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O plus E誌 2016年10月号掲載
 
 
メカニック:ワールドミッション』
(サミット・エンタテイン メント/ショウゲート配給 )
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月24日より新宿バルト9他全国ロードショー公開中]   2016年8月23日 GAGA試写室(大阪)
       
   
 
ジェイソン・
ボーン』

(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )

      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月7日よりTOHOシネマズ日本橋他全国ロードショー公開予定]   2016年8月30日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  秋のアクション映画は,2人のジェイソンで皮切り  
  夏休みの映画興行界で,国内外のアニメ映画のラッシュは毎年のことだが,今年はジャングルもの2本も注目を集め,和製怪獣映画が暴れまくった。秋も深まると文芸調映画も増えてくるから,それまではアクション映画が主役だろうと思っていたら,2人の「ジェイソン」がその口火を切った。片方は俳優名,他方は役柄名だが,ともに人気シリーズの1作であり,多くの固定ファンを持っている。
 
 
  J・ステイサムがT・クルーズばりの立ち回り  
  まずは当代きってのアクション・スター,ジェイソン・ステイサムの主演作だ。使いやすい俳優なのか,『エクスペンダブルズ』シリーズ,『ワイルド・スピード』シリーズで準主役で起用されているが,自らの主演作では『トランスポーター』シリーズで名を成した。多数のB級アクション映画にも主演しているが,本作は今後もシリーズ化しそうな主演作である。
 アーサー・ビショップは,証拠を残さず,依頼された標的を仕留める凄腕の暗殺者だが,精密機械のような正確さと冷徹さから「メカニック」と呼ばれている。言わば西洋版「必殺仕事人」だ。元は1972年にチャールズ・ブロンソンが演じた人物だったが,それを2011年リメイクしたのが前作で,本作はその続編である。即ち,アーサー・ビショップとしては3度目の登場だ。
 物語は,先日来の五輪中継番組ですっかり見慣れたリオデジャネイロのシンボル,街を見下ろすコルコバードの丘のキリスト像の光景から始まる。前作の暗殺仕事の後,ビショップが同地で平穏に暮らしていたが,兄弟子クレインから暗殺依頼が入り,止むなく3人の武器商人の暗殺計画に着手する……という設定だ。副題通り,リオを起点に,タイ,マレーシア,オーストラリア,ブルガリアへと,世界中を駆け巡る。「おいおい,いくら緊急ミッションとはいえ,移動時間は考慮しているのか? 」と言いたくなるほどの迅速さだ。
 監督は,ドイツ生まれのデニス・ガンゼル。監督の知名度は低いが,助演陣にはトミー・リー・ジョーンズ,ジェシカ・アルバ,ミシェル・ヨーという豪華な顔ぶれを揃えてきた。全体的にパワーアップし,贅沢感を与えようとしているが,背伸びし過ぎと感じる箇所も少なくなかった。以下,当欄の視点での評価である。
 ■ 助演陣の内,ヒロインのジェシカ・アルバは,拗ねた役柄の方が似合うが,本作では結構可愛い女性として登場する。それでもいいが,この程度の女に冷徹な暗殺者が惚れてはいけない。クールなマシンのイメージが崩れてしまうではないか。T・L・ジョーンズは得体の知れない武器商人役だが,悪役としての迫力が今イチだった。最大の不満はミシェル・ヨーの使われ方で,多くのファンがカンフー・アクションを望んでいたと思われるのに,どうでもいい役柄だった。この役に,ボンド・ガールはもったいない。脚本が悪い。
 ■ 全体を豪華にしているので,J・ステイサムのアクションもたっぷり登場する(写真1)。元は水泳の飛び込み選手だけあって(そのために前頭部の毛髪が摩耗したのだろうか?),高所からのジャンプ場面も用意されている。驚いたことに,トム・クルーズばりに高層ビルの外壁に貼り付いたり(写真2),様々な小道具を準備し,予め練った計画通りに敵地に潜入している。ミッション・インポッシブル・チームを1人で演じているようなものだ。これは嬉しくなかった。J・ステイサムには,もっと生身の荒々しいアクションが似合っている。
 
 
 
 
 
写真1 VFXに頼らない生身のアクションもたっぷり
 
 
 
 
 
 
 
写真2 トム・クルーズばりに高層ビルの外壁に挑戦。(上)屋内セットでのリハーサル風景,(下)VFX加工した完成映像。
 
 
  ■ その半面,全編を通じて,多彩なVFXシーンが登場するのは嬉しかった。上記のビルの外壁シーンは勿論(写真3),ハングライダーでの飛翔(写真4),船上での攻防,様々な背景シーンの描写(写真5)等で,VFX合成が使われている。担当はWorldwide FX社で,ほぼ1社で請け負ったようだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 眼下に見える光景は勿論CGを合成(上:ブルーバック撮影,下:完成映像)
 
