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O plus E誌 2001年4月号掲載
 
 
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『ハンニバル』
(ユニバーサル映画&MGM映画
/ギャガ-ヒューマックス配給)
 
       
      (2001/3/1 新宿ミラノ座(完成披露試写会))  
         
     
  最も待ち遠しかったこの一作  
 21世紀最初のメガヒット。生まれるべくして生まれたヒット作品だ。2月9日からの北米オープニング3日間の興行収入は5,801万ドル(約60億円)。『ロストワールド/ジュラシックパーク』(98)『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(99)に続く歴代第3位,2月公開作品,R指定作品の第1位だという。
 言うまでもなく,アカデミー賞を主要5部門を制覇した10年前の大ヒット『羊たちの沈黙』(91)の続編で,超佳作の作家トマス・ハリスの11年振りの小説の映画化である。4位『M:I-2』(00),5位『トイ・ストーリー2』(99)まで,いずれもヒット作の続編だから,まさに方程式通りのヒット企画だ。
 主演のハンニバル・レクター博士は前作同様,この役でアカデミー主演男優賞に輝くアンソニー・ホプキンス卿。対するクラリス・スターリング捜査官は,ジョディ・フォスターが降板表明したが,『ブギーナイツ』(97)『ことの終わり』(99)と2度オスカーにノミネートされた演技派のジュリアン・ムーアが名乗りを上げた。監督はジョナサン・デミから,本年度アカデミー賞11部門ノミネートを果たした『グラディエーター』(00)のリドリー・スコットにバトンタッチとくれば,映画界で話題にならない方が不思議だ(写真1)。
 筆者の場合,昨年『ボーン・コレクター』(00)を評した折,比較のためサイコサスペンスの原点『羊たちの沈黙』をビデオでじっくり見て,10年前に途中で挫折した原作小説も味わって読了した。そこに『ハンニバル』の新潮文庫版上下2冊が出版され,これも一気に読んでしまった。加えて,『グラディエーター』で久々に巨匠リドリー・スコットの腕のほどに感心した時点で,そのクルーがそっくり『ハンニバル』の撮影に入った聞いたから,胸が踊った。CGでしか描けないクライマックスがどう料理されているのか,この1年足らずで,最も待ち遠しかった映画である。
 同様なファンが世界中に何百万人,いや何千万といるに違いない。原作は,日本だけで180万部を売ったというから,その半分近くは映画館に足を運ぶことだろう。それだけでも大ヒットだ。前評判,人気というのはこうして煽るのだいうお手本のような映画化である。
 設定は,クラリスがレクター博士のヒントで連続殺人鬼バッファロー・ビル事件を解決してから10年目。ベテラン捜査官に成長したクラリスは,麻薬犯逮捕事件でマスコミの非難を浴び,FBI内部で窮地に立たされている。そこへ逃亡中の殺人鬼レクター博士から1通の手紙が届く「クラリス,今も羊たちの悲鳴が聞こえるか…?」
 この手紙にしみ込んだ香料を手懸かりに,イタリアのフィレンツェでカッポーニ宮の司書として潜伏中のレクター博士を見つけ出し,復讐を果たさんとするのは,レクター博士のために顔の皮膚を失った大富豪のメイソン・ヴァージャー。クラリスを囮りに捕らえられたレクター博士を待ち受けていた恐怖の復讐方法とは…。ハンニバル・レクター絶体絶命の危機に,単独で救出に向かい傷ついたクラリスの運命は…。というのが,大ベストセラーの骨子である。
 
写真1 リドリー・スコット監督(左)と新クラリス役のジュリアン・ムーア 写真2 ヴェッキオ橋とハンニバル・レクター
 
VFXは期待外れ
 原作を読んでいる時は,フィレンツェの地図と首っ引きだった。もっと明るいフィレンツェの街を目に浮かべていたが,この映画は陰の使い方に凝っていて,思っていたより暗めだった。テンポの速い語り口だが,もう少しじっくり古都フィレンツェの景観を楽しませてくれても良かったかと思う。それでも,シニョーリア広場やヴェッキオ橋は教養豊かなレクター博士には似つかわしいし(写真2),黄昏のアルノ川はことさら美しかった。イタリア好きにはたまらないだろう。
 原作にはない,クラリスとレクター博士の携帯電話での会話は粋な脚色だし,野外オペラのシーンも素晴らしい。ヴェッキオ宮殿でのパッツイ刑事の殺害シーンもみせてくれる。さすがリドリー・スコットの映像だ。撮影も衣装も音楽も『グラディエーター』のチーム担当だが,特にハンス・ジマーの音楽がいい。
 本題のVFXはというと,全編通してたった35カット。分量的には本欄で取り上げるほどではない。写真3の晩餐会に続く衝撃のシーンは,ネタバレになるので書くわけに行かないが,CGでしか表現できないだろうと想像したシーンは,まごうことなく等身大の人形とCGIの組み合わせのVFXで描かれていた。ただし,驚くほどの出来ではなく,他のシーンの映像に負けている。『キャスト・アウェイ』の嵐のVFXシーンが映画に重みを加えていたのとは対照的だ。これだけの映画なら,もっと驚くべきクオリティと斬新なアングルでのショットを見せて欲しかった。
 VFX担当は『グラディエーター』と同様,英国のMill Films社。どうも,このVFXスタジオの視覚効果を,筆者はあまり高く評価できない。好みが合わないのだろうか。『グラディエーター』のVFXにも辛い点をつけたのだが(2000年7月号),本年度アカデミー視覚効果賞にノミネートされてしまった。
 ちなみに,本年度の視覚効果部門もノミネートはたった3作品。他の2本は『パーフェクト ストーム』『インビジブル』で,これは順当なところだ。どうして『ダイナソー』がノミネートされないのか理解に苦しむが,本号が出る前に最優秀賞が決っている。
 
写真3 この後に衝撃のシーンが続く問題の晩餐会 写真4 やっぱり,クラリスはジョディ・フォスターで見たかった.
 
原作を凌ぐエンディング
 華麗なる殺人鬼ハンニバル・レクターは,まさにアンソニー・ホプキンスの当たり役だ。何本でも見たくなる。。トマス・ハリスにもっと書いてもらいたいものだ。ジュリアン・ムーアのスターリング捜査官も悪くはない。それでも,ファンの大半は,やはりジョディ・フォスターで見たかったはずだ(写真4)。
 全体として原作に忠実だが,随所でどうだこっちの方がいいだろうと語りかけてくるかのようだ。特にエンディングは,原作よりもずっと秀逸だ。ベストセラーを読んだ観客を十二分に意識しているので,映画だけの観客には少し消化不良を起こすかも知れない。レクター博士がスーパーマン過ぎて,原作にあるレクターの危機,ヴァージャーの凄みが余り伝わってこないという指摘もあるが,とにかくコクのある映画だ。
 で,ここまで褒めて,どうしてでないのかといえば……。詰まらなくはない。VFXの減点のせいだけではないが,うまく説明できない。
 前から行きたかった評判のレストラン。やっと念願が叶って席につき,味も雰囲気も悪くはない。一品ごとにシェフの腕には感心するのだが,全体として何となく日本人の口に合わない西洋料理,といった感じなのである。この味は,純イタリアンでもフレンチでもなく,エスニックでもない。そうだ,ハンニバル・レクター博士が調理したあのXXXの味なのだ!
 
   
   
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