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O plus E誌 2012年11月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『エクスペンダブルズ2』:S・スタローンがアクション・スターを集めて作った傭兵部隊「消耗品軍団」の第2作目だ。前作は単に派手な銃撃戦の騒音だけで,当欄は「何の感動も感激もない」と酷評したのだが,これが世界中で結構ヒットした。となると,続編にはかなり製作費をかけることができ,ロケにも撮影機材にも贅沢できるようだ。娯楽作として許せる水準に達してきた。日程の都合で,本作にミッキー・ロークは登場しないが,敵役でジャン=クロード・ヴァン・ダムが登場し,物語も引き締まった。前作でカメオ出演だったA・シュワルツェネッガー,B・ウィリスも重要な役で登場し,銃撃戦にしっかり参加する。今更こんなロートル・トリオの顔合わせがウリとは,と思いつつも楽しんでしまった。ただし,NHK「思い出のメロディー」で往年の人気歌手のヒット曲を聴く気分だったが……。
 ■『アルゴ』:俳優よりも監督の才能があると絶賛したベン・アフレックの監督第2作である。前作『ザ・タウン』(11年2月号)は銀行襲撃がテーマだったが,本作では1979年イラン革命時の大使館員救出事件を描く。過激派のアメリカ大使館襲撃時に,からくも逃げ出し,カナダ大使私邸に逃げ込んだ6名の救出に際してCIAが選んだのは,何と,SF映画『アルゴ』のロケハンと称した偽装工作だった。このジョークのような作戦が実話で,1996年まで機密扱いされていたのだという。前半はハリウッドの舞台裏を茶化して笑いを誘うが,後半,バザールでのロケハン辺りから緊迫感が増し,終盤の脱出劇の展開は凄い。監督として,確実に演出の才がある。自らCIAエージェント役を主演しながら,出過ぎず,淡々と演じているのもいい。エンドロールに流れる当時の映像と比較して,大使館襲撃時の様子を見事に再現していることもよく分かる。
 ■『高地戦』:韓国映画で,朝鮮戦争における南北境界の高地争奪戦を描いている。監督はチャン・フン,主演はシン・ハギュンとコ・ス。北との戦いをテーマにした韓国映画は感情過多で,敵意むき出しのことが多いが,この映画は客観的描写に徹し,人物設定にもセリフの節々にも好感がもてる。戦闘シーンの描写もリアルだ。歴史考証もしっかりしているようで,1950年代の朝鮮半島と戦闘の模様がよく分かる。露骨な反戦映画ではないが,すぐに奪い返せる頂上の奪い合いや停戦成立後12時間以内の最後の攻防で,大勢の兵士が戦死して行く馬鹿馬鹿しさに,改めて南北分断への静かな恨みが感じられる。「戦争映画の新たな地平を開く」というキャッチコピーは,あながち誇大広告ではない。
 ■『危険なメソッド』:精神医学分野で独自の分析心理学を確立したC・G・ユングと彼が師事したS・フロイトの2大学者に加え,ユングの患者で愛人となったザビーナ・シュピールラインとの愛憎劇を描いた文芸作品である。今売り出し中のマイケル・ファスベンダーに,ヴィゴ・モーテンセン,キーラ・ナイトレイの豪華俳優陣の演技合戦を演出したのは,鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督だ。いきなり観ても,物語は難解ではないが,素直に入り込めない精神医学の世界だから,少し彼らの精神分析学の概要を予習しておいた方が理解しやすい。キーラ・ナイトレイは,この種の上流階級の女性を演じると一段と輝く。ただし,もともと彼らの理論などいい加減なもので,限られた社会の限られた階級だけを対象にした似非科学に過ぎないと思っていた筆者は,その仮説の成立過程を再確認した思いだ。
 ■『声をかくす人』:名優ロバート・レッドフォードの『大いなる陰謀』(08年4月号)以来となる監督作品である。リンカーン大統領暗殺に加担したとして,米国初の女性死刑囚となったメアリー・サラット(ロビン・ライト)の裁判と死刑に至る過程を,終始無実を訴えた彼女を救おうとする担当弁護士(ジェームズ・マカヴォイ)の視点で描く。本作では,最初から冤罪であり,政治的理由からの不当な軍事裁判を告発する姿勢が貫かれている。たとえ加担は事実でも,量刑は不当との説が有力なようだが,真実はどうなのだろう? 別掲の『リンカーン/秘密の書』よりも,時代考証は正確であり,1865年当時の社会背景や風景をリアルを描いている。事実上の私刑とも言える絞首刑の場面は,ことさらリアルだ。観賞後に,現存する絞首台の写真と見比べて感慨深かった。世界の警察を任じる大国が,150年前はまだこんなに野蛮な国だったのだ。
 ■『ザ・レイド』:日本で公開されるのは珍しいインドネシア映画である。「ハリウッドも認めた10年に1本のアクション映画」という触れ込みだが,確かに手に汗握る小気味いいバトルで,掛け値なしに面白かった。各国映画祭で話題になったというのも頷ける。話は単純で,麻薬王が住むギャングの巣窟にSWATチームが強制捜査に入り,そこで繰り広げられる銃撃戦,肉弾戦を描いている。同国に伝わる武術「ブンチャック・シラット」の達人たちの戦いだが,正直なところ,カンフーとは何が違うのか,よく分からなかった。それでも,この格闘技の迫力とキレの良さは堪能できる。映画自体のテンポも良く,香港映画の全盛期を彷彿とさせる。この中から,ブルース・リーやジャッキー・チェンのようなスターが出て来るのか,楽しみだ。
