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O plus E誌 2012年8月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』:艶めかしい女性の裸体を扱っているが,これは紛うことなく「芸術」だ。下品でも猥雑でもなく,まさに副題通り「夜の宝石」である。パリの夜の観光地として名高いナイトクラブ「Crazy Horse」のショーそのものが芸術的なのだろうが,それを捉えるドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマンの目はもっと芸術的だと感じる。前衛芸術家フィリップ・ドゥクフレの演出&振付,経営難に悩む総支配人,踊り子たちのオーディション風景など,舞台裏までカメラは描き続けるが,やはり幻想的なショーそのものが最大の魅力だ。極め付けは,ダンサーたちの背面とお尻に当てられた桃色の照明と水玉模様……。その美しさに息を飲む。DVDを購入し,何度もこのシーンを観たくなること必定だ。
 ■『崖っぷちの男』:高層ホテルの窓の外,僅か幅35cmの縁に立ち,今にも自殺しようとする男(サム・ワーシントン)の写真とこの邦題は見事にマッチしている。実は原題の「ledge」は「崖」ではないのだが,人生の瀬戸際,偽装自殺で起死回生の形勢逆転を狙うサスペンスを想像させるのに「崖っぷち」を使ったのだろう。主人公は元NY市警の警察官で,30億円のダイヤモンド横領の罪で服役中に脱走し,なぜか地上60mの現場に現れたという設定である。眼下を見下ろすカメラ・アングルには,思わず脚がすくむ。交渉人役の女性刑事とのやりとりは,類似作品と比べて,さほど面白くなかったが,後半の家族ぐるみのダイヤモンド強奪作戦は見応えがあった。冷酷な敵役にエド・ハリスを起用したのが,最大の成功要因だ。
 ■『ヘルタースケルター』:マスコミ用試写会は毎回超満員で,入場できない人も続出だった。何しろあのお騒がせ女優,沢尻エリカ久々の主演作である。その上,大麻中毒疑惑の週刊誌報道が加わり,無事公開できるのかという話題性までがついたため,否が応でも関心が高まっていた。岡崎京子原作の人気コミックの映画化作品で,『さくらん』(07)でデビューした写真家・蜷川実花の監督第2作である。全身に整形を施し,「目と耳とアソコ以外は全部作りもの」の美人女優という設定は,何やら,前々号の『私が,生きる肌』(12年6月号)を思い出す。ただし,サスペンス度では負けていても,主演女優の輝き度では断然勝っていた。感情の起伏が激しい,我が侭放題のこの主人公「りりこ」は,演技など不要で,エリカ様の地のままではと思わせる。助演陣は,寺島しのぶ,桃井かおり,原田美枝子といった芸達者だが,彼女らの存在が霞む,エリカ様の怪演だった。彼女の人生のこの瞬間でしか実現できなかったと感じた。
 ■『ローマ法王の休日』:誰もがあの名作のパロディだと分かるノーテンキな題だが,新ローマ法王(教皇)に選ばれた枢機卿が,その重圧に耐えかねて,ヴァチカンを抜け出してしまう。ローマの街で人々と交流し,人生のつかの間の休息を楽しむ,というからこの邦題でもいいかなと思ったのだが,テーマはまるで違っていた。ヴァチカン内部の室内もコンクラーヴェの様子も克明に描かれていて,その点でも十分楽しめる。ところが,誰もが予想する大団円とは全く違う結末が待っていた。そりゃないよ,監督さん。批評家は賛否両論で,ヴァチカンからは抗議の声だというが,私はヴァチカン側を支持したい。と最初は思ったのだが,本稿執筆に当たり,信仰と教会の存在意義に問題提起する監督の姿勢としては,これも有りかなと思い始めた次第だ。
 ■『かぞくのくに』:監督・脚本は,在日朝鮮人のヤン・ヨンヒ(梁英姫)。2本のドキュメンタリーに続いて,これが初の長編劇映画である。テーマは,1970年代の帰国事業で北朝鮮移住した兄が,病気治療のため,25年ぶりに日本に一時帰国するのを迎え入れる妹とその家族の想いを描いている。自身の体験に基づく脚本ゆえに,物語や人物設定にリアリティがあり,1人ずつがよく描けている。監督の想いを渾身の演技で受け止める主演女優は安藤サクラで,改めて彼女の演技力に感心した。兄ソンホ役のARATA改め井浦新,北から同行した監視員役のヤン・イクチュンとの呼吸も抜群だ。素直に観れば,改めて北朝鮮への怒りが込み上げてくるし,当時この国を「地上の楽園」のように報道した左傾マスコミに憤りを感じる。その政治的メッセージを割り引いたとしても,かなりの良作だが,願わくばもう少し明るいエンディングが欲しかった。
 ■『桐島,部活やめるってよ』:題名だけで,中学校か高校が舞台で,青春群像劇だと分かる。原作は,小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウのデビュー作で,既にコミック版も登場している。人気者の男子生徒,バレー部主将の桐島君が突然部活をやめたことから,野球部,バドミントン部,ソフトボール部,吹奏楽部,映画部の同級生にも波紋が広がり,人間関係が微妙に変化する様子が生き生きと描かれている。(大人から見れば,平和そのものだが)高校生は高校生なりに,悩みがあるものだと感心する。日頃,大学生の生態を眺めている筆者も,この映画での高校生の会話にはついて行けなかった。目を惹いたのは,『告白』(10)の橋本愛と『SAYURI』(05)の大後寿々花だ。どの世代から見ても,美少女はいいものだ。続編を作るなら,これだけの注目の的となった桐島君をしっかり見せて欲しいものだ。
 ■『テイク・ディス・ワルツ』:こちらは,予備知識なしでも,映画の冒頭15分を観ただけで,女性監督の作品だなと分かる。主人公は,結婚5年目で仲の良い夫がありながら,出張先で知り合った情熱的な青年に想いを寄せてしまう28歳の人妻で,次第に心を奪われていく様子を,女性ならではの脚本・演出で描いている。主演は,『マリリン 7日間の恋』(11)のミシェル・ウィリアムズ。同じ道ならぬ恋ながら,M・モンロー役の後だけに,素顔でとても素朴な感じがしてしまう。女性観客は素直に彼女に感情移入すればいいが,男性観客は新しい恋人なのか,妻に裏切られて激しく動揺する夫なのか,いずれの視点で観るべきかを迷ってしまう。そんな男女の愛憎劇にとどめを指すのは,義姉の口を借りた強烈な一言だ。女優・サラ・ポーリーの演出家としての才能を感じる監督第2作である。
 
   
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