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O plus E誌 非掲載
 
 
 
 
『ドラゴン・タトゥーの女』
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
 
     

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [2月10日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー公開中]   2012年1月24日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  同じスウェーデンを舞台に,魅力は一段とアップ  
  年末に予定されていた試写会が1月下旬に延びてしまい,2月号で紹介できなかった話題作である。Webページだけの紹介になってしまったが,紙幅の制約はないので,じっくり語ることにしよう。
 原作は,急逝したスウェーデン人作家スティーグ・ラーソンが遺したベストセラー・ミステリー「ミレニアム」3部作で,各巻に忠実なスウェーデン製の映画3本が製作され,世界的にヒットした。当欄では3本とも2010年に紹介し,高い評価を与えている。本作は,その1作目『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(10年2月号)をハリウッドがリメイクした映画である。
 この英題も邦題も,「ミレニアム」を外して副題を主題に格上げしてきた。「ミレニアム」とは,主人公ミカエルが発行する月刊誌の名称であったから,リメイクでは人物設定を大幅に変え,かつこの1作完結で臨んできたのかと思えるが,そうではない。背中にドラゴンの刺青を入れているのは,本作でミカエルが雇用するハッカーのリスベットのことで,2作目以降はむしろ彼女が主役である。したがって,この題をシリーズ名とすることも可能であり,2作目以降にしかるべき副題をつけても好い訳だ。ちなみにオリジナル・シリーズは, 『ミレニアム2 火と戯れる女』『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』であった。
 さて,このリメイク作のメガホンをとるのは,売れっ子のデヴィッド・フィンチャー監督である。かつての鬼才ぶりは年齢ともに薄れてきたが,『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(09年2月号)『ソーシャル・ネットワーク』(11年1月号)など,大作,話題作を手がけ,今や人気と実力が備わった一流監督である。前3部作の完結前に彼がリメイクすることは公表されていたので,どんなリメイク作品に仕上がるのか楽しみだった。最近の充実振りからして,見応えのある大作に仕上がっていることも予想できた。
 ミカエルとリスベット役は自薦,他薦を含めて何人もの名前が挙がっていたが,最終的にフィンチャー監督が選んだのは,6代目007のダニエル・クレイグと『ソーシャル…』で主人公の恋人役を演じていたルーニー・マーラである(写真1)。ダニエル・クレイグは,007抜擢後も並行して,『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(08年3月号) 『ディファイアンス』(09年2月号) 『カウボーイ&エイリアン』(11年11月号)に出演した上に,『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(11年12月号)ではパフォーマンス・キャプチャーでの演技で悪役を演じている。ちょっと出過ぎだ。現役の007の間は,もっとジェームズ・ボンドのイメージを大切にして欲しいものだ。一方のR・マーラは,監督のお気に入りでの起用なのだろうが,リスベットという強烈な個性には,およそ似合わない気がした。
 
   
 
写真1 この2人が,本作のリスベットとミカエル
 
   
  リメイクとなると,一旦前作を壊して,独自解釈で物語を再構築する場合が多いが,本作は驚くほど前作のイメージを踏襲している。物語の展開がほぼ同じという意味では,同じくスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』をハリウッド・リメイクした『モールス』(11年8月号)が記憶に新しいが,この場合は,舞台をアメリカに移し,登場人物の名前も変えていた(それゆえ,邦題では「エリ」を使えなかった)。それに対して。本作は,舞台はスウェーデンのままで,雑誌名も,主役の男女,「ミカエル・ブロムクヴィスト」と「リスベット・サランデル」というスウェーデン人名もそのままである。原作のもつ雰囲気を重視し,凍てつくスウェーデンの冬にロケを敢行したという(写真2)。事件があった島に渡る橋の光景も前作そのままだ(後日映像を見比べたら,橋の形状は違っていたが,印象は同じだった)。これでは,セリフが英語になっただけではないか。大きな製作費を使って,ほぼ同じ映画を作る必要があるのか? いや,これはD・フィンチャーの自信の表われなのだろう。後半の見応え,映画としての格の違いを見せつけるつもりだろう。と思いつつ,試写を眺めていた。
   
