head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
title
 
O plus E誌 2016年5月号掲載
 
 
テラフォーマーズ』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 貴家悠・橘賢一/集英社
(C) 2016 映画「テラフォーマーズ」製作委員会

 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [4月29日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2016年3月25日 GAGA試写室(大阪)
       
   
 
アイアムア
ヒーロー』

(東宝配給)

      (C) 2016映画「アイアムアヒーロー」製作委員会
(C) 2009花沢健吾/小学館

 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [4月23日よりTOHOシネマズ日本橋他全国ロードショー公開中]   2016年3月24日 東宝試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  GW公開のSF大作2本は,原作コミックを超えるか?  
  久々に当欄のトップで邦画を紹介する。『映画 暗殺教室』(15年4月号)以来であるから,空白期間はもう1年以上になる。またまた人気コミックの映画化作品だが,今回は2本まとめて紹介しよう。両作品ともまだ未完結で,連載中の人気作品である。例によって,その途中巻までを読んで予習してから,試写会に臨んだ。「洋画資本 vs. 純粋な邦画の製作委員会方式」「火星を舞台としたSF vs. 地球上でのゾンビとの戦い」だが,評価は当初の予想とは全く逆の極端な結果となった。  
 
  鬼才が撮った和製SF大作は,期待を裏切る大駄作  
  予告編を観ただけで,本号のトップに据えようと決めた期待作だった。白基調の宇宙服(写真1)はSWシリーズのストーム・トルーパーを思い出す。全編ほぼ火星上での物語となると,SF大作『オデッセイ』(16年2月号)と比べてみたくなる。その上,当欄が大絶賛した『インターステラー』(14年12月号)のスタッフが同行して,アイスランド・ロケを敢行したと聞くと,ますます期待のボルテージは上がるではないか。
 
 
 
 
 
写真1 早々と公表された宇宙服のデザイン。コミックの方が精悍。
 
 
  原作は,作・貴家悠,画・橘賢一で,月刊「ミラクルジャンプ」や「週刊ヤングジャンプ」に掲載された人気コミックだ。単行本は15巻までが既刊で,累計1,500万分部に達しているという。時代は26世紀から27世紀という遥かな未来で,人類は人口増加で住めなくなった地球を諦め,火星移住計画を推し進めている。その火星上に現れた恐るべき生物「テラフォーマーズ」との戦いを描いた物語である。これを映画化するには,多額の製作費が必要だが,ワーナー・ブラザースが実写映画化した邦画という点が安心感を与えていた。これまで,同社は『DEATH NOTE デスノート 前後編』(06年7月号&12月号)や『るろうに剣心』シリーズ3作で成功を収め,さすがハリウッド系資本と思わせるものがあった。
 監督は,鬼才・三池崇史。どんな題材でも精力的に料理して映画にしてしまうパワフルな監督で,当欄ではこれまで8作品を紹介し,内4本がという相性の良さだ。主演は伊藤英明で,ヒロインは武井咲,助演陣は山下智久,山田孝之,小栗旬,ケイン・コスギ,菊地凛子らで,これは東宝作品かと思う陣容である。
 原作コミックは,一見して,こりゃ酷いと投げ出したくなる代物だった。絵そのものも拙いが,コマ割りやセリフはもっと下手だ。苔とゴキブリで火星を改造(テラフォーミング)しようという着想は面白いのだが,物語の進め方も稚拙で,素人同然だ。それでも我慢して5, 6巻目まで読み進んだが,映画は第1巻のバグズ2号計画だけだと知って,そこで放り出した。
 プロ中のプロ,三池監督のメガホンでワーナー作品なら,これを見事なエンタメ映画に仕上げていると期待したのだが,原作に輪をかけたような駄作だった。大作風の作りだが,何が酷いのか,分析に困るほどだ。
 まず,バグズ2号の乗組員は多国籍のはずだったのに,映画では全員日本人で構成されている。一部外人にして英語のセリフとなるのも煩わしいが,一気に和風テイストになってしまい,宇宙ものSFとしての香りが失せている。シンプルに見えた宇宙服も宇宙船内のデザインも,じっくり観るとチープだ(写真2)
 
 
 
 
 
写真2 じっくり観れば,宇宙服も宇宙船内のデザインも凡庸
 
 
  ゴキブリが異常進化したテラフォーマーズのデザインは,原作をほぼ踏襲しているが,この滑稽な顔立ちでは緊迫感も失せてしまう。最初の遭遇(写真3)以降,CG/VFXシーンはふんだんに登場するが,こちらも高級感はない。何やらゲーム画面風で,安っぽさが目立つ。もっと酷いのが,音楽とナレーションだ。これではまるで,2流のTV時代劇シリーズのそれではないか。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 これが驚愕生物との火星上での最初の遭遇
(C) 貴家悠・橘賢一/集英社 (C) 2016 映画「テラフォーマーズ」製作委員会
 
