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O plus E誌 2015年10月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『カプチーノはお熱いうちに』:イタリア映画で,監督・脚本は名匠フェルザン・オズペテク。南イタリアの美しい街レッチェが舞台で,若い男女の織りなす何気ない日常を描いている。主人公のエレナ(カシア・スムトゥニアク)には,ゲイの友人がいるかと思えば,親友の彼氏の嫌みなキザ男に恋をしてしまう。歯の浮いたようなセリフの連続は,日本人俳優が口にしたらおぞましく感じるが,イタリア人の美男美女だと自然に思えてしまう。物語は一転して13年後になり,彼女は彼と結婚し,2児を設けていた。ある日,乳癌であることが判明し,後は過酷な闘病生活へと映画は急旋回する。奇跡を信じつつ運命と向き合う日々,彼女を見守る夫や友人の心中が,見事に描かれている。映画は最後にもう一度,13年前の出来事へと戻る。この配置が絶妙で,生きる意味を実感する見事な人生讃歌だ。
 『GONIN サーガ』:20年前に公開され,話題を呼んだ石井隆監督のバイオレンス・アクション・シリーズの3作目だが,第1作の正統な続編という位置づけだ。5人組が暴力団から現金を強奪した事件の19年後で,主演級の東出昌大,桐谷健太,安藤政信らは,前作の主要人物の子や孫の役柄で登場する。冒頭に前作の代表シーンが再現されているが,すぐにはこの世界に入り難いので,DVDで復習(初見の人は予習)してから観ることをお勧めする。前作で5人組も敵も全員死んだはずだったが,根津甚八演じる元刑事だけが一命を取り留め,意識不明の植物人間で生きていたという筋立てだ。俳優業を引退して久しい彼が,監督のたっての要請で本作に出演することでも話題を呼んでいる。テンポは良く,銃撃戦のバイオレンス度も増しているはずなのだが,さほどとは感じなかった。時代の違いなのだろう。思えば,前作ではビートたけしがヒットマンを演じていたが,最近の彼の監督作『アウトレイジ』シリーズは,石井隆流をコピーしているだけだと感じた。
 『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』:時代は1980年代前半,レーガン政権下の米国で,NY地区の石油ビジネスをめぐる社会派ドラマだ。そう聞いただけで,犯罪,ギャング,マフィアの臭いがプンプンする。原題は『A Most Violent Year』。主人公のアベルは正義感の強い人物だが,悪人面のオスカー・アイザックを配し,ジェシカ・チャステイン演じる夫人はギャングの娘という設定だから,いつ酷い目に遭うのか,悪の道に染まるのかと思う方が当然だろう。副題中の「代償」が何なのか気になるのも,ハラハラ,ドキドキを倍加させる。あまり音楽を使わずに,これだけの緊迫感を出すのは,語りが上手い証拠だ。堂々たる骨太のドラマで,多数の映画祭で,作品賞,主演男優賞,助演女優賞を得ているのも頷ける。監督・脚本は,新進のJ・C・チャンダー。この監督の作品には,今後も注目したい。
 『パパが遺した物語』:原題は極めて平凡で『Fathers and Daughters』。これ自体が劇中での遺作の書の題名だが,邦題の方がうまい。これだけで感動系ドラマだと分かる。父ラッセル・クロウと娘アマンダ・セイフライドは,『レ・ミゼラブル』(12)でも共演している。助演陣も,ジェーン・フォンダ,オクタヴィア・スペンサー,クヮヴェンジャネ・ウォレスと豪華だ。物語は,過去と現代を往き来し,作家の父が男手1つで愛娘を育てる幼児期,彼女が成人してからの2つの時代の計3話が,並行して進行する。そのバランスが絶妙だ。古いタイプライタと用紙が散乱する様が懐かしい。いかにも,昔気質の作家だ。父娘が共に歌った,想い出の曲に選ばれたのは「遥かなる影(Close to You)」。カーペンターズ版は使用権が得られず,マイケル・ボルトンが歌っている。これでは興ざめだ。ジュークボックスから流れる曲で父を偲ぶなら,何が何でもカレンの声であるべきだった。それが無理なら,曲を変えるべきだった。
 『顔のないヒトラーたち』:「アウシュビッツもの」だと聞くと,またかと思い,それだけで気分が萎えてしまう。ただし,本作ではガス室もユダヤ人を迫害する非人道シーンも登場しない。第2次世界大戦後10年以上経った1958年に始まり,1963年の「フランクフルト・アウシュビッツ裁判」の初公判にこぎ着けるまでの検察側の苦闘を描いている。1958年当時,(西)ドイツの一般市民の大半は,「アウシュビッツ強制収容所」の存在も何が行われたのかも知らなかったという事実に驚く。他国がドイツの大罪を描いた映画ではなく,本作は正真正銘のドイツ映画で,ドイツ人俳優が演じていることに意義がある。国外に対しては贖罪意識の表明であり,自国民に対しては,忘れてはならない歴史の記録簿を意図したのだろう。若き検事が主人公だが,本作で残念なのは,彼と恋人が美男・美女過ぎることだ。これでは,リアリティが薄れ,メッセージも弱くなってしまう。
