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O plus E誌 2006年8月号掲載
 
 
ユナイテッド93
(ユニバーサル映画 /UIP配給)
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [8月12日よりみゆき座ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2006年7月4日 UIP試写室(大阪)   
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  全編にみなぎる緊迫感,実話の重みが胸を打つ  
 

 フライト名だとは分かっても,この題名だけから何の映画か想像できる人は極めて少ないだろう。9.11同時多発テロでハイジャックされた4機は,AAが2機,UAが2機だったが,一番最後にピッツバーグ郊外に墜落激突して全員死亡したあの飛行機である。
 まもなく5年になるが,あの衝撃の日には,人それぞれに想い出があるに違いない。筆者の場合は,米国出張が突然数日早まって,この前々日の日曜日(9/9)に帰国していた。当初の予定通りだったならば,同時間帯にはオーランドから乗り換え地点のダラスに向けての機中だったはずだ。どこかに強制着陸さされていたか,無事到着しても日本には帰れず,ダラス-フォトワース空港近くのホテルに1週間缶詰めになっていたに違いない。
 そして9.11当日の惨事は,翌月ニューヨーク,ワシントンDC,ピッツバーグと巡る出張計画を立て,フライトもホテルも予約し終えて帰宅した直後にテレビで観た。2機目の突入以降は実時間進行で,テレビの前を動けなかった。アメリカの知人との電子メール交信では,「United States is under attack!」の衝撃で皆動揺しているのが実感できた。テロ発生の場所・順序と見事に一致した海外出張は当然取り止めになった。それゆえに,WTCやペンタゴンへの突入ばかりが注目される中で,なぜ残る1つがピッツバーグ郊外だったのだろうかと気になって,その報道にはずっと注目していた。
 事件後間もない頃には,空軍戦闘機によるハイジャック機の撃墜が噂された。やがて,機内電話機や携帯電話からの家族への電話の内容が報道され,次第に乗客達によるテロリスト達への反撃が伝わってきた。そして,ワシントンDCへの突入が目的であったのが未遂に終わり途中で墜落・爆発したことが判明した。突入ターゲットにはホワイトハウス説も強かったが,今では国会議事堂であったとされている。この映画は,目標地への到達を阻止した4機目のボーイング757型機の物語である。
 監督・脚本は,『ボーン・スプレマシー』(04)のポール・グリーングラス。英国人でドキュメンタリー出身だけあって,ケレンのない展開の中での緊迫感の描写が絶妙だ。一方,この映画には著名な俳優は登場しない。乗客・乗員44名1人ずつにきちんとキャスティングされているが,知らない名前ばかりだ。見知った顔が出て来れば,それだけ嘘っぽく見えるからだろう。その半面,機長,副操縦士には本物のパイロットが出演し,客室乗務員役にも実際の乗務員経験のある女優が選ばれた。その行動は徹底してリアルであり,「信じられる真実」の描写は徹底している。テロリスト4人のアラブ人も,いかにもそれらしい風貌だ。
 この映画の上映時間は1時間51分。約30分遅れで離陸したUA93便の墜落までの飛行時間は1時間21分だから,ほぼ実時間進行での時間経過を追う。前半は当該機の模様よりも,先の3機のハイジャック情報で混乱するボストン,ニューヨークの航空管制センターの緊張と錯綜ぶりを克明に描く。続いて,連邦航空局(FAA),クリーブランドの管制室,米空軍基地の様子も加わる(写真1)。航空管制官は激務だとは聞いていたが,その業務形態の描写の迫力に驚く。克明な記録が残されているから,徹底的にその極限状態を再現したのだろうが,まさに一見に値する映画とはこのことだ。それもそのはずで,エンドロールには"as himself"が10数名も並んでいる。FAAのベン・スライニー司令官はじめ,各地の管制官が自分自身の9.11を再現しているのだ。

 
     
 
写真1 航空管制センターのシーンは極めてリアルだ。多数の司令官や管制官が自分の役で登場する。
 
 
     
 

 それに比べると,ハイジャック発生から墜落までの機内の様子は,ややドラマ性に欠けるように感じられる。いや,ここに劇的な展開を期待する方が間違っている。残されている事実は,家族や知人に向けられた電話交信だけであり,機内で何が起きていたかの再現は想像の域に過ぎない。過度の劇的な描写は,事件遭遇者に対して不遜というべきだろう。結末は分かっているが,その最後の瞬間に向かっての緊迫感は凄まじい。
 さて,この映画のVFXはというと……。しまった,映画に熱中するあまり,チェックし忘れていた。テロリストが操縦するUA93便が,乗客の抵抗でコントロールを失い,ペンシルベニア州シャンクスヴィルに墜落するが,その直前に操縦席の窓から見える光景は明らかにデジタル合成による視覚効果だ。フライトレコーダーの記録から再現されているに違いない。VFXの担当は,Double Negative社の数十人だから,他にももっとあったのだろうが気がつかなかった。この映画は観賞はそれで十分だ。

 
 
          
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