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O plus E誌 2014年8月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『2つ目の窓』:『萌の朱雀』(97)でカンヌのカメラドール,『殯の森』(07)でグランプリを受賞した河瀬直美監督の新作だ。自らのルーツである奄美大島を舞台に,自然との共存,生と死をテーマに,16歳の少年少女の初恋と成長を描く。当然,3度目の出品のカンヌを目一杯意識した作品である。その審査員の目以外は眼中にないと言ってもいいくらいだ。およそエンタメとは程遠い表現であることは承知していたが,語り口はかったるく,この監督の作品でなければ,途中で投げ出したかも知れない。独特の死生観をメッセージとして受け取るとしても,情報量的には尺の半分以下だ。もっと感性的な側面から評価するとしても,この監督が好きか嫌いかに分かれると思う。ただし,台風直撃下の暴風雨の撮影は見事だし,ラストの水中シーンの男女も美しい。
 『るろうに剣心 京都大火編』: 洋画資本で製作された邦画の時代劇,コミックが原作で,若手人気俳優が主演とくれば,あまり期待しなかったのだが,前作はその斬新なアクション感覚に脱帽し,絶賛した。期待の続編は,2作目,3作目の同時制作,連続公開の形で登場した。当然,相当パワーアップしての続編だと予想したが,期待に違わず,セットは豪華,衣装は奇抜,ワイヤー・アクションもCG/VFXもしっかり見せ場として使われていて,抜かりない。相変わらず,どの剣戟アクションも,それを捉えるカメラワークも秀逸だ。佐藤健と神木隆之介の殺陣は若手同志と思えぬ巧みさだし,田中泯と伊勢谷友介の戦いは実に見応えがある。ともかく,全編たっぷり楽しめて,後編が待ち遠しい。では何故最高点評価でないのかと言えば,もっと面白くなりそうな3作目につける評点がなくなるので,ここは少し控えただけだ。強いて欠点を探せば,人切り抜刀斎の後輩で,敵役の志々雄真実を演じる藤原竜也が,あまりこの役に似合っていなかったことくらいだろうか。
 『サンシャイン/歌声が響く街』:英国製の人気ミュージカルの映画化作品である。スコットランドの田舎街リースが舞台というのが少し珍しい。結婚25周年を迎えた夫婦と軍隊生活から戻った子供たちが織りなす物語に対して,挿入曲はすべて同地出身のバンドThe Proclaimersが1980年代後半にヒットさせた楽曲を利用している。「スコットランドのマンマミーア」と言われる所以だ。当然ながら,挿入曲はどれも佳作で,筆者は今この映画のサントラ盤にハマっている。ただし,全編を彩る人生賛歌,スコットランドの美しい映像,それぞれは素晴らしいのだが,その組合せが良くないなと感じた。舞台ミュージカルとは異なり,映像中心に物語を展開させようとすると,そこから強引に歌に入る瞬間が少し不自然に感じてしまう。歌唱力中心のキャスティングのためか,主要登場人物達があまり美男美女でないのが残念だ。それでも,ラスト近く,オールキャストが広場で歌い踊るシーンは圧巻であり,感激ものだ。やはり,ミュージカルはいいなと感じる瞬間だ。
 『ぼくを探しに』:監督は『イリュージョニスト』(10)等を長編アニメ部門のオスカー候補に送り込んだフランス人のシルヴァン・ショメ。これが初の長編実写映画だ。宣伝筋は,『アメリ』 (01)のプロデューサー,C・オサールが手がけた作品だということもウリにしている。なるほど,個性的な人物達が登場するエスプリの利いた物語や,赤と緑が基調の映像も似ている。両親を失ったショックで言葉を失った青年ポール(ギョーム・グイ)が主人公で,全く無言で,表情だけの演技は印象的だ。もっと強烈な印象を与えるのが,同じアパートに住む不思議な女性マダム・プルースト(アンヌ・ル・ニ)だ。風貌も役柄も,この映画を一度観たら忘れ得ぬ存在となるだろう。『アメリ』ほど幸せな気分になれないが,マダムのくれたハーブティがポールの幼児期の記憶を甦らせる展開は,ミステリータッチでワクワクした。
 『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』:とんでもないスケールの映画だ。中国映画史上最高の製作費32億円を投じただけあって,40以上というセットの大きさも装飾も凄まじい。CG/VFXも1,000カット以上あることだろう(その種の画像が提供されないのでメイン欄で書けなかった)。それでいて,全編でチープ感が漂っている。一応,時代は西暦665年,唐朝末期の出来事で,10万人の水軍を全滅させた海の神・龍王の正体を探るという設定だが,ストーリー展開は何でもありのチャンコ鍋風の映画だと言えようか。いや,場末の中華料理店で,食材は一級,味付けはデタラメなフルコースを振る舞われた感じだ。見どころを選ぶのにも困るが,花魁役のアンジェラベイビー(楊穎)の美貌が一際輝いていた。男優陣もイケメン揃いだが,男性観客なら彼女の美形振りを観るだけでも入場料分の価値はある。
 『バトルフロント』: 製作・脚本は,シルベスター・スタローン。まもなく70歳だというのに,今なお現役で精力的な映画出演を続けているが,本作では自ら主演せず,『エクスペンダブルズ』シリーズの僚友J・ステイサムを起用してきた。亡妻の故郷に移り住み,娘を育てつつ,静かな生活を送ろうとする元麻薬潜入捜査官という役柄だ。この田舎町を支配する麻薬密売人の企みに巻き込まれるや,目茶苦茶強い主人公ぶりを発揮する。さすが,大根役者スタローンの屈託のない素朴な脚本は,絶頂期のアクション・スター,J・ステイサムを得て盤石だ。ステイサム側から言えば,前作『ハミングバード』(14年6月号)の役柄は少し異色で,本作の方がハマリ役で安心感がある。全編田舎町の中だけでの出来事に終始し,世界制覇の陰謀を阻止する訳でも,地球滅亡の危機を救う訳でもない。悪役側も,ネコ一匹殺さないレベルだが,それでいて緊張感の連続で,痛快この上ない。映画史には何の足跡も残さないが,観客を入場料分堪能させてくれるのは,こういう映画だ。
 『ホットロード』:原作は紡木たく作の少女漫画で,1980年代後半に連載された不朽の名作だそうだ。勿論,筆者は未見である。母から愛されず,孤独な生活を送る14歳の少女が,暴走族の不良少年との恋に落ち,愛に目覚め,命の大切さを知るという展開だ。主演は,NHK連続テレビ小説「あまちゃん」でブレイクした能年玲奈。果たして,本作で彼女が「脱あまちゃん」に成功するかが最大の話題だ。とても中学生には見えないが,演技自体は悪くない。結構才能はあり,色々な役柄をこなして,実力派女優に成長する可能性大と見て取れた。物語は特に何ということのないラブストーリーだが,先月号の『好きっていいなよ。』よりも感情移入できたのは,80年代の若者たち(中高生)の話だったからだろうか。筆者の娘・息子の年代である。
 
   
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