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O plus E誌 非掲載
 
 
ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月23日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2016年11月16日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ハリポタ・シリーズの前日譚で,ニューヨークが舞台  
  原題は『Fantastic Beasts and Where to Find Them』という。2016年暮の現在,この題での書籍もあると言えば,大方の人は「ポケモンGO」の攻略本だと思うのではないだろうか。予告編を見た観客なら,これは『ハリー・ポッター』シリーズそのものであり,後日譚かスピンオフものだと思うに違いない。魔法を使う杖,部屋の中を舞う皿や書類,大空を翔る怪鳥,そして音楽に至るまでそっくりだ。同シリーズの原作者J・K・ローリングが映画脚本に初挑戦し,監督もスタッフも同じであるから,そう感じるのが自然である。中には堂々と「ハリー・ポッター新シリーズ!」と謳っている予告編もある。
 少なからぬ誤解があることに気付いた。本作がハリポタ小説シリーズの最新刊の映画化作品であり,ハリーたちの子供の時代を描いているから,出演者も一新されていると思っている人々がいる。本来の小説版の第1巻は1997年に出版され,2007年に全7巻が完結した。映画は最終巻を前後編に分けたので,全8作となり,『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(11年8月号)で一旦完結した。その後,19年後の世界を描いた「Harry Potter and the Cursed Child」が舞台劇の脚本として書かれ,その初演時(2016年7月)に書籍版が出版された。そしてその邦訳本「ハリー・ポッターと呪いの子」が11月11日に出版されて,いま書店店頭で平積みされている訳である。時期が同じで紛らわしいが,映画との相乗効果を狙っての意図的な発売時期だと思われる。
 さて,冒頭で触れた書籍だが,これはホグワーツ魔法魔術学校の指定教科書で,著者はニュート・スキャマンダーとなっている。2001年に出版され,邦題は「幻の動物とその生息地(ホグワーツ校指定教科書 1)」だ(写真1)。内容は,約80種の魔法生物の身体的特徴,生息地,危険度等が記載されている。即ち,教科書という体裁を採りながら,実は「ハリー・ポッター」シリーズの副読本であり,J・K・ローリング自身が実際の著者である。本の中には,ハリー,ロン,ハーマイオニーの落書きもあり,ご丁寧に邦訳本には日本語の落書きになっているそうだ。元は1921年に執筆され,2001年にマグル(人間)向けに複製品が出版されたという設定である。同時にもう1冊『クィディッチ今昔(ホグワーツ校指定教科書 2)』(Quidditch Through the Ages)が発刊され,こちらの名目上の著者はケニルワージー・ウィスプになっている。現在は,共に文庫化されている。
 
 
 
 
 
写真1 ホグワーツの教科書で,ハリーの所有物らしい
 
 
  前置きが長くなったが,この本と同名で映画化された本作の話題に移ろう。副読本そのものを映画化した訳ではない。名目上の著者ニュート・スキャマンダーを主人公とした新しい物語である。魔法動物学者の彼が世界各地を旅し,母校の教科書として使える書籍を書くまでの体験談であり,「ハリー・ポッター」シリーズ第1作の約70年前と設定されている。映画としては全5部作でシリーズ化すると発表されている。その第1作である本作品は,ニュートが1920年頃に魔法動物の調査と保護のためニューヨークを訪問した際の出来事を描いている。即ち,ハリポタ・シリーズの続編でも後日譚でもなく,前日譚なのである。
 
 
  質・量ともに最高レベルで,テーマに合ったVFX  
   彼が英国から持ち込んだトランクから,数匹の不思議な魔法動物が逃げだしたことから起こる大騒動が,本作のテーマだ。米国にも魔法使い達が多数いて,MACUSA(米国魔法議会)なる組織も存する。ニュートを助け合う者もいれば,反発・排斥しようとする権力者もいて,物語が進行する。本作では,普通の人間は「マグル」でなく,「ノー・マジ」と呼ばれているのが,少し新しい感じを与えてくれる。見ものは当然,数々の魔法動物たちの描写で,実に楽しく,CG/VFXも満載の大作となっている。
 監督は,映画化全8作の後半の4作のメガホンをとったデイビッド・イェーツ。美術,衣装,編集等で,かつての気心の知れたスタッフを再集結させている。音楽担当は,当然ジョン・ウィリアムズだと思ったのだが,ジェームズ・ニュートン・ハワードだった。改めて調べると,ハリポタ・シリーズの音楽担当は,あの印象的なテーマ曲を作ったJ・ウィリアムズが音楽担当だったのは3作目までで,後は頻繁に入れ替わっている。それでいて,全く同じ印象を与えるとは,ある意味で皆プロである。
 主役のニュート・スキャマンダーを演じるのは,英国人男優のエディ・レッドメイン。『博士と彼女のセオリー』(15年3月号)でホーキング博士を演じてアカデミー賞主演男優賞に輝いた。この役作りの印象が強くて,しばらく主演作は無理だろうと思っていたら,次作『リリーのすべて』(16年3月号)では,性同一性障害者の画家を見事に演じ切った。彼が得意なのは,キワモノの超個性的な役だけかと思えば,本作では(魔法使いではあるが)普通の爽やかな青年役をこなしている。実に器用な俳優だと再認識した。
 ヒロインは,ニュートを助ける米国人魔法使いティナで,『インヒアレント・ヴァイス』(14)でブレークしたキャサリン・ウォーターストンが演じている。その妹で読心術ができるクイニー役にアリソン・スドル,他にダン・フォグラー,コリン・ファレルが重い役どころで登場し,ロン・パールマン,ジョン・ボイド,サマンサ・モートン等も助演陣としてキャスティングされている。
 約70年前の設定であるから,勿論,ハリーやハーマイオニーの名前は全く出てこない。繋がりもほとんどない。あるのは,ニュートの出身がホグワーツであることと,後の校長のダンブルドアの名前が出てくるだけだ。むしろ,接点は登場する魔法動物にある。屋敷しもべ妖精は,第2作に登場したトビーが印象的だったが,同種の妖精が酒場のウェイトレスで登場する。また,小鬼のゴブリンは,旧シリーズでは,グリンゴッツ銀行のグリップフックとして登場するが(写真2),本作では,もぐり酒場を経営するギャングのナーラックとして登場する(写真3)。これは,『ヘルボーイ』シリーズのロン・パールマンがフェイシャル・キャプチャーを通して演じている。
 
