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O plus E誌 2013年10月号掲載
 
 
エリジウム』
(トライスター・ピク
チャーズ/SPE配給)
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月20日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2013年8月14日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  メジャーデビュー作の描写は,一段と過激に  
  監督は,新鋭ニール・ブロムカンプ。といってもすぐに分からなければ,南ア共和国の出身で,ヨハネスブルグの貧民窟を舞台に,宇宙人到来を描いた『第9地区』(10年3月号)の,あの監督である。当欄でも「新しい才能を感じる異色のSFムービー」と大絶賛した。この長編デビュー作が,いきなり作品賞を含むアカデミー賞4部門にノミネートされ,注目を集めた。そのご褒美か,第2作目は堂々たるハリウッド・メジャー作品で,製作費も前作の3倍の9千万ドルとのことだ。
 表題は,まるで元素名のように思えるが,周期律表にこんな元素はない。地球上にないだけでなく,宇宙の彼方の異星にも存在しない。その代わりに,宇宙空間に浮かぶスペースコロニーの名称として使われている。荒廃した地球から逃げ出した富裕層だけが住む理想郷であり,地表から400kmの位置に浮かぶスタンフォード・トーラス型のコロニーという想定である(写真1)。
 
 
 
 
 
写真1 富裕層が住む400km上空のスペースコロニー
 
 
  時代は,今から約150年後の22世紀半ばで,地球は環境汚染と人口増加でスラム化し,警備ロボットに管理されるディストピアになっている(写真2)。一方の理想郷「エリジウム」には,超富裕層だけが移り住み,あらゆる病気を治療できる医療ポッドが備わっている。最近こうした「格差社会」を取り上げる映画が多い。
 
 
 
 
 
写真2 貧民層が住むのは環境汚染で荒廃した地球上
 
 
  ちょっと復習しておこう。『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)『オブリビオン』(13年6月号)も似たような設定だったが,地球上にはもはや人影はなく,ロボットやクローンだけが残されていた。貧困層と富裕層の分離という点では,リメイクされた『トータル・リコール』(12年9月号)と先月号の『アップサイドダウン 重力の恋人』が記憶に新しい。前者では,地球上の裏側に住む貧困層の労働者たちが,毎日富裕層の地区に通勤していた。とても手の届かないユートピア側に主人公が潜入するという点では,本作は後者に近い。「格差社会」の描写を際立たせ,虐げられた貧困層の反撃を描くのは,監督が南ア出身のせいもあるのだろうが,同時に米国に内在する医療格差を皮肉っているとも受け取れる。
 主演のマット・デイモンは,孤児院出身でLAの工場で働く労働者で,大量の放射線を浴び,余命5日間と宣告される男マックスを演じる。ヒロインは,幼なじみで看護師のフレイで,『シティ・オブ・ゴッド』(02)のアリス・ブラガが演じている。可憐な美女だが,こうした貧民層の役柄にぴったりだと言ったら失礼だろうか。助演陣では,エリジウムを管理する強面の女性防衛長官役のジョディ・フォスターが貫録の演技を見せ,前作『第9地区』で人のいい主人公を演じたシャールト・コプリーが,一転本作では,敵役クルーガーとして登場する。
 一躍メジャー作品で監督の意気込みも3倍増したのか,あまりに激しい描写に,欧米では観客の評価は賛否両論のようだが,当欄にとっては,いくつも見どころのある作品であった。以下,CG/VFXの要点である。
 ■ 理想郷「エリジウム」は冒頭で少し登場するだけで,あとは荒廃した地球上の描写が延々と続く。マックスの働く工場,警備ロボット,その他の部分でもVFXの出番は多い。前作に続き,この監督は貧民層の描写に卓越している。設備や装飾から,貧困層の生活形態に至るまで,観るに値すると言っておこう。
 ■ 一方のエリジウムの描写は中盤以降にしっかりと登場する。スタンフォード・トーラスというのは,昔から宇宙ステーションの描写で登場するドーナツ型の居住区だが,本作では,幅3km,直径60kmのリング空間に90万人が暮らすという設定だ。ここにビルや植物等を描いたビジュアルは,SF映画史上に残る描写である(写真3)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 リング状のコロニーを,人が日常住む住宅地のように描き込んでいる
 
 
 
  ■ 近未来の機器類でも注目すべきは,マックスが装着するパワースーツだ。アイアンマンのようなロボット形状のスーツではなく,外骨格(Exoskeleton)と言われるタイプだ(写真4)。マット・デイモンが着用するものはWeta Workshopが製作したというが,何も着けない状態での演技をCGでオーグメントしたシーンもあるようだ。その他のロボットの動きは,ほぼすべてMoCapデータをCGモデルに喰わせたものと思われる(写真5)。もう1つ,医療ポッドのCG/VFX描写にも注目だ。もっとも,こんな凄いシステムを全人類に開放したのでは,地球上の人口問題はさらに深刻になるはずだが……。
 
 
 
 
 
写真4 これが外骨格タイプのパワースーツ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真5 各種ロボットの動きは,ほぼすべてMoCap表現だろう
 
 
 
  ■ 後半のバトルは凄まじく,ここでもCG/VFXのオンパレードだ(写真6)。夏の大作を何本も観てきた目には,正直言って,食傷気味である。勇んで作った2作目とはいえ,ここまでのボリュームが要るのか大いに疑わしい。物語としての評価は☆☆止まりだが,上記の素晴らしいビジュアルで,☆半分オマケである。
 
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写真6 最初から最後まで,CG/VFXシーンがどっさり
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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