行部数2300万部を誇る青年コミックの超人気作で,満を持しての実写映画化だ。予告編を観ただけで,ともにCG/VFXはたっぷり使われていることが分かる。ワクワク,ドキドキ,果たしてこの夏の暑さを吹き飛ばすのはどちらか,楽しみな対決である。
 
 
  伝統のユニバーサル・モンスターがCGパワーで甦る  
  「そうか,この手が有ったのか」と膝を打った企画だ。本作から始まる「ダーク・ユニバース」のことである。
 アクション・アドベンチャー映画市場では,上述のように,ディズニー&マーベル組の「マーベル・シネマティック・ユニバース」が圧倒的な勢いを保っている。ワーナー・ブラザースは,対抗上DCコミックスの「ジャスティス・リーグ」をシリーズ化した。20世紀FOXには『 X-Men』『猿の惑星』シリーズがあり,パラマウントには『ミッション:インポッシブル』『スター・トレック』『トランスフォーマー』等のシリーズがある。
 まもなく『ワイルド・スピード』シリーズも終わるので,他に目立ったシリーズを持たないユニバーサルはどうするのだろう? テーマパークでは非ディズニー系の他社作品をアトラクション化しているが,やはり自社ブランドのヒットシリーズが欲しいはずだ。そう思っていたところに聞いたのが,この大型企画だった。1930年代から50年代にかけて,ドラキュラ,フランケンシュタイン,透明人間,狼男,半魚人等々のモンスターを次々と登場させた同社が,それらをリメイク/リブートさせ,一連の作品としてリンクさせるという構想である。
 杮落しに選ばれたのは,『ミイラ再生』(32)だった。既に『ミイラの幽霊』(59)『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(99)として2度リメイクされ,続編も作られている。いずれも原題は単なる『The Mummy』なのだが,本作の邦題はカタカナのままの直球勝負で,副題を付している。その副題通り,古代エジプトで呪いをかけられ,生きたままミイラにされた王女アマネット(ソフィア・ブテラ)が21世紀の現代に覚醒し,大騒ぎを引き起こす。ただし,エジプトの地ではなく,ロンドン郊外で再生し,市街地にも登場するというのが本作のミソである。
 監督は,アレックス・カーツマン。監督として名を聞くのは初めてだが,当欄に登場する作品の脚本や製作を何本も手がけている。主演の米軍関係者の冒険家ニック役は,何とトム・クルーズだった。シリーズの第1作に相応しいスターとして選ばれたのだろう。帯同する考古学者ジェニー役のアナベル・ウォーリスはやや地味な女優だが,秘密組織を率いるヘンリー・ジキルとして,ラッセル・クロウが登場する。あの二重人格者「ジキルとハイド」のジキル博士である。
 以下,当欄の視点での評価と感想である。
 ■ 当然のことながら,CG/VFXが多用されている。覚醒した王女アマネットの4つの目(写真1)は,文字通り最大の目玉であり,醜悪な復活シーン,彼女の引き起こす超常現象(写真2)はデジタル処理の産物だ。エジプトのピラミッドや砂漠は,冒頭とラストの2度登場するが,いずれもVFX加工したものだろう(写真3)。前半では,ミイラ輸送中に遭遇する鳥の大群と輸送機の墜落シーンが好い出来だった。ロンドンが舞台となれば,MPCが主担当,Double Negativeが副担当は,最良の選択だ。
 
 
 
 
 
写真1 左右1つの眼球に各2つの瞳という異形
 
 
 
 
 
写真2 美しい王女が,かくも恐ろしい形相で復活
 
 
 
 
 
写真3 ピラミッドとエジプトの砂漠。多分,CG/VFXの産物だろう。
 
 
  ■ 大作ゆえに注目していたのは,美術セットの力の入れようだ。古代エジプトは多数の作品で描かれていて,新味の出しようがないが,謎の地下空洞(写真4)は壮大で見応えが有った。アマネットが捕えられたジキル博士の実験施設内部(写真5) も,見惚れる出来映えであった。映画ならではの徹底した予算のかけ方が嬉しい。
 
 
 
 
 
写真4 広大な地下空洞のデザインは一見に値する
 
 
 
 
 
写真5 秘密の実験施設も美術班の腕の見せどころ
 
 
  ■ その反面,映画全体は中途半端な出来だった。かつてのように滑稽味を伴うホラーなのか,アドベンチャー大作なのか,軸足が定まっていない。筋骨隆々でマッチョな上半身を見せるトム・クルーズは今も若々しいが,この主人公は少し地味で,役不足だ。彼には,もっとダイナミックで知的なイーサン・ハントの方が似合っている。本作にR・クロウのジキル博士(写真6)まで登場させるのは欲張り過ぎだと思ったが,彼はシリーズ全作品を繋ぐ役のようだ。『アベンジャーズ』シリーズのサミュエル・ジャクソンに相当する。大いに期待する企画なので,次作以降を期待して,第1作の評点は辛めにしておこう。
 
