head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
title
 
O plus E誌 2017年3月号掲載
 
第89回アカデミー賞の予想
   
   
 
【O plus E誌3月号の掲載分に若干の加筆】
 
  今年の授賞式は2月26日の夜(日本時間27日(月)の日中)だが,本稿は2月15日に書いている。
 この数年間で,今年ほどこの予想がやりにくい年はない。作品賞は第82回(2009年が対象)から,ノミネート可能数が倍増して10作品となったのだが,実際には8~9作品の年が多かった。今年も候補作は9作品なのだが,本稿執筆時点でまだ3作品しか観ていない。例年なら,この予想時に7本程度は観終えているのだが,今年は日本公開の予定がない作品が3本もある上に,有料のネットサービスでしか観られない作品や5月以降にしか公開されない作品が複数あり,試写を観る機会が極端に少ないためだ。
 それでも観賞済みの『ラ・ラ・ランド』『ムーンライト』『メッセージ』は,それぞれ13部門(14ノミネート),8部門,8部門の候補という有力作品なので,この3本を中心に予想することにしよう。勿論,当欄の看板である「長編アニメ賞」「視覚効果賞」に関しては,しっかりと当てるつもりで予想する。直前追加予想や発表後の感想は,加筆したWebページを見て頂きたい。
 ■『ラ・ラ・ランド』:文句なしにぶっちぎりの大本命で,興味は合計受賞数がいくつになるかだ。過去には,『ベン・ハー』(59)『タイタニック』(97)『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(03)が11部門受賞で並んでいる。監督賞,主演女優賞,脚本賞,撮影賞,編集賞,作曲賞,歌曲賞,衣装デザイン賞は最有力で,主演男優賞,録音賞も有望だ。主演の男女中心過ぎて,助演賞部門に候補者がいないのが,数の上ではハンデとなっている。ここまで話題を呼ぶなら,作品賞も取るのが当然だが,問題は例年,アホでヘソ曲がりのアカデミー会員が,ゴールデングローブ賞受賞作の本命を避け,意外な映画に票を投じてしまうことだ。今年もそうなってしまった場合は,もはやアカデミー賞には報道の価値はないと断じておこう。
 ■『ムーンライト』:作品賞の対抗馬と目されているが,この作品もゴールデングローブ賞(ドラマ部門)を受賞しているので,意外性は少ない(『ラ・ラ・ランド』はミュージカル&コメディ部門の作品賞受賞)。好い映画だと思うが,アカデミー会員の支持者は少ないと感じた。ブラッド・ピット製作の黒人が主演の映画は,3年前に『それでも夜は明ける』(13)が作品賞を受賞しているのも,マイナス要因だ。8部門ノミネートでも,受賞は助演女優賞と,せいぜい編集賞くらいと予想する。
 ■『メッセージ』:エイリアン到来のSF映画であるのに,視覚効果部門でのノミネートはない。撮影賞,編集賞,美術賞でもそこそこ健闘するだろうが,脚色賞の本命で,音響編集賞,録音賞の有力候補だと思う。
 ●長編アニメ賞部門:スタジオ・ジブリ製作の『レッドタートル ある島の物語』も候補作だが,順当に考えればディズニーの2作品『ズートピア』『モアナと伝説の海』の一騎打ちだろう。当欄では前者が若干有利と見るが,ダークホースとして,コマ撮りアニメの『Kubo and the Two Strings』(邦題未定)を挙げておきたい。昨夏のSIGGRAPH2016でメイキング講演を聴いただけだが,スピード感のある斬新な作品だと感じたアカデミー会員好みだ。ギャガ配給での本邦公開が決定したようだが,まだ試写はなく,邦題も決まっていない。
 ●視覚効果賞部門:個人的には『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』も気に入っていたのだが,ノミネートされなかった。候補作5作品では,『ジャングル・ブック』と『ドクター・ストレンジ』の2作が抜けている。甲乙つけがたいが,前者は正統派のCG描画力がここまで来たかと驚き,後者はVFXの使い方の斬新さに驚いた。じゃんけん後出しの分,後者の目新しさが評価されると予想しておこう。ともにディズニー配給作品なので,内容に対する評価よりも,事前運動で同社がどちらを強く推すかで決まってしまう気もする。
 
 
 
【Webページ専用の追記】

(2017年2月24日記)

