head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
title
 
O plus E誌 2016年10月号掲載
 
 
BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2016 Storyteller Distribution Co., LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月17日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2016年8月18日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  巨匠のファンタジーは,巨人の表情描写と音楽が最高  
  巨匠スティーブン・スピルバーグ監督の最新作で,児童文学を映画化したファンタジー作品だが,いくつか意外な組み合わせと感じることがある。まずは,スピルバーグ作品がディズニー・ブランドで配給されることだ。色々な意味でディズニーのライバルであるドリームワークスSKGのオーナーであり,これまで同社の作品はパラマウントや20世紀フォックスから配給されていた。その一方で,テーマパーク・アトラクションでは,「E.T. アドベンチャー」や「ジョーズ」は「ユニバーサル・スタジオ」に存在したが,「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー」は現在も東京ディズニー・シーにあるように,ディズニー系のパークに設置されている。近年,同監督とドリームワークスとの関係がやや疎遠になるとともに,ディズニーとの関係も強化されたようだ。
 スピルバーグ・ブランドでのファンタジーと言えば,誰もが『E.T.』(82)を思い出す。同作はオリジナル脚本での大ヒット作であったが,本作には原作小説が存在する。それもロアルド・ダール作の児童文学で,邦訳本は「オ・ヤサシ巨人BFG」(評論社)なる題名で出版されている。ロアルド・ダールといえば,筆者らの世代には「あなたに似た人」等,シニカルな短編小説で知られるミステリー作家だが,1960年代中期以降は児童文学の分野で数多くの著作がある。映画化された中で最も著名なのは,『チャーリーとチョコレート工場』(05年9月号)だろう。CG/VFXを多用したティム・バートン作品で,同監督特有のブラック・ユーモアが生かされていた。
 スピルバーグ作品ならそんな毒はなく,もっと心温まる作品に仕立てているだろうと想像したが,その通りだった。主人公は児童養護施設暮らしの10歳の少女ソフィーで,身長7m(原作の邦訳本では8m)の巨人BFGに連れられ,巨人の国を訪れる(写真1)。そこでの様々な出来事は『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)を思い出させるし,地球外から来た「E.T.」との交流の裏返しでもある。ソフィーが巨人をずっと「BFG」と呼ぶのも,明らかに「E.T.」を意識した使い方だ。
 
 
 
 
 
写真1 ソフィーとBFG。身長7mでこれだけ大きい。
 
 
  巨人の国には心優しいBFG以外に,もう一回りも二回りも大きな巨人たちが住んでいて,この邪悪な巨人たちを英国女王の力を借りて退治するというのが,物語の骨格だ(写真2)。原作中でも単に女王としか呼ばれていないが,風貌や飼い犬からして,明らかに現在のエリザベス2世である。子供たちに夢を吹き込む巨人の存在や冒険は,まさにディズニー・ブランドに相応しい作品だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 BFGよりもぐっと大きい邪悪な巨人たち
 
 
 
  少女ソフィーを演じるのは,数千人のオーディションから選ばれたルビー・バーンヒル。勿論,かなりの芸達者で,『ジャングル・ブック』(16年8月号)の少年と双璧だ。BFGを演じるのは,監督の前作『ブリッジ・オブ・スパイ』(16年1月号)でロシア人スパイを演じたマーク・ライランス。同作の助演でオスカーを得たように,すっかり監督のお気に入りになったようだ。
 以下,当欄の視点での感想と評価である。
 ■ 注目の的はBFGのCGデザインである。現在出版中の「ロアルド・ダール コレクション」全22巻の大半には,クェンティン・ブレイクの筆なる挿絵が添えられている。このイラストに基づいてCGキャラもデザインされたようだ(写真3)。強いて言えば,耳はやや小さめ,髪の毛は多めに描かれている。M・ライランスの顔面をFacial Captureして表情変化を獲得し,身体全体の動きをPerformance CaptureしてCGのBFGを描くという,今やお決まりの手法である。この表情再現が驚くべきレベルに達している(写真4)。一目で,M・ライランスの目だと分かる。口元の描写もリアルだ(写真5)。担当は,この分野のNo.1スタジオのWeta Digital。『ロード・オブ・ザ・リング』『猿の惑星』両シリーズで培った技術が,人間の描写に適応しても通用する域に達している。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 クェンティン・ブレイクが描いた挿画(上)とそれを基にした本作での映像(下)。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 一段と進化した表情の描写。目がリアルだ。
 
 
 
 
 
写真5 実際のマーク・ライランス。口元が優しい。
 
 
   ■ その他の巨人の描写やバッキンガム宮殿内の出来事にも数々のCG/VFXが使われているが,最近の大作なら何の不思議もなく感じられる。女王様の愛犬(ウェルシュ・コーギー)の大半は本物で,プップクプーの威力で爆走するシーンはCG製だろう。ビジュアル的に出色なのは,BFGが集めて保存する「夢」の表現だ。カラフルな気体状の描写は,まさに夢のようだ(写真6)
 
 
 
 
 
写真6 BFGが集める夢をカラフルな気体で描いている
(C) 2016 Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
 
 
  ■ もう1つ特筆すべきは,ジョン・ウィリアムズ担当の音楽だ。冒頭の児童養護施設でのBGMは,『ハリー・ポッター』シリーズの音楽を想起させるが,もっと味わい深い。巨人の国,女王陛下の宮殿内では,全く違ったスコアで物語を支えている。最近の煽り立てる音楽ではなく,これぞ本物の映画音楽だ。本作は物語の面白さではだが,BFGの表情と音楽でにした。
 
  ()
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next