 
 
 
 
写真6 ジキル博士は,次作以降も登場するらしい
(C) Universal Pictures
 
 
  グロテスクな題材だが,実写映画化は大成功  
   対する邦画は,人気コミックの実写映画化の前に,お決まりのTVアニメ,ビデオゲーム化がなされた上に,舞台劇としても上演されている。それだけストーリー性が高く,会話中心の演劇としても成り立つようだ。
「喰種」は副題にある通り「グール」と読ませている。外観は人間と同じで,人肉が主食の「食肉種」と人間の戦いが主テーマである。青年コミックの読者が刺激を求めるとはいえ,このテーマで連載させるとは,編集者の見識を疑う。もっとも,ハンニバル・レクター博士や吸血鬼を主人公にした洋画ヒット作もあるので,そちらはいいのかと問われれば,答えに窮してしまうが……。
 振り返れば,当メイン欄で取り上げた和製コミック原作の映画化作品は,『寄生獣』『進撃の巨人』『テラフォーマーズ』『アイアムアヒーロー』等,グロテスクな題材ばかりだ。その意味では「ユニバーサル・モンスターズ」といい勝負なのだが,問題はその中でどれだけ人間性を全うに描け,映画としての娯楽性も両立できるかだ。
 通常,この種の映画は原作コミックを予習してから試写会に臨むのだが,本作はいきなり映画から入り,帰路の車中で初めて原作コミックを読み始めた。予備知識なく,上記の『ザ・マミー…』と見比べて,純粋に映画としてのクオリティを評価したかったからである。
 結論を先に言えば,予想以上の佳作で,素直に物語に入り込めた。元は人間だが,事故での瀕死状態の時,喰種の臓器を移植されたことから,「半喰種」となってしまった大学生カネキが主人公である。中途半端な『ザ・マミー…』よりも,この主人公に素直に感情移入できた。原作コミックの単行本全14巻中の第3巻までを描いている。原作の骨格に忠実でありながら,エンタメ性も高く,映画としての魅力を引き出している。
 監督は,CMやPV畑出身の萩原健太郎。長編映画デビュー作とは思えぬ語り口の上手さで,今後も注目すべき監督だ。主演のカネキ役は,窪田正孝。映画では脇役中心であったが,原作者の希望で主役に抜擢されただけであって,中身の濃い主演ぶりだ。脇役の評価を含め,以下で当欄の感想を述べる。
 ■ 喰種には,個体毎に肩・背中・腰等から飛び出す赫子(カグネ)と呼ばれる器官があり,先端部は鉤爪状になっている(写真7)。これが人間を捕食する武器となる。カネキの赫子は百足のような多数の触手をもち,素早く動き,大きな破壊力で敵を倒す。勿論CG製で,『スパイダーマン2』(04年8月号)に登場したドクター・オクトパスそっくりだが,質感,躍動感が素晴らしい。笛口リョーコの赫子は蝶や蛾が羽を開くような艶やかさで,『X-MEN』シリーズのミュータント「エンジェル」が白い大きな翼を開くシーンを思い出す。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 (上)カネキの赫子は,堂々たる質感と破壊力,(下)トーカの赫子は,戦闘力が高くない
 
 
   ■ 喰種を取り締まる人間側の組織CCGの捜査官たちは,捕獲した喰種から摘出した赫子からクインケ(写真8)なる武器を製造し,これを使って喰種たちと対峙する。多彩な赫子,クインケはほぼすべてCGで描かれ,ハリウッド大作のどこかで観た既視感が漂っている。原作コミックのそれらは分かりにくく,アクションの躍動感がない。アニメ版では極彩色で描かれ,動きは派手だが,質感が今イチだ。この実写映画版はCG/VFXの威力を活かしていて,十分合格点を与えられる。
 
 
 
 
 
写真8 真戸捜査官捕獲した喰種の赫子で作られたクランケ
(C)2017 「東京喰種」製作委員会&(C) 石田スイ/集英社
 
 
   ■ 主人公や喰種に感情移入できるのは,CCG捜査官を敵役として描いているからだろう。大泉洋演じる真戸捜査官の執着心が出色で,『アイアムアヒーロー』の主人公とは対称的な演技だ。喫茶「あんていく」の存在と店長を演じる村井國夫の渋い演技も,「食肉種」という許し難い題材を和らげる役目を果たしている。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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