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O plus E誌 2014年1月号掲載
 
 
2D版
3D版
ウォーキング with ダイナソー』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2013 Twentieth Century Fox
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月20日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2D字幕版 2013年12月5日  20世紀フォックス試写室(東京)
3D吹替版 2013年12年15日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  BBC EARTHチーム製作による素晴らしい映像だが…  
  この映画の表題だけを聞いた時の第一印象は,「えっ!? あの名作の素晴らしいシリーズ名を,軽々しくパクるのか……」であった。当然,恐竜が多数出てくる映画で,CGはフル稼働しているに違いない。これまでに恐竜映画は何本もあったし,2015年公開が予定されている『ジュラシック・パーク新3部作』(英題は『Jurassic World』になるようだ)も待ち遠しい。であれば,同じ題で,最新技術を駆使したリメイク作を期待してもよさそうなのに,そうは思わなかった。
 それには,少し理由がある。1999年に製作された『Walking with Dinosaurs』は映画ではなく,英国BBCで放映された30分番組6回分であった。本邦では『驚異の恐竜王国』の名で,テレビ朝日系列で放映されていた。約40種類の恐竜が登場する科学ドキュメンタリーで,映像のクオリティの高さにも,それだけの製作費をかけるBBCの見識の高さにも感激した。筆者は全6巻+メイキング1巻のVHSビデオを購入し,メイキング映像は何度も繰返して観た。その思い入れのある作品だったのである。今改めて調べてみると,英仏米日の共同製作というから,日本も参加していたらしい。
 そうした感情的反発の後に,本作が当のBBC製作であることを知った。しかも,『ディープ・ブルー』(03)『アース』(2008年1月号)『ライフ -いのちをつなぐ物語-』(2011年9月号)等の良質のネイチャー・ドキュメンタリーを輩出してきたBBC EARTHフィルムズと聞けば,現金なもので,反発が大いなる期待に変わった。加えて,ジェームズ・キャメロン監督率いるキャメロン・ペース・グループの3D撮影技術を全面的に利用したという。最近のメジャー系CG大作では,2D→3D変換のフェイク3Dのオンパレードであるだけに,リアル3Dならでは素晴らしさをどこまで描き出しているかも大いに楽しみであった。
 前述のBBC EARTHシリーズを手がけてきたニール・ナイチンゲールと,『ムーラン』(98)『アーサー・クリスマスの大冒険』(11)のバリー・クックが共同監督を務めている。即ち,単なるドキュメンタリーではなく,しっかりとした物語をもたせ,ファミリー映画として企画されているということだ。
 約46億年の地球の歴史の内,恐竜の棲息期間は約2億年と言われているが,本作の時代設定は白亜紀の末期で,今から約7,000万年前である。勿論,人間は登場しない。舞台となるのはアラスカで,実際の映像は当のアラスカ各地の他に,ニュージーランドの大自然の中でも撮影された。まさにBBC EARTHならではの素晴らしい自然風景の中に,豪州のアニマル・ロジック社が制作したCG製の恐竜が配されている(写真1)。このいずれもが素晴らしい。同じ恐竜もので,ディズニーの『ダイナソー』(00年12月号)を公開当時は「現在のCGの最高峰」と評したが,勿論,13年前の表現力からは格段に進化している。恐竜の皮膚の精緻さは,驚くほどだ。
 
 
 
 
 
写真1 実写の大自然に高画質のCGが見事にマッチ
 
 
  アニマル・ロジック社は,あの『マトリックス』(99年9月号)のCGで一躍有名になったVFXスタジオだが,フルCGアニメの『ハッピー・フィート』(07年3月号)でオスカーを得る等,動物キャラの質感や動き表現には輝かしい実績をもっている。本作でも,数々の新しいレンダリング手法を開発して,実にリアルな映像を生み出している(写真2)。会社名までが,まさに本作にうってつけのスタジオだ。
 
 
 
 
 