 
写真2 真冬のスウェーデン。見るからに寒そう。
 
   
  果たせるかな,この予想は見事に当たった。リスベットと後見人のエピソードも,事件の背後にある謎の解明もほぼ同じでありながら,映画としての完成度が格段に上だった。とりわけ,失踪事件が猟奇殺人事件の様相を帯びてくるに従い,D・フィンチャーの演出は冴え渡る。さすが,『セブン』(95)の監督である。出過ぎだと思ったダニエル・クレイグも,本作での未解決事件の探偵役は,さすが大物俳優と思わせる演技だった。前作の主演が,ミカエル・ニクヴィスト(写真3)なる地味な男優であっただけに(名前だけは主人公に似ているが),存在感の違いが如実だった。監督も俳優も一流で,大きな製作費をかければ,映画の完成度は確実に上がるという見本である。
   
 
 
 
写真3 前作の主演は,この地味な地元俳優
(C) Yellow Bird Millennium Rights AB, Nordisk Film, Sveriges Television AB, Film I Vast 2009
 
   
  随所に登場するVFXが魅力アップに貢献  
  当欄のお目当てであるCG/VFXに関しては,デジタルドメイン社が主担当である。一般観客にそれと分からないところで,かなりのVFXが登場し,この映画の質的向上に貢献している。例えば,雪原を走る列車のシーンは,列車だけでなく,周りの雪景色やそのものもCGで描かれて,雪が舞う効果までも描き加えられている(写真4)。いかに厳冬期に北欧でロケを行ったとはいえ,このシーンで都合の良い列車を待っていたのでは,凍え死んでしまいそうだ。
 
   
 
 
 
 
 
写真4 列車も周りの冬景色も,丸ごとディジタル製
 
   
  他では,リスベットが真犯人をバイクで追いかけるチェイス・シーンがVFXの活躍の場だ(写真5)。R・マーラは,バイクに乗る練習もしたというが,前作より遥かに長い,危険なチェイスでは,CGで描いた方が安全確実かつ安上がりという時代になっている。追いかけられたクルマが崖下に落ち,炎上するというシーンもCGで描かれている(写真6)。前作のように本物のクルマを崖から落としして実写で撮るよりも,大掛かりで迫力ある事故を描けるわけだ。
 
   
 
 
 
 
 
写真5 前作よりも派手で危険なチェイスシーンはVFXの活躍の場
 
   
 
 
 
 
 
 
 
写真6 転落するクルマ本体だけでなく,粉塵,破片,火花も丁寧に描き込まれている
 
   
  リスベットだけは,前作を超えていない  
  これなら,大衆向け作品も入れる最近の基準からして,アカデミー賞ノミネートもあるだろうと感じたのだが,ゴールデングローブ賞でもアカデミー賞でも,作品賞部門にはノミネートすらされなかった。アカデミー賞作品賞候補作は,一昨年から10作品に倍増しているというのに,今年はなぜか9作品が候補だ。何やら,本作を意図的に外したかのような不思議な数だ。
 アカデミー賞では,結局5部門でノミネートされたが,何と驚きは,リスベット役のR・マーラが主演女優賞での候補になっていることだ。この評価には全く同意できない。映画そのものは大幅にリファインされているが,この強烈な役だけは,前作のノオミ・ラパスの方が絶対的に光っていた(写真7)。黒い革ジャン姿に鼻ピアスという特異な風貌は,じゃんけん後出しで真似ることはできるが,天才ハッカーらしき振る舞いまでは凌駕できていない(写真8)
 
   
 
 
 
写真7 オリジナルのリスベットを演じたノオミ・ラパス。こちらの方がずっと個性的。
(C) Yellow Bird Millennium Rights AB, Nordisk Film, Sveriges Television AB, Film I Vast 2009
 
   
 
 
 
写真8 こちらが眉を薄くした本作のリスベット。こうした配布用スチル写真のPCでは,しっかりSONYのロゴが登場する。
 
   
   ハッカーといえば,本作はソニー・ピクチャーズ傘下のコロンビア映画製なのに,リスベットもミカエルも堂々とMacBookを使っていた。これは,前作の2人と同じだ。他作品ならこれ見よがしに登場するVAIOは,ほんの少し見かけただけである。前作のイメージを残すことを重視し,スポンサの意向は無視して押し切ってしまったのなら,デヴィッド・フィンチャーはえらい! それとも,個人的にMacBookやiPadのファンだっただけだろうか?  
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