 ■『黄金を抱いて翔べ』:渾身の力作である。監督の情熱が映画の出来にストレートに反映されるのは当然だが,熱血漢・井筒和幸監督の場合,時としてその意欲が空回りする。大阪を舞台にした金塊強奪作戦を描いた本作の場合は,彼の入念な準備とパワフルな演出が見事にマッチし,緊迫感溢れるピカレスク・ムービーに仕上がっている。原作は,高村薫のデビュー作であり,日本推理サスペンス大賞受賞作だ。この骨太の原作と懐の深い大阪の街が,井筒監督のパワーをがっちり受け止めたと言えよう。妻夫木聡の悪人演技も様になって来たし,北朝鮮のスパイを演じた「東方神起」のチャンミンも予想以上の好演だった。強いて欠点を言えば,主演の妻夫木聡と浅野忠信は,とても同世代には見えない。ラストの遺体処理も,あんな人目につく場所と時間では,リアリティがなさ過ぎる。
 ■『JAPAN IN A DAY [ジャパン イン ア デイ]』:リドリー&トニー・スコット両監督が製作総指揮で,英題がついているが,純然たる日本映画である。あの東日本大震災から1年後の2012年3月11日をどのように過ごしたか,記録映像の投稿を呼びかけ,世界から「YouTube」に寄せられた約8,000件(計300時間)が,82分に編集されている。多数の投稿映像を編集して1本の映画にした前例には,両監督製作の『LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語』(2010年7月6日公開)がある。フジTVのプロデューサーが,同じ手法で「あの日を忘れない」「あの日を心に刻む」という企画を立て,彼らのプロダクションに製作依頼したものだ。テーマがテーマだけに,この映画を観る全員が「あの日の出来事」を思い出し,何かを感じることだろう。その意味での意義は,十分に達成されていると思う。それでも敢えて言うなら,この種の新メディアを活用した作品は,報じられるほど斬新で,有効なものなのか? 元が素人映像のオンパレードだけに,表現には限界がある。盛り上がりにもかける。同じ手口はそう何度も使えず,飽きられてしまう。訴えたいものがあるなら,プロが制作したドキュメンタリー作品の方がずっと説得力があるし,フィクションであっても良い。実在の映像を見ることを尊ぶなら,自分でYouTubeサイトを次々と眺めていくのが本質ではないかと感じる。
 ■『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』:前衛サーカス・ショーから,今や世界各地で公演する一大エンターテインメント集団となった「シルク・ドゥ・ソレイユ」の魅力を存分に見せてくれる3D映画だ。製作はジェームズ・キャメロンと聞くだけで,その3D映像の迫力は保証付きであり,その期待に違わなかった。田舎町のサーカスを観に来た少女が,空中ブランコの乗りの青年を追って不思議な世界に迷い込む物語仕立てになっているが,ストーリーはなきに等しい。セリフもほとんどない。実質は,ラスベガスの7つの常設ショーを渡り歩く構成で,そのショーの壮大さ,楽しさが満喫できる。この映画は,なるべく大きなスクリーンと高音質のシアターで観るべきだ。ただし,筆者はこの映画に最高点をつけなかった。舞台では見られないアングルからの表情アップまで捉えてくれるが,やはり実際のショーの方が断然いいに決まっている。そう感じると,最早我慢できなくなり,来夏にラスベガスで本物を観てくることにした。舞台と映画は別物とはいえ,最高の賛辞はそちらに取っておきたい訳である。ところが,7つの内「Viva Elvis」は今年8月末で終了してしまい,今は6つしかないという。うーむ,残念。となると,「Viva Elvis」はもう一度この映画で楽しむしかないのか。
 ■『チキンとプラム~あるバイオリン弾き、最後の夢~』:不思議な映画だ。ラブストーリーではあるが,木の下の男女のロマンチックなポスターから,若い男女の恋の成就を期待すると,見事に肩透かしを食う。副題にあるように,これは自殺前の天才音楽家の最後の夢であり,有り得ない空想という意味でのファンタジーである。イラン人女流漫画家マルジャン・サトラピが,自らのコミック作品を実写映画化したもので,愛用のバイオリンを壊されたことから,主人公が自殺を決めたという設定に呆れる。そうと分かれば,その後の8日間の描写が,ユーモアと美的センスに溢れた芸術作品であることに戸惑いはない。当然のことながら,音楽にも凝っていて,まさに通好みの映画だ。ちなみに「チキンとプラム」とは,「鶏肉のプラム煮」のことで,主人公の大好物だそうだが,我々日本人には馴染みがない。
 ■『ドリームハウス』:最新作『007/スカイフォール』が年末公開を控えている6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグだが,ロンドン五輪開会式への女王陛下のエスコートはご愛嬌としても,他作品への出演が多過ぎるのが気になる。もっと007のイメージを大事にして欲しいが,どの役柄も器用にこなすから困ったものだ。本作で共演したレイチェル・ワイズと結婚との報に,どんな夫婦役を演じるのかが衆目の的であり,もう1人の美女ナオミ・ワッツとの関係も気になるところだ。大都会から郊外の屋敷に移り住んだ家族が,次々と奇怪な出来事に遭遇し,その家はかつて夫が妻子を殺した殺人事件の現場だったと判明する……。典型的なサイコ・スリラーで,あまり詳しく書けないのは,それだけの理由があるからだ。通常,この手の驚愕の事実は最後に出て来るものだが,本作では途中で判明する。さて,それからがどうなるか,92分の短尺ながら,コンパクトにまとまっていて無駄がない。
 
  (上記のうち,『JAPAN IN A DAY 』『シルク・ドゥ・ソレイユ3D』はO plus E誌に非掲載です)  
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