待ち遠しかった作品で，ようやく本邦での公開だ。オールドファンなら，この題からは『戦場にかける橋』(57)を思い出し，主題曲「クワイ河マーチ」の口笛のメロディーが聞こえてくるかも知れない。そんな第2次世界大戦時の捕虜収容所を描いたオスカー受賞作品とは無縁で，この映画は児童文学の金字塔とされるキャサリン・パターソンのファンタジー小説の完全映画化作品だ。『ナルニア国物語』（06年3月号）『シャーロットのおくりもの』（07年1月号）を生み出したウォルデン・メディアの製作で，米国ではディズニーが配給している。なるほど，そのブランド名に恥じないファミリー向きの佳作だ。
「テラビシア」とは，この映画の主人公である少年と少女が想像で作り上げた国の名前ある。物語は，ある田舎町の貧しい家庭に生まれ，楽しみのない日々を過ごしていた小学5年生の少年ジェス（ジョシュ・ハッチャーソン）の隣家に，個性的で活発な少女レスリー（アナソフィア・ロブ）が引っ越してきたことから始まる。親しくなった2人は，毎日放課後，小川を越えた森の中へ向かい，この空想の世界の旅に出る……。脚本は，ジェスのモデルとなった原作者の息子，デヴィッド・パターソンが執筆している。いい脚本だ。
　監督は，ハンガリー生まれのガボア・クスポ。TVアニメシリーズ『ザ・シンプソンズ』『ワイルド・ソーンベリーズ』を手がけた人物だが，実写映画はこれが監督デビュー作だ。味のあるオープニングタイトルを選んだことからも，センスの良さがうかがえる。主演の男女は，まずまずの美少年・美少女だが，どこかで見た顔だと思ったら，ジェスは『ザスーラ』（05年12月号）でボードゲームに興じる兄弟の兄貴役の少年だった。あの映画でも演技はうまかった。一方のレスリーは，『チャーリーとチョコレート工場』（05年9月号）でずっとガムを噛んでいた，あの小生意気なクソガキである。それが一転，魅力的な美少女に変身している。自分にもこんな彼女がいたら，どんなに素晴らしい少年時代だっただろう。
　助演陣では，ジェスの父親役に『ターミネーター2』（91）で液状金属ロボットT-1000を演じたロバート・パトリック。最近は，ちょっと頑固で，融通の聞かないオヤジ役がうまい。ジェスが憧れる音楽教師役は，『あの頃ペニー・レインと』(01)のズーイー・デシャネル。少年に憧れの恋心を抱かせるのには，十分魅力的だ。
　イマジネーションで創る夢の王国の描写にCG/VFX技術は不可欠だが，『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のWETAデジタル社が担当している。これもブランド名としては十分だ。撮影も同じくニュージーランドで行なわれている。デジタルVFXの分量は多くないが，効果的に使われている。普通の森に見せておきながら，不思議な現象を登場させ，空想上の出来事であることを意識させてくれる。トンボに始まり，動く木，ワシ，リス，巨人の足もデジタル技術の産物だろう。虫の兵士たち（写真1）や奇妙な動物リスガー（写真2）は当然CG製だろうが，あまり高級そうでなく，視覚効果がくどすぎないのも意図的な演出かと思われる。
　それでいて，テラビシア国の全景（写真3）はさすがと思わせる描写だった。まさに夢の国だ。そういえば，『ロード…』の第1作目に登場するエルフの国もこんな感じだった。実写にミニチュア，マット画，CG映像等をミックスして桃源郷を描き出していた。ただし，『ロード…』のような派手なカメラワークはない。
　原作は「親が子供に必ず読ませたい本」に選ばれているらしいが，この映画も子供たちに是非見せたい映画だ。大人は少年時代に戻った気分で架空の世界を楽しみ，次第にジェスに感情移入して，彼らを襲った悲劇に涙する。ちょっとつらい展開だが，これも青春の1コマだ。
　そうだ，書き忘れていた。ジェスの妹役の小さな女の子が，とても愛らしく，無茶苦茶うまい。末は大女優だろうか。楽しみにしておこう。