 『マイ・インターン』:アン・ハサウェイ主演で『プラダを着た悪魔』(06)の後日談のごとき触れ込みだが,直接の続編ではない。それでも,女性ファッションのネット通販で成功を収めた女社長役だから,鬼編集長のメリル・ストリープに鍛えられた彼女の,10年後の姿に見えてくる。女性観客には,彼女のファッションも注目の的だろう。本作の共演者は,ロバート・デ・ニーロ。上司でも株主でもなく,何と高齢のインターン(見習社員)役だ。まさか,この年齢差で恋愛関係に発展させる気かと怖れたが,さすがにそんな不自然な展開はなかった。安心した(笑)。パーフェクトなキャリア・ウーマンの家庭は心優しい育メンが守り,会社では頼りない若手男性社員を尻目に,経験豊かなシニア・インターンが次第に人望を得て行く。何やら,高齢化社会での人材活用法提案書のような映画だ。この映画が契機となって,本当にこうしたシルバー世代の活用が進むなら,それもアリかなと思いながら観てしまった。
 『ヴェルサイユの宮廷庭師』:西洋式庭園の内,フランス流の平面幾何学式の代表格は,ヴェルサイユ宮殿の庭園である。本作で描かれるのは,17世紀にルイ14世が命じた宮殿の増改築計画に付随した庭園の建設にまつわる物語で,女性造園家サビーヌ・ド・バラが主人公だ。自由な発想で造園に臨む彼女に対し,伝統と格式を重んじる庭園建築家アンドレ・ル・ノートルはことごとく衝突し,やがて互いに惹かれ合う。即ち,17世紀のキャリア・ウーマンの現代風解釈となっている。監督兼ルイ14世役は,『ハリー・ポッター』シリーズでスネイプ先生を演じたアラン・リックマン,サヴィーヌ役は『タイタニック』(97)のケイト・ウィンスレットだ。宮殿,庭園,衣装など,美術的にも見どころ満載だが,惜しむらくは,英国映画で,セリフはすべて英語である。この映画は絶対にフランス語で作るべきだ。
 『海賊じいちゃんの贈りもの』:95分のコンパクトなヒューマンコメディの主演は,『ゴーン・ガール』(14)でブレイクしたロザムンド・パイク。今度はどんな悪女振りを見せてくれるのかと思ったが,夫婦仲は破局寸前であるものの,ただの平凡な主婦だった。ロンドンに住む一家が老父の75歳の誕生祝いにスコットランドの実家に向かい,そこで遭遇した出来事を描いている(原題は『What We Did on Our Holiday』)。真の主演は,自称ヴァイキングの子孫である祖父と個性的な3人の孫たちだった。何しろ,テンポが好い。スコットランドの山や湖が美しい。そんな中で,子供たちの素直だが辛辣なセリフ,爺さんの含蓄ある言葉が,饒舌にこの物語を牽引する。そして,中盤過ぎに思いも寄らぬ事件が起こり,子供たちの行動に目は釘付けになる。実に見事な脚本だ。同時に,この邦題も素晴らしい。
 『カンフー・ジャングル』:久々に観た香港製カンフー映画だったが,爽快だった。ここ最近,武侠ものでありながら,芸術作品気取りでクソ面白くもない中国映画が続いたので,あまり期待していなかった。主演のドニー・イェンは,武術は達者だが,地味な顔立ちゆえ,尚更期待度は低かった。ところが本作は,刑務所内の騒動からもうワクワク,血が煮えたぎる感じが伝わってくる。収監中の元刑事が連続殺人犯を追うという設定だが,悪役が個性的で,もっと好い。犯人と各個別武芸の達人との対決シーンも斬新で,意欲的である。そしてクライマックスの13分余の道路上の戦いは,カンフー映画史上に残る力闘だった。棒術の戦いで,ここまで楽しめる作品は始めてだ。そして,エンドロールはさらに充実していた。カンフー映画史上の名優,名場面のオンパレードで,先人たちの功績を讃えるメッセージにも感動する。これぞ香港製カンフー映画の真骨頂,集大成だ。
 『ピッチ・パーフェクト2』:女子大生アカペラ部が活躍するガールズ・ムービーの2作目で,今年5月に米国公開時には『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』を上回るNo.1ヒットとなった。1作目は全く記憶になく,試写を観た覚えもない。それもそのはず,3年間オクラ入りして,本邦では今年5月29日に小規模公開されたばかりだ。DVDはようやく来月販売&レンタル開始される。この続編は,3年連続で全国優勝を果たした女子アカペラ部が,オバマ大統領の誕生日記念式典に出演するところから始まる。ここでトンデモナイ出来事が起こる。米国映画は,大統領がらみでこんな超下ネタが許されるのかと仰天する。全編楽しい青春ミュージカル・コメディだ。他作品で全く魅力を感じなかったアナ・ケンドリックが,本作では輝いている。『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(15年3月号)でデブの女子警備員を演じていたレベル・ウィルソンの存在感も圧倒的だ。すぐサントラ盤を入手した。
 『マルガリータで乾杯を!』:題名からはフランス映画かイタリア映画の情熱的なラブロマンスを想像してしまうが,インド映画で,身障者の女子学生が主人公である。といっても,暗いお涙頂戴のシリアス・ドラマではなく,生まれながらのハンデはあるものの,明るく生きる19歳のライラの青春映画だ。失恋,デリーからNYへの移住,同性愛への目覚め,帰国,母の死……,悩み,傷つきながらも,前向きに生きる様に共感できる。インドとアメリカの民度や文化の違いも興味深い。とりわけ,主演のカルキ・コーチリンの明るい表情と繊細な演技が印象的だ。健常者だが,しばしば本物の障害者と間違われたというから,まさにライラになりきったリアルな演技である。それだけの熱演でも,残念なのは,彼女だけが全くインド人に見えないことだ(インドで生まれ育ったが,両親はフランス人)。
 
 
  (上記の内,『カンフー・ジャングル』は,O plus E誌には非掲載です)  
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