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O plus E誌 2014年11月号掲載
 
 
ヘラクレス』
(パラマウント映画)
      (C) 2014 Paramount Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月24日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開]   2014年9月18日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]
       
   
 
美女と野獣』

(ギャガ配給)

      (C) 2014 ESKWAD - PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH - 120 FILMS
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月1日よりTOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー公開予定]   2014年8月29日 GAGA試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  アニメ越えを目指して,CGで強化された2作  
  次なる2本も,何度か映画化され,映画通にはお馴染みの主人公だ。ただし「誰も語らなかった…」ではなく,「何度も語られたが,少し視点を変え,真正面から再度映画化しよう」という意図での企画だ。一見,ジャンルも,描かれている時代も場所も全く違うが,大きな共通点がある。既に全く同名でディズニー・アニメとして映画化されており,ともにディズニー流に翻案され,ミュージカル性を強調された作品であった。
 本欄で取り上げるからには,今回の両作品はCG/VFXをふんだんに使って,スペクタクル性を増している。以下で対比するのは,ディズニー映画や既成概念の呪縛からどの程度逃れて,新作映画としているかである。
 
 
  見惚れるばかりの肉体美,これぞ勇者ヘラクレス  
   言うまでもなくギリシャ神話に登場する英雄だ。全能の神ゼウスと人間の母の間にできた半神半人である。当欄で紹介した作品中で何度か登場したペルセウス等もゼウスの子の半神で,他にも多数の半神が存在する。全知全能で,神々の王とも言われるゼウスは,多くの女神とも人間の女性とも交合して多数の子供を設けているから,相当好色かつ絶倫の神のようだ(笑)。
 とりわけ,ヘラクレス誕生の経緯はひどい。美貌のアルクメネに横恋慕したゼウスは,夫アムピトリュオンの出征中に,彼に化けてアルクメネと一夜を共にし,ヘラクレスを身籠らせたというから,ストーカーの上に,詐欺罪,強姦罪に値する。そうした不義を怒ったゼウスの正妻ヘラから,ヘラクレスは様々な虐待を受けるが,彼は苦難の道を選択し,様々な功業や冒険を成し遂げ,神々からも人々からも尊敬を集める。
 といったところが,ヘラクレス譚の要約だ。ギリシャ神話を知らなくても,勇者,最強戦士として知られ,筋肉マンの代名詞に。これまで何度も映画化されているが,中にはギリシャ神話とは無縁のSFやB級活劇も存在した。ディズニー・アニメ『ヘラクレス』(97)は,神話世界が対象だが,内容はオリジナルの冒険物語であった。この秋,レニー‥ハーリン監督作の『ザ・ヘラクレス』が公開されたので,本作と比較紹介したかったのだが,スケジュールが合わず,見逃してしまった。
 さて,ブレッド・ラトナー監督の本作は,大作仕立てというので,どの時代を選び,誰を主演に据えているのかが気になった。ゼウスの不義,著名な「12の難業」は,映画の導入部で簡単に済ませている。物語の大半は,ヘラクレスが既に妻と子を失い,ギリシャ諸国を放浪中に,トラキア国を訪れ,同国内の抗争に巻き込まれて,獅子奮迅の活躍をする様子が描かれている。
 注目のヘラクレス役は,プロレス出身の「ザ・ロック」こと,ドウェイン・ジョンソン。最近は演技力も増し,数々の作品で助演男優として起用されているが,本作はまさにハマリ役だった。元来屈強な体躯を改めて再鍛練して臨んだというだけあって,その圧倒的な肉体美は神々しかった(写真1)。この存在感は,絶対にアニメでは描けない。今後,映画史中でヘラクレスと言えば,まず本作の彼が語られることだろう。
 
 
 
 
 
写真1 群を抜く堂々たる体躯(前列左から2人目)。まさにハマリ役。
 
 
  物語自体は平凡だったが,Double Negativeが主担当のCG/VFXは,期待以上の出来映えであった。
 ■ 物語の導入部とはいえ,ヘラが放った毒蛇を絞め殺す下りや,「12の難業」における魔物退治はしっかりCGで描かれていた。エリュマントスの大猪の迫力に圧倒される(写真2)。ネメアーの獅子を素手で殺すシーンも鳥肌ものだった(写真3) 。多頭の水蛇ヒュドラや地獄の番犬ケルベロスの描写も一級品で,堪能した。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 最も獰猛なのは「エリュマントスの大猪」。もの凄い迫力だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 「ネメアーの獅子」のCG描写も,それを素手で殺すシーンも凄い
 
 
  ■ トラキアの宮殿や広場のCG描写も上々だ(写真4)。同国での中盤の戦闘の描写も素晴らしい。多数の兵士のCG表現は見慣れているが,この肉弾戦は,どこまでが実写で,どれだけCG/VFX加工しているのか,全く識別できない。ギリシャ,ローマものでお馴染みの二輪馬車(写真5)は,大半は実写で部分的に背景合成だろうが,高速でぐるぐる回転する場面はCGでしか描けまい。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 勿論,いずれもCG/VFXの産物。好い出来だが,今や特筆に値しない。
 
 
 
 
 
写真5 古代二輪馬車の登場場面にも巧みなVFX加工が
(C) 2014 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
 
