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O plus E誌 2004年4月号掲載
 
 
 
『王の帰還』アカデミー賞制覇の意義
 
 
 
       
         
     
   ご存知の通り,第76回アカデミー賞は『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』の圧勝に終わった。先月号で「今年この映画に票を入れないようではアカデミー会員の資格を疑う」とまで書いたが,ノミネートされた11部門全部で受賞とは驚いた。言うまでもなく,この評価は『王の帰還』一作に対するものではなく,シリーズ3作全体に対して,プロの映画人の集まりであるアカデミーがこの映画に対して表した敬意の結果だ。個々の部門,特に技術部門では,他にも優れた作品はあったと思うが,全部門で栄誉を与えようというのが,アカデミー会員が選んだ選択肢であったと解釈できる。「ピーター・ジャクソンよ,よくぞここまで映画の魂を理解し,豊かな表現で映画のレベルを高めてくれた。ありがとう」という感謝の意だと思う。
 その象徴的な全部門受賞の中で,視覚効果賞3年連続受賞は正真正銘の実力だ。以前,技術的にはILMの方が上だが,『ロード…』シリーズの方がVFXの使い方が上手いと書いたが,その通りだ。数段上手い。これは監督の腕だ。業界をリードするILMは,これで丸10年連続で視覚効果賞を逃したことになる。技術そのものよりも,作品内での使われ方が重視されるのが最近の傾向だ。
 VFX受注産業最大手であるILMにとって,顧客の意向通りに作ることが使命で,映画全体の脚本や演出の好し悪しに口出しできる立場にはない。監督自身がVFXを熟知したJ・キャメロンの『タイタニック』やP・ジャクソンの本シリーズには,その点で負けてしまう。本部門を牽引するILMの多大な貢献と目覚ましい技術向上は頭が下がるが,P・ジャクソンの映画史に残るこの偉業も讚えない訳には行かない。投票するアカデミー会員の心中は,「もうちょっと我慢していてくれよ。この3部作は特別な存在だったので,これが終われば必ず埋め合わせはするからな」という想いだったと想像する。
『ターミネーター2』(91)から10余年,CG技術による視覚効果は驚くばかりの進歩を遂げた。見比べてみればその差は歴然だ。本CIFシリーズがこの数年ここ一点に集中して連載して来ただけのことはあった。映像メディア史に残る足跡である。もはや,映画の質,映像表現の文法までも変えてしまったと言って過言ではない。古い映画人や技術の素養のない批評家からはキワモノ扱いされ,白眼視されてきた新技術が,もはや誰もが認めざるを得ない水準に達した。その象徴が,この『ロード…』シリーズ3部作の3年連続受賞と全部門受賞だ。
 
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