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O plus E誌 2000年10月号掲載
 
 
star purasu
『インビジブル』
(コロンビア映画/SPE配給)
 
       
      (SPE試写室00/8/25)  
         
     
  売りはビジュアライズ・シーン  
   SFの父H・Gウェルズの映画化をはじめ,10数作品に及ぶ透明人間ものの最新作である。本編のSIGGRAPH 2000報告でも触れたように,画期的な人体内部のCG描写でSFX映画史上に名を残すことだろう。
 視覚効果の中では,背景の差替えやワイヤー消しなど,特殊効果であることを意識させない用法を「インビジブル・イフェクト」と呼ぶ。皮肉にも,この映画は体内の可視化(visualization)がウリになっている。本作品の原題は『Hollow Man』(空洞の男)で,透明人間がラバーマスクを着けたとき,目や口の開口部から中が空であることが見えるシーンで,この原題の感じが出ていた。
 監督は,『ロボコップ』(87)『トータル・リコール』(90)『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)の鬼才ポール・バーホーベン。ハリウッドでも名うてのSFX通だが,鬼才の鬼才たる所以で,素直に面白い映画を作ることには興味はないようだ。
 天才科学者セバスチャン・ケイン(ケビン・ベ−コン)は,国家機密プロジェクトで人体を透明化する血清の発明を目指しているが,功名心から自らを実験台とする。透明状態にはなったものの復元に成功せず,精神にも異常をきたし,犯罪行為を繰り返した上に,元恋人で研究助手のリンダ(エリザベス・シュー)やチームのメンバーを皆殺しにしようとする。といった設定であるが,凡庸なストーリーにも演出にも語るべきものはない。
 一方,SFX/CGは語り尽くせないほど見事だ。SFXの主担当は,Sony Pictures Imageworks とTippet Studioの2社である。透明状態になるには,皮膚,筋肉,血管,骨の順に見えなくなるのだが,人体内部のモデリングは当然その逆順で多層化されている。『パーフェクト ストーム』が最新の流体力学,海洋科学に基づいているのに対して,こちらは解剖学や人体生理学を勉強した上でSFXに取り組んでいる。筋肉の収縮,脂肪の付き具合はもちろん,体液に光がどう反射するかまで研究しているのである。SIGGRAPH 2000では,メイキング情報が詳細に語られたが,この映画も博士号が2,3件とれそうな迫力だった。
 透明化が成功して行く様を順に見せるのかと思ったら,映画では,既に透明状態のゴリラが復元する可視化プロセスを先に登場させた。血管の一部が見え始め,これが全身に及び,ボリューム・レンダリングで描かれた心臓が見え始めるシーンは,ただただ素晴らしく美しい。プールの中や蒸気を浴びてうっすら半透明に見えるセバスチャンの動きも見事だ.筆者がアカデミー会員なら,迷わず最優秀視覚効果賞に選ぶところだが,今年度はレベルが高くライバルも多い。今から,半年後のオスカー発表が楽しみだ。
 
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  フルボデイのCG人間の演技は必見  
 
またまたCG関係者必見で,その他の人は見なくてもいいです,という映画ですね(笑)。『ミッション・トゥ・マーズ』や『パーフェクト ストーム』といい勝負ですか。
ここまでの技術を駆使しながら,なんでこんなに詰まらない映画を作っちゃうんだろうなぁ。したり顔の評論家や映画通が,まるでSFXが悪者であるかのように語るのが想像できますね(笑)。フランケンシュタインやドラキュラものは沢山あるんだから,もうちょっとマシな描き方しろよと言いたくなります。
テンポは悪くなく,ワクワクして観てたんですが,後味はいい方ではないですね。
愚痴ってても仕方ないので,後はせっせとCG,SFXを褒めましょう(笑)。
想像していたほどは,身体が透けて筋肉が見えるショットは多くないのですが,印象的でした(写真1)。理屈の上ではCGと分かっているのに,まるでケビン・ベーコンがメイクアップで演じているように見えました。
彼の身体に格子を描いて一度演技させ,それをフルボディCGで1つずつ置き換えていったとのことです。
モーションキャプチャは使ってないんですか?
それじゃ表層的な動きしか表現できないといって,完全主義者の監督は許さなかったそうです。ラバーマスクの下は本人ですが,蒸気の中や水中で半透明に見える姿はすべてフルCG人間でしょう(写真2)。この部分は,ティペット・スタジオの担当です。
水状の人間は『アビス』(89)と同じみたいですが,進歩してるんですか?
 
写真1 筋肉が見える人体はSPI社担当写真2 こちらはティペット・スタジオ担当
えーっ,何と素人目には同じですか!? 『アビス』では,クネクネ蛇のように筒が動いて,その先頭に少し顔が出てくるだけです。この映画の透明人間は,全身が自然に動いてるんですよ。これは,フルボディが3Dモデリングされていて,それを骨や筋肉レベルで動かせる技術で表現しているんです。回りの水の動きも,モーション・コントロール・カメラを完全に水中に入れて何度も撮影し,それを合成するCG透明人間と調和させているんです。
解剖学的にもキッチリ考えてあるんだという感じはしました。
『パーフェクト ストーム』は嵐のシーンが映画の大半だから,計算量はものすごかったでしょうが,レンダリングにかかるまでの準備という点では,この映画も同等かそれ以上の綿密さで臨んでいます。ショット数が多くなくても,ここまで徹底的にやるのは,フルボディのCGタレントを作り上げるまでの練習段階と考えているからでしょう。ここで技術を磨いておくのは,未来への投資なんです。
なるほど,それは感じられますね。ここまで来ると,少しメイクアップした役柄なら,もうすぐCGタレントで務まりますね。
ということで,このSFX映画時評の読者なら,観ずに済ますわけに行かない映画でしょう。
 
   
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