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O plus E誌 2012年2月号掲載
 
 
 
 
『はやぶさ 遥かなる帰還』
(東映配給)
 
 
      (C) 2012「はやぶさ 遥かなる帰還」製作委員会

  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [2月11日より丸の内TOEIほか全国ロードショー公開予定]   2012年1月16日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  はやぶさもイトカワも,こだわりのCG描写  
  国内で3作品の競作となった小惑星探査機「はやぶさ」の偉業を描く劇場用映画の2本目である。先陣を切った20世紀フォックス配給の『はさぶさ/HAYABUSA』は,昨年10月号の短評欄で紹介したが,CGにチープ感はあったものの,JAXAの管制室,実験室の描写は充実していると感じた。すぐ後に控える松竹配給の『おかえり,はやぶさ』(次号掲載予定)は,3D映画として登場する。危機的状況を乗り越えてのサンプル採取,地球への帰還は,どう描いても素晴らしい物語であるから,まさに映画人の腕の見せ所である。世の中に「はやぶさ」フリークは多数いるというから,3本全部見ようという観客も少なくないに違いない。
 間に挟まれる本作が,一番製作費をかけ,CGも充実していると漏れ聞いたので,年内にCG画像を取り寄せ,VFXスーパーバイザー野口光一氏に電話インタビューを行った。ところが,関西での完成披露試写がなかなか行われず,編集部に無理を言って,本号の最終校了を1日延ばしてもらって本稿が出来上がった次第である。
 本作の監督は,『犯人に告ぐ』(07)の瀧本智行。主演の山口教授役に渡辺謙,イオンエンジン担当の藤中教授役に江口洋介,広報担当の丸川教授役に藤竜也というキャスティングだ。サイド・ストーリーとして,女性科学技術記者(夏川結衣)とその父親(山崎努)の物語が展開する。正直なところ,渡辺謙,江口洋介はカッコ良過ぎて,JAXAの科学者という感じがしない。キャスティングの上では,地味な佐野史郎が演じるFox作品の方が勝っていると感じた。救いは,NECの技術者役の吉岡秀隆だろうか。エンジンのクロス運転を巡る激論シーンでの彼の熱演が,この映画を引き締めていた。
 以下,CG/VFXを中心としたコメントである。
 ■ 本作のもう1人の主役は「はやぶさ」である。そう明言されるだけあって,宇宙空間での登場場面も多く,幾何モデルもしっかり制作されている。「はやぶさ」単体で300万ポリゴン,フェアリング部を含めると500万ポリゴンに及ぶ(写真1)。そのレンダリングには,最新のコンピュータをもってしても,1枚で最高6時間もかかったというから,相当な描き込みである。素人目には,実物かCGかの区別はつかない。
 
   
 
 
 
 
 
写真1 はやぶさ+フェアリングで500万ポリゴン(上)。はやぶさ単体でも300万ポリゴン。
 
   
  ■ その一方で実物大の精巧な模型も準備され,スタジオ内で実際に光を当て,ボディからの反射やハイライトを確認して,忠実に再現したという(写真2)。当初,筆者にはこれが理解できなかった。真空の宇宙空間での光源は太陽だけであるから,スタジオ照明より,むしろCGによる描画の方が正確なはずである。つまるところ,これは映画のための絵作りであり,誰も見たことのない宇宙での「はやぶさ」の姿は,映画人や観客がそれらしいと納得するものでなければならない。背景の宇宙は他作品よりも漆黒の闇にしたというが,実際の映画で,このこだわりの照明は成功していたと思う(写真3)。その一方,フルCG描画であるのに,構図やカメラワークを決めるのに,撮影監督が実カメラを操作するリアルタイム・プレビズを実施した(写真4)というから,喜ばしいニュースである。
   
 
写真2 精巧な実物大模型を作り,スタジオ内で光を当ててライティングのテスト
 
   
 
写真3 宇宙空間では,こだわりのライティング。いい出来だ。
 
   
 
写真4 CG製はやぶさの構図とカメラワークを決めるプレビズの情景
 
   
  ■ 小惑星イトカワは,JAXA提供の模型を3Dスキャンした上で,精巧なCGモデルを作成している(写真5)。JAXAの映像では不十分だったので,しっかりモデリングした結果,データ量は1テラバイトに及んだ。このままではレンダリングに1コマ2日もかかるというので,24Gバイトに圧縮し,6時間で済ませたという(写真6)。イトカワに降下し,タッチダウンを試みるシーンでは,惑星表面はマット画としての描き込みが加えられている(写真7)。これもVFXチームのこだわりの産物だ。
   
 
写真5 JAXA所有の模型を3Dスキャン
 
   
 
写真6 1テラバイトのCGデータを24Gバイトに圧縮してレンダリング
 
   
 
 
 
 
 
写真7 着陸態勢とタッチダウン時には,惑星表面はさらに細かく描き込まれている
 
   
  ■ その他のシーンでも随所にVFXが使われている。2003年の打ち上げシーンでは,内之浦の実際の発射台にロケットやCGの噴煙・炎が合成されている(写真8)。10数年経っているとはいえ,『アポロ13』(95)に負けない打上げシーンだ。その一方,NASAへのロケは行わず,国内での撮影シーンに建物やスペースシャトル等の合成だけで済ませたようだ(写真9)
   
 
 
 
写真8 内之浦ではCG製のロケットを合成。実写の発射台は,VFXでペンキを塗り,汚れを消して当時を再現。(左:処理前,右:完成映像)
 
   
 
 
 
 
 
写真9 NASAのシーンは日本で撮影し,建物やスペースシャトル等を合成(左:処理前,右:完成映像)
(C) 2012「はやぶさ 遥かなる帰還」製作委員会
 
   
   ■ 地球帰還時に,切り離したカプセルと併走し,「はやぶさ」が分解,消滅するシーン映像は,ニュース等で誰もがよく知っている。それに先立つ「はやぶさ」炎上のシーンが描かれているが,これが結構良くできている。担当はカナダのImage Engine社だ。この場面の映像そのものというより,この帰還シーン全体のバランスが良いと感じた。映画そのものの感動度は,可もなく不可もない☆☆レベルだが,上記VFXチームの健闘を讃えて,+分おまけの評価である。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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