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plus E誌 2014年7月号掲載 |
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(C) MMXIII Paramount Pictures Corporation
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オフィシャルサイト[日本語][英語] |
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[6月13日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中] |
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2014年5月19日 TOHOシネマズ梅田別館[完成披露試写会(大阪)]
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(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています。) |
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映像的に少しアンバランスだが,人間ドラマは上質 |
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| わずか数日の差で,先月号で紹介できなかった作品である。旧約聖書の創世記に記述された 「ノアの方舟」伝説を実写映画化した作品だが,本来なら6月号で『ポンペイ』と比較対照して語りたかったところだ。
人間の罪深き所業を嘆いた神が大洪水を引き起こし,そのお告げを受けたノアが方舟を作る。この舟に乗り込んだ彼の家族と動物達だけが生き残ったという物語は,誰もが一度は聞いたことがあるはずだ。アダムとイヴ,カインとアベルに続く話だから,ほとんど神話である。一方,イタリア南部の都市ポンペイが火山の爆発で埋没したのは約2千年前のことで,こちらは堂々たる史実だ。既に遺跡として発掘され,世界遺産にもなっていることは先月号で述べた。いずれも日本人には馴染みは薄く,西洋の古代に起きた天変地異なので,似たようなものだと思えるかも知れないが,史実と伝説では,全くリアリティが違う。そもそも大洪水当時のノアは,推定500〜600歳というから,物語の忠実な再現を真面目に考えるような対象ではない。ただし,ノアの方舟が辿り着いたアララト山はトルコ共和国東部に実在するそうなので,大洪水自体はあったのかも知れない。
本作の監督は,『レスラー』(08)『ブラック・スワン』(11年5月号)のダーレン・アロノフスキー。彼が10年以上前から暖めていた企画で,製作・脚本も担当している。主人公のノア役のラッセル・クロウと,その妻ナーマ役のジェニファー・コネリーは,『ビューティフル・マインド』(01)でも夫婦役を演じた2人だ。繊細な次男のハム役は『パーシー・ジャクソン』シリーズのローガン・ラーマン,家族の運命を握る養女イラ役は『ハリー・ポッター』シリーズでハーマイオニーを演じたエマ・ワトソンというのも,『ウォールフラワー』(12)で共演したばかりの2人だ。本作でのE・ワトソンの存在感は抜群だ(写真1)。R・クロウを向こうに回して一歩も譲らぬ堂々たる演技は,将来どれだけの大女優になるのか楽しみだ。
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写真1 あのハーマイオニーちゃんももう24歳。本作では出産も。
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| 欧米では公開直後から,拡大された旧約聖書の解釈を巡って,賛否両論で評価が分かれている。宗教上の理由から,上映禁止となった国もあるという。元は旧約聖書でわずか数ページ程度の記述に過ぎない。これを138分の映画にした以上は,独自の解釈が入るのは当然ではないか。宗教観は人それぞれだと思うが,荒唐無稽な神話レベルの話を,従来の解釈と違うと言って目くじら立てる方が,滑稽にすら思える。ユダヤ教にもキリスト教にも興味のない筆者は,純粋に映画だけを評価した場合,家族内の葛藤を描いた良質のドラマだと思う。
ドラマとしては上質と評価しつつも,本作の映像表現は,あまり好きになれなかった。ビジュアルセンスは良いのに,男女の安直なラブストーリーしか描けなかった『ポンペイ』とは,全く逆のパターンだ。CG/VFXのクオリティ以前に,元の美術デザインのセンスが感心しない。最大の違和感は,聖書に基づき忠実に再現したという方舟の材質と形状である。過去に観た絵画やイラストでは,もう少し船らしい形をしていたが,これではまるで櫓か筏だ(写真2)。3階建ての構造,寸法的にも聖書での記載通りだとしても,あまりに素っ気ない。せめてこの方舟が組み上がる様を,もっと魅力的な形で見せて欲しかった。一方,この方舟に乗り込む各一対の動物たちの表現はまずまず合格点だが(写真3),その後,この動物たちが殆ど登場せず,存在感が希薄だった。
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写真3 方舟に向かう種々の動物たちの大行進。この数には圧倒される。
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| 神が意図した大洪水は,大雨によってもたらされるのかと思ったが,地中から湧き出してくるのに驚いた(写真4)。この大洪水で進水し,荒れ狂う海に方舟が漂流する様は,映像的には最も迫力があった(写真5)。『パーフェクト ストーム』(00年8月号)以来,営々として波や嵐の表現を改善してきたILM ゆえの本領発揮である。
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| その半面,エデンの園で,アダムとイヴが遭遇する「禁断の実」やイヴを誘惑する蛇は,今一つ気品がなく安っぽい(写真6)。大洪水の予兆を示す鳥の群れは迫力があるかと思えば(写真7),ノアが放つ鳩の飛び方は少し不自然で滑稽だった(写真8)。岩男の巨人はまるでトランスフォーマー風に変化するかと思えば,ノアたちが住む岩場の土地はあまりに殺風景だ(写真9)。誰も知らない創世記での光景とはいえ,ここまで荒廃した場所だったのだろうか。
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写真7 不吉な鳥の大群の描写はしっかり描かれていた
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写真8 一瞬,この映画はジョン・ウー監督作品であったかと錯覚(笑)
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写真9 誰も知らない創世記とはいえ,これはちょっと手抜きでは?
(C) MMXIII Paramount Pictures Corporation and Regency Entertainment (USA) Inc. All Rights Reserved.
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| 要するに,個々のシーンのCG/VFXは高度な技術を駆使し,品質的にも悪くないのだが,映画ならではのワクワク感がなく,映像の基本デザインがアンバランスなのである。映像表現に関して少し辛口の論評になってしまったが,人間ドラマとして高水準であるだけに,少しもったいない気がした次第である。
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(画像はO plus E掲載分を一部入替え,追加しています) |
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