 
 
 
 
写真2 旧作のゴブリンは,小人俳優のワーウィック・デイヴィスが演じていた
 
 
 
 
 
写真3 本作のゴブリンは,個性派俳優ロン・パールマンが演じている
 
 
  以下,当欄の視点での魅力的なCG/VFXシーンの数々である。
 ■ まず冒頭から痺れるのは,1920年代のニューヨークの街並みの素晴らしさだ(写真4)。本作のCG/VFX主担当はFramestore,副担当はDouble Negative, MPCの計3社だ。英国勢トリオがロンドンの街を再現するのはお手のものだが,NYをここまで精緻に,かつ質感高く描写していることに感心する。ロンドンもNYも技法的に同じと言ってしまえばそれまでだが,当時の写真や資料だけを頼りに,まるで約1世紀前にタイムスリップしたかのような雰囲気を堪能させてくれる。建物だけでなく,道行く人々の服装,自動車,街灯,地下から上がる蒸気等々で総合的な描写力の高さが感じられる。ビル内で圧巻なのは,MACUSA本部がある高層ビルの内部だ(写真5)。当時の工法で,ここまで壮大な吹き抜けと装飾が実現できたとは思えないが,魔法使い達なら実現可能と思わせてくれる。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 (上)船から見た1920年代のマンハッタン,(下)街中の描写も素晴らしい
 
 
 
 
 
 
写真5 MACUSA本部ビルの内部は,堂々たる作り
 
 
  ■ 本作で登場するビースト達は,基本的に「幻の動物とその生息地」に載っていて,映画シリーズには登場しなかった動物たちである。教科書(副読本)の愛読者なら,どのようにリアルに表現されているかが楽しみだし,映画だけのファンも既視感のないビーストの方が楽しめる。まずトランクから逃げ出したのは,キラキラした光ものが好きな「ニフラー」だ。カモノハシとモグラをミックスしたようなルックスと挙動が,実に愛くるしい。どこかで見た覚えがあると思ったら,JR西日本が発行するICカード「ICOCA」のイメージキャラである「イコちゃん」にそっくりなのである(写真6)。デザイン的に秀逸なのは,木を守る生物「ボウトラックル」だ(写真7)。怖い目に遭うと透明になる「デミガイズ」は,姿が見える時は,キャラクター・グッズ販売を意識したデザインだと思われる(写真8)。終盤で大活躍するのは,一羽ばたきで嵐を呼ぶ「サンダーバード」である(写真9)。この種の怪鳥は,どの作品でも同じような出来映えだが,今回のシチュエーションでの使い方は上手い。その他,「スウーピング・イーヴル」「エルンペント」「オカミー」「マートラップ」「ビリーウィグ」等,どれも個性的で,ビジュアル的にも優れている。
 
 
 
 
 
写真6 ニフラーは,カモノハシのイコちゃんにそっくり
 
 
 
 
 
写真7 ニュートのお気に入りは,ボウトラックルのピケット
 
 
 
 
 
写真8 デミガイズは,ぬいぐるみグッズを意識したデザイン
 
 
 
 
 
 
 
 
写真9 サンダーバードの頭部は鷲で,ハリーが乗ったヒッポグリフに似ている
(C) 2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
 
 
 
  ■ もう1点印象的だったのは,魔法の存在を知ってしまったノー・マジ全員の記憶を消してしまう操作である。脳内の記憶を消すとともに,散乱した室内や破壊したビルや道路もすべて元通りに戻してしまう。このプロセスが実に快い。元の破壊現象をCGで表現しているなら,それを逆回しするだけだから,処理としては簡単だ。他作品でも何度か観た操作だが,本作はその規模が大きいだけに快感も倍増する。本作の完成披露試写は,2D字幕版だったのだが,この逆回しシーンは3D上映で観てこそ,価値があると思われた。CG/VFXシーンの制作には,上記の3社の他に,RODEO FX, Method Studios, Image Engine, Cinesite, Milk VFX等々が参加している。アーティスト,クリエータの数も凄いが,VFXシーンの質も量もそれに見合った素晴らしいレベルだ。しかも,その使い方が見事に本作のテーマに合っている。今から予想しておくなら,来年のアカデミー賞視覚効果賞は,『ジャングル・ブック』(16年8月号)と本作の一騎打ちになると思う。
 
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