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O plus E誌 2013年12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『悪の法則』:巨匠リドリー・スコットが『プロメテウス』(12)でアンドロイド役に起用したマイケル・ファスベンダーを,本作では主役の弁護士役に据え,結婚相手にペネロペ・クルス,友人のカップルにハビエル・バルデムとキャメロン・ディアス,さらにブラッド・ピットまで加わるという超豪華競演陣だ。加えて,『ノーカントリー』(07)の原作者コーマック・マッカーシーのオリジナル脚本で,麻薬取引の裏社会の掟に翻弄される男女達の心理サスペンスとなると,期待も膨らんだ。そこで,俳優たちの一挙手一投足,セリフの隅々まで注意深く追ったのだが,あまり感情移入できなかった。M・ファスベンダーの繊細な演技,C・ディアスの怪演ぶりは見ものだが,豪華キャスト過ぎて,各俳優の個性を引き出せていない。監督が脚本家に気を遣って,不自然な脚本に手を入れられなかったのだろうか。いかに悪の権化の裏社会とはいえ,ロクに事情も調べずにこんな報復に走るのか,本作の設定自体にも疑問を感じた。
 ■『くじけないで』:90歳を過ぎて詩を書き始め,98歳で詩集を自費出版,今年101歳で天寿を全うした柴田トヨさんを,82歳の八千草薫が演じる。主演女優の最高齢記録だそうだ。多分に便乗商法という感もするが,松竹らしい,のんびり,ほのぼのとしたヒューマンドラマに仕立てている。監督・脚本は,俊英の深川栄洋。2冊の薄い詩集を128分の映画に作り上げた力量は大したものだ。特に何ということない素人の詩で,格別劇的でもない人生を送った一老女の詩集が大ベストセラーになるのは,人々が何かを感じ,それぞれ何か勇気づけられるものがあるからだろう。映画もまた同様だ。それにしても,総計200万部と聞くと,思わず100歳超の老女が残した印税の額を考えてしまうのは,筆者の品性のなさだろうか。印税はともかく,90歳を超えての挑戦心に感心し,私も中断している著作を早く完成させなくてはと,奮い立たされた。
 ■『ウォールフラワー』:原作は,米国での青春小説の大ベストセラーだそうだ。主演の男女は,『パーシー・ジャクソン…』シリーズのローガン・ラーマンと『ハリー・ポッター』シリーズでハーマイオニーを演じたエマ・ワトソン。フツーの高校生で,2人とも魔法は使わない(笑)。どう観ても,女性が格上で不釣り合いだと思ったら,実年齢は彼女が2歳年上で,作中も全く同じ年齢差だった。それなら納得できる名キャスティングだ。思春期の悩みや恋のウキウキ感,少し秘密もあって,バランスがいい。脚本・監督は原作者のスティーブン・チョボスキーで,繊細なタッチの描写に監督としての才能も感じられる。随所で文学や音楽への言及があり,日本アカデミー賞受賞作『桐島,部活やめるってよ』(12) より,知的レベルはだいぶ上だ。この差は,現代日本の学校教育が荒廃している証しだろうか?
 ■『すべては君に逢えたから』:クリスマスを控えた冬の物語で,男女10人が織りなす6つの愛のエピソードから構成されている。オムニバス形式ではなく,6組に少し接点を持たせながら,1つの映画に収めているが,構成は複雑ではない。これまでにも類似企画は多々あったが,2014年に開業100周年を迎える東京駅が舞台というのがウリだ。物語は平凡だが,東京駅のライトアップや街のクリスマス・イルミネーションが美しい。監督は,松竹社員の本木克英。大作でない中規模の映画をさらりと撮るのが上手い。エンディングで倖せな気分になれるのも嬉しい。ただし,遠距離恋愛の対象が仙台で,東北新幹線が頻出するのは,やっぱり野暮だ。いくらJR東日本の全面支援とはいえ,49年前の悲恋と組合せるなら,ここはやはり東海道新幹線だろう。
 ■『かぐや姫の物語』:日本アニメ界の巨匠・高畑勲監督14年ぶりの作品というだけで,大きな話題を呼んでいる。言うまでもなく,題材は日本人なら誰もが知っている「竹取物語」だ。画調は純和風,水彩画タッチで,その素晴らしさだけで圧倒されてしまう。まさに動く絵本だ。特に,映画冒頭からかぐや姫が都に上るまでの田園風景が絶賛に値する。日頃,表現力では3D-CGに勝るものはないと主張する当欄だが,この絵の芸術性には脱帽するしかない。物語にも見事にマッチしている。久石譲の音楽も上品だ。ただし,これが通用するのは数年に1作程度であって,日常この種のアニメを見せられたのでは,かったるくて逃げ出したくなってしまうだろう。語り口の分かりやすさは,同じスタジオ・ジブリの宮崎作品の難解さ(独りよがり?)へのアンチテーゼかと思わせるほどだ。さすがに「物語の祖」と言われるだけあって,原作には長編映画化するだけの素材が詰まっている。それを環境保護や現代風のラブストーリーもまじえて,老若男女が楽しめる作品に仕上げている。原作の解釈を巡っての論評は数々出ているので,当欄では避けておこう。注目に値する良い映画だと思うが,最大の欠点は2時間17分という長さだ。もう30分短く,終盤のテンポが速いと,もっと素晴らしい作品だったのにと惜しまれる。
