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O plus E誌 2004年2月号掲載
 
 
『シービスケット』
(ユニバーサル映画&ドリームワークス映画/UIP配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年10月20日 ナビオTOHOプレックス(完成披露試写会)  
  [1月24日より全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  原作よし,脚色よし,演技よしの佳作  
   TVコマーシャルでは,「本年度アカデミー賞最有力候補」の文字が流れていた。今年は『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』が大本命で,来月紹介する『マスター・アンド・コマンダー』などが対抗だろうが,この映画もなかなか味のあるいい映画だ。助演男優賞・脚色賞・撮影賞などの部門も賑わすことだろう。
 女性競馬ジャーナリスト,ローラ・ヒレンブランドの処女作長編ノンフィクションが原作で,436万部もの大ベストセラーの映画化作品だ。邦訳(ソニーマガジンズ)は521ページもある大著で,「あるアメリカ競争馬の伝説」という副題がついている。アメリカ史の中でしばしば取り上げられ,よく映画にもなる1930年代が舞台だ。禁酒法下,金融恐慌の時代である。ドラマが生まれやすい激動の時代だから,日本なら差し詰め幕末から明治維新に至る激動の時代に匹敵するのだろうか。
 経済復興の時代に人々の希望の星となった競走馬シービスケット号に関係する3人の男の物語だ。まず,大恐慌で天涯孤独となった赤毛騎手ジョニー・“レッド”・ポラード役に,若手演技派のトビー・マグワイア。10kg減量して臨んだこの騎手役は『スパイダーマン』(02)よりもずっと似合っている。次に,オーナーの西部の自動車王チャールズ・ハワード役には,オスカー候補常連のジェフ・ブリッジス。こちらも『光の旅人/K-PAX』(2002年4月号)の精神科医よりも,この富豪役の方がはまっている。最後の1人は,近代化の波に乗り遅れたカウボーイで調教師になったトム・スミス役に,『アダプテーション』(2003年9月号)でオスカー助演男優賞を得たばかりのクリス・クーパー。いま脂が乗り切っているようで,口数が少なく内面の演技を要求されるこの役柄も見事にこなしている。
 もう1人印象深い人物がいた。レッドの無二の親友“アイスマン”・ウルフ役を,名誉殿堂入りした実際の競馬騎手のゲイリー・スティーブンスが演じている。とても映画初出演と思えないハイレベルの演技だ。
 このそれぞれの個性溢れる名演技を引き出した監督は,トビー・マグワイアを『カラー・オブ・ハート』(98)に抜擢したゲイリー・ロス。もともと脚本家出身だけに,この映画も自らの脚色の良さに支えられている。大作ぶらず,嫌みでなく,分かりやすいのがいい。前半はハイテンポで淡々と描き,マッチレースの辺りから一気に映画が引き締まる。心憎い,うまい演出だ。
     
  レースシーンの迫力は予想以上  
   この映画の初公開は2003年7月25日だが,SIGGRAPH 2003に参加中にホテルのTVを見ていたら,数日前にシービスケットの栄光を讚えるドキュメンタリー番組をやっていた。昔の記録フィルムは勿論モノクロだが,これを大作映画として描くには,時代風俗や競馬シーンをリアルに描くのに金がかかる。以下,その撮影や視覚効果に関する印象である。
 ■この時代の衣装を忠実に再現するのはハリウッドならお手のものだろうが,町行くクルマも多彩だった。よくぞ,これだけのクラシックカーを集めたものだ。ただし,サンタアニタ競馬場の広い駐車場を埋め尽くした車は,ミニチュアかCGのディジタルコピーで描いたに違いない。遠景のやや不自然な山も合成と思われる。
 ■同様に,競馬場のスタンドを埋める大観衆も勿論定番のディジタルコピーで埋めたのだろう(写真1)。騎手はといえば,顔の見えるシーンでは,しっかりトビー・マグワイアが馬にまたがって演技している。下はサラブレッドだから,かなり乗馬練習したことと思われる。
 ■ギャロップで疾走中の調教や競馬中のシーンは顔をすげ替えるのかと思ったが,泥よけのグラスを着けているし,巧みに顔を見せないシーンが多い(写真2)。もっとアップで顔が分かるシーンは,木馬に跨がって撮影したようだ。もっとも,ウルフ役は本物の騎手だから,こちらはゴール後の鞍上ガッツポーズやウィンニングランで顔を見せるシーンも見事に決まっていた。
 ■競馬のシーンは予想したよりも迫力があった。騎手視点での映像が少なくないのは,レース中の競走馬にカメラを取り付け,そこからの映像を利用しているからだ。カーレースのオンボード・カメラならぬ,オンホース・カメラだ。前の馬をうしろから追いかけるシーンばかりだが,逆に後ろを捉える映像があっても良かったと思う。
 ■故障したシービスケットが脚を引きずる様は,馬の演技も見事だ。この調教は簡単じゃなかっただろう。助演動物賞ものだ。万一を考えると,よく似た馬を何頭か用意して訓練したに違いない。競争シーンに登場する馬も,この映画のために特別に訓練した馬たちだそうだ。
 ■私(筆者)は,若い頃結構馬券を買って,競馬も勉強したが,この馬の名前は知らなかった。当時の人々の記憶に残る馬だというから,ハイセイコーやオグリキャップのような存在らしい。全成績83戦33勝という数に驚く。時代が違うとはいえ, 2歳時35走,3歳時23走もしている。短・中距離の勝星もあるので,根っからのステイヤーではなく,単に遅咲きだったのだろう。
 ■書籍と映画は別物で,原作がこれだけ厚いと,映画は登場人物を減らして再構成しないと無理だ。まず映画を観て,その後原作を読むことをお勧めする。いい映画だが,原作はもっと好い。自動車が登場した頃のアメリカ社会の様子や競馬騎手の過酷な生活実態もよく描かれている。シービスケットを巡る人間ドラマも素晴らしい。
 
     
 
写真1 スタンドの大観衆は当然ディジタルコピーだが,鞍上はトビー・マグワイア本人
 
写真2 顔が見えないところを見ると,このゴール前シーンは本物の騎手か
 
     
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