 
 
 
 
 
 
写真4 前半の注目シーンの1つ,ジャンプしてこの上に(上:ワイヤーを装着して撮影,下:完成映像)
 
 
 
 
 
 
 
写真5 背景の差し替えシーン。木の部分を上手く処理している(上:撮影時の映像,下:完成映像)
 
 
  監督&主演の黄金コンビが復活しての5作目  
  大人気の「ボーン」シリーズの5作目は,元CIAエージェントで「記憶を失った暗殺者」の主人公名そのものの『ジェイソン・ボーン』である。ロバート・ラドラムが残した3部作の映画化は大成功で,それまで若手演技派と見られていたマット・デイモンが一躍アクション・スターに変身した。とりわけ,第2作『ボーン・スプレマシー』(04),第3作『ボーン・アルティメイタム』(07年11月号) でのポール・グリーングラス監督との相性は抜群だった。同監督が降板したため,M・デイモンも出演しないと言い出し,第4作『ボーン・レガシー』(12年10月号) はジェレミー・レナー主演のサイド・ストーリーになってしまった。助演陣はそのままで,J・ボーンが登場しない「ボーン」シリーズという珍妙な続編になった訳である。
 本作は,9年ぶりの上記黄金コンビの復活作である。否が応でも注目度は高くなり,本名「デヴィッド・ウェッブ」時代のエピソードも期待された。本作もアテネ,ベルリン,ロンドン,ラスベガスと世界中を駆け巡る。助演陣は,何とトミー・リー・ジョーンズがこちらにも登場し,CIA長官を演じる。他に,フランスの大スター,ヴァンサン・カッセル,アカデミー賞助演女優賞を得たばかりのアリシア・ヴィキャンデルという充実振りだ。宣伝文句では「シリーズ最高傑作」との呼び声もあるが,残念ながらそのレベルには達していなかった。余りに2 & 3作目が秀逸だったためだ。以下,前作までの枠を超えていないと感じた理由を考えてみよう。
 ■ 1つは,過去の機密計画の発覚を怖れるCIAがボーンを抹殺しようとする物語の骨格が1パターンなためだ。逃亡劇ものは,相当新しい仕掛けを入れないと難しい。そう言えば,T・L・ジョーンズは『逃亡者』(93)のジェラード警部役でオスカーを得ただけあって,執拗な追跡を命じるCIA長官役は似合っていた。
 ■ チェイス・シーンの迫力はアップしているのだが,前作,前々作でも登場しただけに,またバイク・チェイスかと感じてしまう(写真6)。監視カメラや衛星から映像を用いた追跡システムも,モニタリング画面(写真7)に工夫はあるものの,これに頼り過ぎの感がある。それが,やや新味に欠ける主要因となっている。
 
 
 
 
 
写真6 今回のバイク・チェイスは,夜で追われる側
 
 
 
 
 
写真7 ネット経由での追跡結果も大画面に
(C) Universal Pictures
 
 
  ■ 「ボーン」シリーズ・ファンの救いは,CIA内で彼を庇う女性2人の存在だった。パメラ・ランディ(ジョアン・アレン)とニッキー・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)である。2作目の最後のパメラの驚愕の顔,3作目の最後のニッキーの笑顔は印象的だった。前作ではパメラだけが少し登場していたので,本作はニッキーの出番を期待したが,冒頭から重要な役柄で登場する。ただし,(詳しくは書けないが)彼女の出番が前半で終わってしまうのが残念至極だ。
 ■ それに代わって登場する期待の新エージェントは,A・ヴィキャンデル演じるへザー・リーだ。美形な上に,強気の自信家であるキャラは,いかにも現代のキャリア・ウーマンである。彼女がボーンからのメッセージを受け取るラストシーンの演出は上手い。次回作以降も彼女が登場することを期待してしまう。
 ■ CG/VFXの主担当は,前作までと同様,英国の雄のDouble Negativeだ。利用シーンはそう多くないが,出色は終盤のチェイス・シーンでの玉突き事故で,CGならではの描写シーンである。そもそも,その舞台に夜のラスベガスを選んだのが正解だ。何より華やかであり,破壊シーンも,現地ロケ,特撮,CGを巧みにミックスしている。現地を知る観客ほど,楽しめる仕掛けやカメラワークになっている。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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