 
  その後,何本かの候補作を観たので,Webページ専用で,主要部門の感想・予想も述べておこう。
 ●作品賞部門:『LION/ライオン ~25年目のただいま~』(4月号で紹介予定)『最後の追跡』を観て,9本中5本に達したが,『ラ・ラ・ランド』が大本命という印象は変わらない。主要部門ばかり6部門にノミネートの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が未見であるので,この作品が多数受賞するなら,下記の予想も完敗(不戦敗?)ということになる。
 ●監督賞部門:『ラ・ラ・ランド』の監督は,一昨年『セッション』で注目を集めたデイミアン・チャゼル。短評の本文でも触れたが,ハリウッド映画を知り尽くし,オリジナル脚本のミュージカルでその伝統に敬意を表した上で,新しい映画感覚を与えてくれるこの才能に投票しない手はない。万一,作品賞を逃すことはあっても,監督賞は固いと信じる。
 ●主演男優賞部門:『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング,『はじまりへの旅』(4月号で紹介予定)のヴィゴ・モーテンセンしか観ていないが,作品の勢いで前者が優勢だ。数ヶ月の練習で,ピアノ演奏シーンのすべてを自らの演奏で収録できるまでになったというのも,プラス材料だ。後者は作品もユニーク,主役の父親の存在感も抜群だが,ノミネートどまりだと思う。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレックの評判が高く,既にいくつもの映画祭で男優賞を得ているので,彼が強力な対抗馬なのだろう。いや,むしろそちらが本命なのかと思う。
 ●主演女優賞部門:『Elle』のイザベル・ユペールだけ未見だが,他の4本は観ている。『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンは,単勝人気1.2〜1.3倍程度の大本命で,確勝だと思う。『ジャッキー:ファーストレディ 最後の使命』(4月号で紹介予定)のナタリー・ポートマンも熱演で,存在感は大きかったが,上述V・モーテンセンと同じ評価だ。逆に,絶対に受賞しないと断言できるのが,『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(16年12月号)のメリル・ストリープだ。これが20回目のノミネートで,既に受賞3回。ゴールデングローブ賞には29回ノミネートで8回受賞。ノミネート記録最多のギネス記録を更新するために,候補に入れているとしか思えない。もっとも,先日の大統領批判(とトランプからの罵詈雑言の逆襲)で人気を呼び,急に票を伸ばすかも知れないが(笑)。
 ●助演男優賞部門:候補5作品の内,3本を観ているが,いずれもさほど印象に残らなかった。不作の年で,誰が受賞しようと,さほど関心もない。
 ●助演女優賞部門:候補5人の内,『LION/ライオン ~25年目のただいま~』のニコール・キッドマンと『ムーンライト』のナオミ・ハリスしか観ていないが,この2人でなら後者が圧倒的だ。前者でのN・キッドマンの出番は少なく,何でこれでオスカー・ノミネートかと不思議だ。実話ベースの物語で,実在の人物の思想・人生観に感動するあまりに,N・キッドマンにも票が入ったのかも。一方,『ムーンライト』の主人公は,3つの時代を3人の俳優が各時代を演じている。その母親役ナオミ・ハリスは出ずっぱりで,印象深い役柄を好演している。とても,現007シリーズのマネペニー嬢と同一人物とは思えない。映画誌,映画紹介サイト等では,『Fences』のヴィオラ・デイヴィスが有力との噂だが,さて……?
 
 
 
【追記2】まさかの結果と茶番劇に呆れて…

(2017年3月2日記)

 
  まず,当欄の主たる守備範囲である「長編アニメ賞」と「視覚効果賞」から語ろう。これは,1勝1敗といったところだろうか。前者は,ディズニー2作品の一騎打ちと記し,『ズートピア』を本命視した。「的中」ではあるが,誰もが予想した順当な結果だったので,あまり威張れない。
 後者も,2作品を選び出し「抜けている。甲乙つけがたい」と言いながら,後で公開の『ドクター・ストレンジ』を推したのだから,こちらは見事な空振りだ。8月号での紹介時に『ジャングル・ブック』を,「この数年で最高レベルのCG/VFX作品であり,来年のオスカーの大本命だと予想しておく」と書きながら,直前で気が変わったのだから,やはり完敗だ。そう思う半面,この作品を選んだ視覚効果賞部門の投票者の見識に感心し,拍手を送りたい。
 さて,問題の作品賞であるが,ご存知の通り,事前の予想は新聞もTVも『ラ・ラ・ランド』一色だった。日に日にその1本かぶりが高じたので,むしろ危ないなと感じたが,やはり怖れていた「まさか」の結果だった。加えて,あの発表の茶番劇で,すっかり白けてしまった。
 時代を代表する娯楽大作を(半ば意図的に)選ばないのは,映画大国のアメリカを代表する映画賞としては,病的であり,自己否定ではないかと思う。『ムーンライト』も良い映画だと思うが,昨年が白人一辺倒であったことへの反動,差別主義者の新大統領への反発が同作に有利に働いたとされている。そう報道され,素直な賞賛が得られないこと自体,『ムーンライト』にとっても,迷惑かつ失礼な話だ。
 ある種の祭りだからと,数年前からこの予想コーナーを設けてきたが,語る価値がなくなってきた。来年からスッパリやめるか,「長編アニメ賞」「視覚効果賞」2本だけの予想にしようかと思案し始めている。 

 
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br