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O plus E誌 2001年3月号掲載
 
 
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『キャスト・アウェイ』
(ドリームワークス映画&20世紀フォックス映画/UIP配給)
 
(c) 2000 Twentieth Century Fox and DreamWorks L.L.C. All rights reserved.
       
      (2001/1/19 20世紀フォックス試写室)  
         
     
   20世紀最後のクリスマス休暇の公開作品。国民的俳優トム・ハンクスと『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)でアカデミー賞をとったロバート・ゼメキス監督の組み合わせの再現で,ヒロインはこれまた『恋愛小説家』(1997)でアカデミー主演女優賞に輝いたヘレン・ハント。彼女は,最近『ぺイ・フォワード/可能の王国』『ハート・オブ・ウーマン』と立て続けに主演作品が公開されている。そんな豪華メンバーの共演で前評判も高く,クリスマス休暇らしく心温まる話とあって,たちまち興収2億ドルに達するヒット作品となった。
 とはいえ,無人島に漂着した主人公が生き延びる現代のロビンソン・クルーソー物語なので,途中延々とトム・ハンクス1人だけが登場するシーンが続く。ヘレン・ハントの出番は少ししかない。それでいて,2時間24分の長さを感じさせないストーリー展開が見事だ。この映画にも,「そこまでやるか…」と感じる点がいくつもあった。それを1つずつ掘り下げみよう。
 
 
そこまでやるか(その1):トム・ハンクスの減量
 この映画のため,トム・ハンクスは25kg減量したという。一旦太っておいてから落としたとはいえ,25kgというのはスゴイ。『マトリックス』(1999)のキアヌ・リーブス,『ハリケーン』(1999)のデンゼル・ワシントンの痩せぶりも印象に残ったが,この映画はそのコントラストを強烈に描いてある。
 無人島へ漂着後,もう何ヶ月か経っているはずなのに,一向に痩せないのは少し不自然だった。それだけに,4年経ったというシチュエーションでの変身ぶりには驚いた(写真1)。職業とはいえ,ここまでのことを強いられるのでは俳優も大変だ。
 爽やかでご清潔な優等生役ばかりを演じるトム・ハンクスは,余り好きな俳優ではない。ただし,その彼1人だけの登場場面が,これだけ長く続く映画も珍しい。この試写会の前後は何かと忙しく,彼が昨年度のゴールデングローブ賞(ドラマ部門)を受賞したことは知らなかった。その先入観なしで見ても,味のあるいい演技だっだ。過酷な減量のあと目つきも険しくなっていたというから,見る側が感情移入してしまうのも当然だ。
 
写真1 トム・ハンクスの減量前と減量後
TM and (c) 2000 Twentieth Century Fox and DreamWorks L.L.C. All rights reserved.
 
そこまでやるか(その2):徹底した分かりやすさ
 時間順を追う語り口は,まるで小学生の絵日記風だ。僕は仕事一筋のビジネスマンでした。会社の飛行機で移動中,嵐に会い南太平洋に不時着しました。無人島に流れ着きました。そこで苦労して1人で生き延びました。筏を組み立て沖へ出て,タンカーに救助されました。帰ってみると,恋人は僕が死んだものと思い,別の人と結婚していて,子供までいました。という調子で,極めて分かりやすい。
 アメリカ南部が映るとそこにプレスリーの「ハートブレーク・ホテル」「恋にしびれて」が流れる。メンフィスだと言いたいらしい。次にロシアを表すのに「赤の広場」を映して「ポルシュカポーレ」。再びメンフィスに戻り,プレスリーの「ブルー・クリスマス」で季節を告げる。そこまで説明してくれなくても分かるよと言いたくなる。恋人に去られた後,またプレスリーの「心の届かぬラブレター」がかかっていたから,ここまで来ると監督の好みとしか言いようがない(実は,筆者もこの時代の懐メロが大好きなのだが)。
 この幼稚とも言える分かりやすさと物語の進行は,R・ゼメキス監督の計算だろう。シナリオ順に撮影した挙句に,途中1年間のブランクを置いた。これは映画界にとっては異例中の異例だ。時間経過と無人島での試練を出演者にもスタッフにも伝えたかったようだ。この試みは成功している。分かりやすくスローでいて,観客の1人1人が何かを感じ始める。音楽もうるさくなく,効果的に使われている。
 