 
  ■ となるとクライマックスでは,さらなるスペクタクルが予想されたが,期待に違わぬ出来だった。ヘラクレスが大きな彫像を倒し,宮殿を破壊するシーンは大迫力だ。大きな石が転がり落ちる重量感を,見事に出している。フェイク処理だが,3D上映の効果も上々だ。ラストは,とにかく痛快,壮快で,満足感に浸れる。あまり高級感のない作品だが,思い出してみれば,この爽快感,満足感は,プロレス試合のそれだった。
 
 
  意欲作で,ディズニー・アニメの呪縛に立ち向かう  
   もう一方の『美女と野獣』の元はフランスの民話であり,本作もフランス映画である。ところが,予告編やTVスポットでのキャッチコピーは「ラブストーリーの金字塔,待望の実写化」だ。そりゃ,ないでしょう。劇場用実写映画はとっくの昔に作られていて,同国のジャン・コクトー監督による1946年の作品は,映画史に残る名作とされている。2009年にはデヴィッド・リスター監督による豪州映画も製作されている。それを「待望の実写化」とするのは,最初から「著名なディズニー・アニメにあやかり,その実写版を作ってみました」と公言しているようなものではないか。
 実際『美女と野獣』(91)は,しばし低迷していたディズニー・アニメ復活の起爆剤となった記念碑的作品であり,『アラジン』(92)『ライオン・キング』(94)と続く3作品はアニメ史に残る名作であった。セルビデオも売上げ記録を更新するヒットとなり,劇場版も2002年にIMAX化,2010年に3D化されている。このアニメ映画を元にした舞台ミュージカルも成功を収め,劇団四季が演じているのも,その日本語版である。
 ここまでくると知名度が高い名作アニメに対して,どう対抗しようかと考えるのも無理はない。当然の帰結として,物語のディズニー流の翻案部分は廃し,18世紀のヴィルヌーヴ夫人による民話原典に近い脚本になっているようだ。監督は『ジェヴォーダンの獣』(02年2月号)のクリストフ・ガンズ。主演の野獣役には,同作にも起用されていたヴァンサン・カッセル。当時はまだ若手俳優だったが,今やフランス映画界のNo.1スターで,まさにこの野獣役にはピッタリだ。
 ヒロインのベル役は,『マリー・アントワネットに別れをつげて』(12年12月号)の レア・セドゥ。当欄で紹介する作品にしばしば登場する個性的な美女だが,このベル役の演技には,少々違和感を覚えた。もう少し可憐な美女を期待していたのに,自己主張の強い,やや激しい性格のベルに描かれている。そのことに違和感を覚えること自体が,観る側も思わずディズニー・プリンセスを期待していたと言えなくもない。
 既にCG/VFX活用作品を経験している監督だけあって,冒頭の大嵐のシーン(写真6),嵐の後の港の描写(写真7)を含め,CG/VFXの利用は全編に及ぶ。最大のポイントは,魔女に呪いをかけられ,野獣と化した王子の顔だ。特殊メイクでもかぶり物でもなく,CGモデルをFacial Captureで表情をつける最近の技術で達成している(写真8)。質感を増すため,毛髪部分は実物をスキャンしたテクスチャーを使っているようだ。まずまずの出来映えだが,『猿の惑星』シリーズほどの自然さはない。少しぎこちないのは,意図的に舞台劇でのマスクの感じを出したかったのだろうか。野獣の顔のデザインも,このライオンに似たルックスは馴染めなかった。これも,ディズニー・アニメやそれを元にしたミュージカルの野獣の印象が強いためだろうか。
 
 
 
 
 
写真6 冒頭は絵本から飛び出した嵐の海の描写から,CG/VFX演出全開
 
 
 
 
 
写真7 嵐の後の港の光景。遠景も含め,細々としたVFX加工がなされている。
 
 
 
 
 
 
 
写真8 野獣の顔は,表情の表現が少し物足りない
 
 
   森の景観,野獣が住む城の外観や館内の様々な部分の描写にもCG/VFXが多用されている(写真9)。有名なボールルームでの2人の舞踏シーンを含め,背景のかなりの部分は,グリーンバックで撮影され,VFX処理されていると考えて良い(写真10)。ただし,CGの質では『ヘラクレス』の方が数段上だと言える。
 
 
 
 
 
 
 
写真9 薔薇に覆われた城の外観もゴシック調の館内も,豪華で威厳に満ちている。美術班の腕の見せ所だ。
 
 
 
 
 
写真10 舞踏会のシーン等,城内の各部屋での演技も大半はグリーンバックで撮影
(C) 2014 ESKWAD - PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION  ACHTE / NEUNTE / ZWOLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH - 120 FILMS
 
 
   それを補って余りあるのが,美術面の健闘だ。実セット,CGセットともに,舞台劇を意識したものだが,随所で,美的センスの良さ,デザインの繊細さを感じた。とりわけ,城内での晩餐の飾り付けは特筆ものだった。セル調アニメじゃ,とてもこれは描けないだろう,フルCGアニメでもここまでの質感は出せないだろうと,言わんばかりの豪華さだ。この点では,ディズニー・アニメの限界を軽くクリアしている。本作の美術担当チームは,さぞかし楽しかっただろうと想像する。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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