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O plus E誌 2000年8月号掲載
 
 
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『パーフェクト ストーム』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
(C)2000 Warner Bros. All Rights Reserved
       
      (7/10 東宝東和試写室)  
         
     
  大嵐が主役のCG大作  
   各作品に評点をつけ始めて以来,しばしば頭を悩ませている。当然,他の映画評よりもSFX技術を重視しているが,読者の目を気にすると純粋な作品としての出来栄えが浮上してくる。『タイタニック』『トイ・ストーリー2』のように両方とも素晴らしいと苦労はないが,なかなかそうも行かない。今夏の話題大作『パーフェクト ストーム』は,その悩ましい一作だ。
 気象史上類いまれなる大嵐をILMが渾身のCGIパワーをもって描いた大作として,早くから注目を集めていた。アメリカでは,5月下旬のメモリアル・デイに続く夏映画のピーク,独立記念日休暇に満を持して公開された。前評判ではメル・ギブソン主演の『パトリオット』の方が評価が高く,互角の勝負かと予想されたが,ダブルスコア近い大差で本作品がNo.1ヒットとなった。やはりこういう大スペクタクル作品は,まず見ておかなくてはとの心理が働くのだろう。
 全米公開は6月30日で,日本公開予定は7月29日。この間が短く,来月号では遅いので,編集部に締め切りを遅らせてもらって試写会に駆けつけた。結果は予想通りというか,大味な作品で,評価に困ってしまった。視覚効果は文句なしのだが,作品としてはよくてレベルである。SFX映画時評としてはもっと高い評価をと思いながらも,やはりしか付けられなかった。
 1991年10月米国東部を襲った特大級の嵐の中での漁船の遭難と沿岸警備隊の救助活動が描かれている。お天気キャスターの森田さんの解説によると,南からのハリケーンと北西の寒冷高気圧と北東の爆弾低気圧の3つが偶然にも激突し,気象学の常識を超えた大嵐を引き起こしたそうだ。その嵐を描くために膨大なコストがかかっている。
 監督は,『U・ボート』『ザ・シークレット・サービス』『エアフォース・ワン』のウォルフガング・ペーターゼン。主演の船長役は『ER 救急救命室』『ピースメーカー』のジョージ・クルーニー。共演のマーク・ウォークバーク,ダイアン・レイン以下,脇役陣も悪くない。それでいて,どうしても大嵐の前に演出もかすんでしまったようだ。
 パニック映画としては『大地震』『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』『バック・ドラフト』の系列に属し,CG利用という点では竜巻の『ツイスター』,火山噴火の『ダンテズ・ピーク』の延長線といえるだろう。『ツイスター』よりはややましだが,視覚効果に力が入りすぎている点は同じだ。人間贅沢なもので,これだけのスペクタクルはハリウッドでしか作れないのだが,それを当たり前のように思ってついつい厳しい評価をしてしまう。
 ILMからものすごい額の請求書が届いたというだけあって,この水や嵐の処理はまたまたCG映画史に新たな1ページを加えた(写真)。ミニチュアは一切使っていないというから,漁船もヨットも巡視船も救援ヘリも,全て実物かCGのいずれかである。公式ホームページ(http://www.perfectstorm.net/)には,メイキング情報も豊富に載っている。ヘリや漁船の位置を綿密に事前計算した後で,嵐が書き込まれているようだ。映画自体はそう楽しめなかったが,SFX教本としてはじっくり分析する価値のある大作だ。
 
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イメージスケッチ CGで描いた代表的シーン
写真 高さ30mの大波とアンドレア・ゲイル号
(C)2000 Warner Bros. All Rights Reserved
  実話に縛られなきゃ良かった  
 
話題だから一度見ておきたいけど,それだけの映画ですね。この嵐を描きたいためだけに作られたという感じです。
一応,人間模様も描いてあるけど,前半と後半がくっきり分かれてましたね。
後半の嵐が長すぎて,バランスが悪いです。
ストーリーがイマイチなのは,実話の制約に縛られたからでしょう。嵐そのものは史実でも,登場人物は虚構でもっと自由自在な物語にすればよかったのにと思います。
『タイタニック』みたいにですか。
そうですね。今さらながらに『タイタニック』の偉大さが分かりますね(笑)。
同じジェームス・ホーナーだけあって,音楽は似ていました。緊迫したシーンでの音の使い方はそっくりです。
波や嵐の迫力は如何でしたか?
最初は少し嘘っぽいCGの海が気になりますが,大嵐になってからは慣れてしまいましたね。
ロングショットはフルCGでしょうが,船上のライブアクションの背景の海や,ヘリと周りの嵐も巧みな合成技術の賜物だと思います。ただ,私などは,大きくうねる波の下に何やらワイヤーフレームが浮かんでしまいました(笑)。
職業病ですね(笑)。波の形を計算で作っておいて,テクスチャを貼り付けているんですね。
そんな単純じゃないと思いますよ。もっとも,ほとんど誰もこの真っ只中にいなかったから,どこまで本物らしいか分かりませんね。
来年のアカデミー視覚効果賞はこれで決まりですか?
今のところディズニーの『ダイナソー』といい勝負みたいですね。最近の傾向だと,いくら分量的にすごくても,それまでの延長線上にある技術よりも,目新しい技術を使った作品が受賞してますね。
まだこれから伏兵が出てきそうということですね。
でも,この『パーフェクト ストーム』のVFXが凄いことには違いありません。今年のSIGGRAPHではこの映画のメイキングの特別セッションがあるので,来月号ではそれを聞いてきて補足することにしましょう。
 
   
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