そこまでやるか(その3):FedEx社の描き方
 主人公は国際宅配便FedExのVステムエンジニアという想定だが,辟易するくらいにFedExのマーク,宅配便の箱が登場する。さぞかし高額のスポンサー料を取ったことだろう。それにしても凄すぎる。テレビCMでも,企業のPRビデオでもここまでは露出させない。
 アメリカ版飛脚の心と言わんがばかりの顧客対応の心得から,オーナーの演説までが挿入されている。何気ないシーンの紙ナプキンからマグカップにまでFedExマークがアップで映されるのには,いい加減にしろよと感じた。それでいて,メンフィスのスーパーハブに専用ジャンボ機がずらっと並んだ様は壮観だった。これもアメリカだ。
 もう1社スポーツ用品のウィルソン社のバレーボールも重要な役割を果たしている。名前が何度も連呼されるから,これも相当なスポンサー料をもらったのだろう。
 
脇役でいて効果的なVFX
 ハイテクを知り尽くしているゼメキス監督だから,この映画でどんなSFX/VFXを見せてくれるかと思ったが,予想よりも控えめで,それでいて効果的だった。
 FedEx社の専用機にトラブルが発生し,洋上に墜落するシーンの迫力が素晴らしい。異常発生,ダッチロール,不時着,エンジンの爆発炎上,嵐の海の漂流,無人島への漂着……。ここの矢継ぎ早の展開は,SFX/VFXのオンパレードだ。嵐の海の使い方は『パーフェクト ストーム』よりも数段うまい。てっきりILMの仕事かと思ったが,SPI(Sony Pictures Imageworks)が担当していた。元ILM社のケン・ラルストンは,『フォレスト・ガンプ/一期一会』『コンタクト』でもゼメキス監督と組んだスーパバイザで,腕も一流だ。SPI社社長としてこの作品に臨んだから,その意欲もひしひしと感じられた。
 SPI社100数十名の名があったから,他の部分でも目立たないようにVFX使われていたに違いない。筏が海で遭遇する大波はどうだろう? これは本物としか見えないが,細部はディジタル加工してあるのかも知れない。トム・ハンクスのアップの部分はスタジオ内撮影だろうが,その繋ぎ目の処理が上手い。VFXは脇役だが,この映画の幅を拡げていることは確かである。
 
目と目が合った2人
 R・ゼメキスは観客の心を掴むのが巧みだ。1年間の中断中に撮った『ホワット・ライズ・ビニース』でヒチコック流のスリラーを描いて見せるかと思えば,こうした余韻を残す作品も手掛ける。単調に見せて,部分的にはミステリー・タッチを採用している。流れついた廃材,自殺テスト用の人形,エンゼルの羽根のついた宅配便……,何だと思わせてさりげなく種明かしをしている。
 救出されたあとの話は付け足しかと思ったが,この後半こそ見せ場だった。空虚なホテルの部屋,盛大な歓迎パーティ,浅薄な文明に人は何かを感じずにはいられない。恋人だったケリーとの雨の別れのシーンも切なく悲しい。名場面の1つとして記憶されることだろう。
 ラストも思わせぶりだ。この分かりやすさの中で,押しつけがましくなく,観客それぞれに何かを感じさせる腕。いやー,ゼメキスは上手い。
 この映画を見終わった後,前列にいた白髪の男性と目が合った。お互い何か言いたそうになったが,口に出さずに余韻に浸っていた。試写室を出てトイレでもう一度顔を会わせた。連れションしながら今度は思わず声をかけた。「結構よかったですね」「ウン,うまいねぇ」「ええ」。ニュースキャスターの筑紫哲也氏である。お互い通じ合ったような気がしたが,筑紫さんが褒めたのはトム・ハンクスかゼメキス監督か(写真2),どちらのことだったのだろう?
   
     
 
写真2 うまいのはどちら?(左がゼメキス監督)
TM and (c) 2000 Twentieth Century Fox and DreamWorks L.L.C. All rights reserved.
 
   
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