 
   という訳で,期待外れ度では,短評欄の『フィフス・ウェイブ』と甲乙つけ難い凡作だと酷評しておこう。
 
 
  歴代作品と遜色ないゾンビ映画で,海外にも通用する  
  もう一方の原作は,2009年から「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載中の花沢健吾作のホラー・コミックだ。単行本は既刊20巻で,累計約600万部というから,人気度では『テラフォーマーズ』に劣るが,配給会社・東宝の広報宣伝への力の入れ方は遥かに上だ。国際的に通用するとの自信からか,世界三大ファンタスティック映画祭に出品し,そのすべてで受賞を果たし,計5冠に輝いている。最後のブリュッセル国際映画祭より前に試写を観たのだが,これはグランプリ最有力だと思わせるだけの出来映えだった。
 原作コミックの第1巻は,こちらも苦痛を伴うものだった。主人公は35歳の冴えない漫画家アシスタントだが,彼の分身らしき奇妙な人物(矢島)が妄想シーンで登場し,訳が分からない。ところが,恋人の「てっこ」がウイルスに感染して凶暴化する時点から物語は一変し,俄然面白くなる。コマ割りが大きく,テンポも速く,そこからは一気に読み進めたのは快感であった。
 監督は,『修羅雪姫』(01)『GANTZ』(11)等のコミック映画化の経験をもつ佐藤信介。主人公・鈴木英雄を演じるのは,最近活躍が目立つ大泉洋。本作の成功は,彼の起用がすべてだったと断言できる。原作とはイメージが違うが,ひ弱な独身男が,パニック渦中で成長して行く様を見事に演じている。散弾銃を構えるスチル画像が,『レヴェナント:蘇えりし者』(16年4月号)でオスカーを得たレオ様(写真4)と酷似しているそうだが,何の,終盤はそれ以上の存在感で,まさに英雄(ヒーロー)と化す。
 
 
 
 
 
写真4 念願のオスカーを得たレオ様。なるほど,ポーズはよく似ている。
(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
 
 
  女優陣は,逃避行の途中で出会う女子高生・比呂美役に有村架純,元看護師・藪役に長澤まさみだが,人気女優なら誰でもいい役柄で,実際,演技もその程度のものだった(写真5)。他の助演陣にも大物俳優は必要ない。何しろ,皆感染し,ゾンビ化して行くのだから。
 
 
 
 
 
写真5 長澤まさみと有村架純。そこそこ美形なら,誰でもいい。
 
 
  嚼まれることで感染して発症し,凶暴化して行く「生ける死体」は,ZQN(ゾキュンと読む)と呼ばれているが,いわゆるゾンビそのものである。基本的には原作に忠実だが,「矢島」が登場する妄想シーンはカットされているので,無駄がなく,物語はテンポよく進行する。東京が破壊される様,高速道路上でのアクション等,映像的にもなかなかやるわいと感じさせる。『テラフォーマーズ』に比べて,緊迫感の演出が数段上だ。
 当欄お目当てのCG/VFXは,『テラフォーマーズ』と比べると格段に少ないが,効果的に使われている。写真6は東京の壊滅を思わせるが,よく観るとさほどの加工を加えていない。写真7は9.11以来見慣れた光景だが,想像をかき立てるだけで,実は後ろのビルでの爆発は小規模だ。その後も,パニックや壊滅を想像させる描写が巧み(写真8)で,低予算でうまく切り抜けている。
 
 
 
 
 
写真6 ZQNの攻撃で既に都心部は壊滅状態? よく見るとさほど破壊されていないのだが……。
 
 
 
 
 
写真7 後部で爆発?既視感のある構図が効果的
 
 
 
 
 
写真8 その後も,破壊された町の描写が上手い
(C) 2016映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C) 2009花沢健吾/小学館
 
 
  それでも,シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀特殊効果賞を受賞するだけあって,ZQNの顔面特殊メイクは上々の出来だった。特に,目の加工が出色だ。そして終盤,英雄の銃がZQNの頭部を吹っ飛ばすシーンが圧巻である。いずれもスチル画像が一切公開されていないのが残念だ。技術的にはさほど高度でなく,かつワンパターンなのだが,使い方が効果的かつ印象的だ。
 強いて欠点を挙げれば,比呂美が半感染者であることが分かりにくく,特殊パワーを得ていることも活かされていない。原作コミックはまだ連載中で,ZQNとの戦いは延々と続いている。映画はどう終わらせるのかと思ったら,第6巻のアウトレットモールでの攻防で締めている。本作で完結させるにも,続編を作るのにも上手い選択だ。筆者は,勿論,続編を期待している。
 
  ()
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next