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O plus E誌 2006年9月号掲載
 
 
グエムル ー漢江の怪物ー
(角川ヘラルド映画配給)
 
         
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [9月2日より有楽町スバル座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2006年7月18日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  怪獣映画にしては力作だが,評価が分かれるだろう  
 

 題名通り,韓国製の怪獣映画だ。「漢江(ハンガン)」とはソウル市内を南北に分けて流れる大河で,市民の憩いの場でもある。そこに棲息し始めた怪獣が主役で,市民を恐怖に陥れる。たった一匹で全編主役を張るから,大きな存在ではある。
 要するに,怪獣主役のパニック・ムービーなのだが,カンヌ映画祭出展作で絶賛を受けたと聞くと,少し見る目が変わって来る。単純な怪獣娯楽映画と見るか,人間ドラマと見るかで,評価は分かれるところだろう。なるほど,人間模様の描写は克明で,韓国の風俗,家族の絆もよく描かれている。主人公が営む河川敷での売店の描写などは克明で,ある意味で感心する。それでも怪獣映画は怪獣映画止まりであり,それ以上のヒューマンドラマを期待し過ぎると少し空振りに終わる。
 怪物誕生の背景は,科学者のエゴによる,ふとした不始末が原因だが,この設定は平板で工夫がない。この怪獣には可愛げがなく,『ゴジラ』のような親しみや滑稽さはない。民衆に与える恐怖心をという点では『ジョーズ』を意識し,醜悪さでは『エイリアン』も念頭においたというが,筆者には『サラマンダー』(03年5月号)が最も近い作品と映る。
 監督は弱冠36歳のポン・ジュノ。韓国期待の星らしい。主演は『シュリ』(99)『JSA』(00)のソン・ガンホ。韓国映画界の顔だが,最近の韓流ブームでは美男美女ものばかりが輸入されるので,すっかり忘れていた。その父親役のピョン・ヒボン,妹役のペ・ドゥナ,怪獣にさらわれる娘役のコ・アソン,いずれも個性あるいい俳優で好演している。
 怪獣のデザインは『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のWETAワークショップであることをウリにしているが,VFXのほとんどはThe Orphanage社が担当した。最近の技術をもってすれば,この怪獣のCG表現は特筆するに値しないが,全編を通じて登場するこの分量はなかなかのものだ。モデリングは一度で済むが,動きは全シーンで個々にしっかりつける必要がある。見慣れているうちに,本当に生きているかのように錯覚しがちだから,全編手抜きなく描写しているということだ。
 何よりも残念なのは,この怪物の姿はメインスチル写真のバックにボヤけて登場するだけで,全くその姿を事前公開しないことだ。露出せずに興味を引こうという配給会社の方針らしいが,出し惜しみし過ぎだ。そこまで驚愕,感心するほどのものでもないじゃないか。

 
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