写真2 多頭数の動きや砂塵の描写もハイレベル
 
 
  様々な恐竜が登場するが,主人公は草食恐竜のパキリノサウルス(写真3)の家族であり,敵役は獰猛な肉食恐竜のゴルゴサウルス(写真4)である。この恐竜たちが言葉を話し,物語があるのだが,実のところ,これが本作の最大の欠点で,期待外れであった。そのこと自体は『ダイナソー』も同様だったのに,失望感は本作の方が大きい。セリフ自体が騒々しく,折角の大自然とマッチしていない。恐竜がリアル過ぎ,アニメ的な大げさな表情をつけていないので,セリフを語らせるのに適していないと感じた。
 
 
 
 
 
写真3 物語の主役のパキリノサウルス
 
 
 
 
 
写真4 右が獰猛な悪役のゴルゴサウルス
(C) 2013 Twentieth Century Fox
 
 
  BBC EARTHチームに期待したのは,大自然をバックにした良質のドキュメンタリーである。今回と全く同じ映像であっても,恐竜たちのセリフを最小限に抑え,落ち着いた声のナレーションを被せれば,遥かに素晴らしい作品になったのではと思われる。音だけ入替え,改めて作り直してはどうかと提案したい。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
 
 
  付記:3D版は想像以上の高画質,立体感も抜群で,日本語吹替版がオススメ  
  上記のO plus E掲載の本文では,全く3D上映の立体感に関して触れなかった。とにかく締切に間に合わせるため,関西から東京・六本木での試写に出向いたものの,そこで観たのは「2D 字幕版」だったからである。 
 2DであってもCGのクオリティは素晴らしかった。いかにもS3D向けのアングルやキャメラワークが採用されていて,それなりの躍動感はあったのだが,本命は3D版だろうと思わせるものであった。それゆえ,尚更3D版を観たくなった。
 本誌校了後の翌週に,大阪で「3D 日本語吹替版」を観た。3Dの出来映えは,期待を遥かに上回るものだった。絶品である。さすが,キャメロン・ペース・グループの3D撮影技術を全面採用と謳うだけのことはある。2013年公開のメジャー作品の大半は,「2D→3D変換」の「フェイク3D」で,背景の大半がCG描画ならそれでも充分と評価してきたのだが,背景がアラスカやニュージーランドの大自然となれば,事情は違う。これは絶対に「リアル3D」の出番だ。とりわけ,進行役アレックスを追っての,上空からの俯瞰シーンの立体感が素晴らしい。
 CG恐竜の皮膚の質感も,立体視で一段と凄味を増している。皮膚部のポリゴンやテクスチャの解像度は,シーン毎にきちんと計算して差し替えられているのだろうが,各シーンでの合焦面,輻輳角も考慮して陰影を付けているに違いない。劇場内のスクリーンで,偏光メガネを通して観た場合の融像領域までも考慮しているのではないかと思われる。この映画を3Dで観ない手はない。当然,デジタル上映でなるべく大きなスクリーンが良い。加えて言うなら,字幕版より,日本語吹替版の方がオススメだ。日本語字幕に気を取られずに,それだけ映像に集中できるからだ。
 3D映像に対して,それまでの最大級の賛辞を送るのなら,☆☆☆評価ではないのかと言えば,やはり恐竜のセリフの騒々しさで減点せざるを得ない。オリジナルの英語音声も日本語吹替えもその点では五十歩百歩だった。日本語吹替えは改悪にはなっていないが,騒々しさに関しては,オリジナルを踏襲し過ぎだ。
 恐竜ファンの大半は,小学生男子であり,BBC EARTHブランドで映画と同名の「Walking with Dinosaurs」なる恐竜ライブ・ショーを世界中で展開している。それを承知の上でも,この映画の恐竜のセリフはいただけない。もっと重厚な声ならまだしも,何でこんな甲高い幼児的な会話にするのか。子供向けの番組は,こうするのだと決めつけ過ぎているのではないかと思う。残念だ。返す返すも残念だ。
 
   
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