 ■『キャプテン・フィリップス』:海賊に狙われ,人質として拉致されたコンテナ船船長の救出作戦を描いた絶品だ。素直に面白い。潜水艦ものに似た緊迫感で,134分の長尺が短く感じるほどである。2009年にソマリアで起きた実際の事件に基づいているので,船長の生還は分かっているのだが,それでも緊張の連続だ。監督は,『ボーン』シリーズのポール・グリーングラス。『ユナイテッド93』(06)でも見せてくれたように,リアリズムを重視した演出が見事だ。本物のソマリア人の素人を雇い,演技をつけたというが,これぞ映画だ。全編で出ずっぱりの船長を演じるトム・ハンクスを,改めて名優だと感じてしまう。救出に向かう海軍特殊部隊ネイビーシールズが実にカッコいい。米国のプロパガンダの一環だと分かっていても,やはり拍手を送りたくなる。
 ■『あさ・ひる・ばん』:『釣りバカ日誌』シリーズの原作者,やまさき十三が72歳にして監督デビューというのがウリだ。中年男3人組が織りなす人情コメディーで,松竹が新シリーズに育て上げたいという意図がミエミエだ。面白ければそれでも構わないが,主人公たちにそれだけの魅力がない。國村隼,板尾創路,山寺宏一はそれぞれ芸達者だが,3人併せてもシリーズの主演という感じはしない。國村隼だけが老け過ぎているのも気になる。恩師役の西田敏行がずっと脇を固めてサポートさせるつもりだろうが,果たして続編が登場するのかが分かれ目だ。『男はつらいよ』『釣りバカ日誌』の両シリーズともに,最初はさほど興行的には成功していなかったので,めげずに,徐々にシリーズものの魅力を出して行って欲しいと思う。
 ■『鑑定士と顔のない依頼人』:イタリア好きもミステリー・ファンも唸らせる極上の逸品だ。それもそのはず,『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)のジュゼッペ・トルナトーレ監督がエンニオ・モリコーネの音楽に乗せて描く映画だもの。天才美術鑑定士の主人公(ジェフリー・ラッシュ)が,謎の女性依頼人と激しい恋に落ちる。オークション・シーンも彼が収集した数々の名画の迫力も圧倒的だ。財も名声も得た偏屈な老人が若い美女の心まで掴むとは,何と羨ましい! と嘆息をついたところが……。彼がすべてを振り返るラスト数分間の音楽がことさら素晴らしい。しっかり張り巡らされた伏線を再確認するのに,もう一度観たくなること必定だ。
 ■『ファイア by ルブタン』:幻想的なストリップショーを見せるパリの高級ナイトクラブを描いたドキュメンタリー作品『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』(12年8月号) を覚えておられるだろうか?ダンサーのお尻に当たった水玉模様のスポットライトに魅せられて,思わず☆☆☆を付けてしまった。著名シューズ・デザイナーのクリスチャン・ルブタンが演出し,同クラブで80日間限定で上演されたショー「FIRE」を,広いスタジオを使って再現した映画が本作である。撮影は『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(12年3月号) のチームが担当している。同作品は難解そのものだったが,本作は官能的に素直に受け容れられる。ただし,観客層によって注視箇所が相当違うようだ。ルブタン・ブランドを知る若い女性達は華麗なシューズを食い入るように見つめるが,男性熟年層はすらりと延びた脚の上にある部分や胸に目が行ってしまう。劇場での公開時の観客はどちらが多いのだろう?
 ■『プレーンズ』:ディズニー / ピクサー作品でも,『カーズ』シリーズは総帥ジョン・ラセターが自ら監督を務めた思い入れのあるCGアニメだ。その世界観をそのまま生かし,擬人化した登場キャラをクルマから飛行機に変えた新作が登場した。即ち,操縦席前のフロントガラスに目を描き,機首プロペラ下に口を描いて表情を作る手法である。主人公のダスティは,農薬散布機で高所恐怖症というから,言わば非エリートの落ちこぼれキャラである。彼が仲間たちに支えられ,世界一周レースに参加し奮闘する姿は,まさに少年少女向けの物語だ(少し子供っぽ過ぎるの意)。友人や観客に車キャラも登場するが,そこにマックィーンやメーターの姿はない。酷評した『カーズ2』(11)[Webページのみで,当誌非掲載]と同様,映像的には悪くないが,騒々しく,創造性に欠ける気がした。エンドロールまで観終ってようやく気がついたのだが,本作はピクサー作品ではなく,ディズニートゥーン・スタジオ製だった。
 
  (上記のうち,『かぐや姫の物語』はO plus E誌に非掲載です)  
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