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O plus E誌 2010年12月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ゴースト もういちど抱きしめたい』:期待したのだが,無惨なリメイク作だった。デミ・ムーア主演で大ヒットした『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)の舞台を現代日本に移し,男女を入れ替え,殺されてゴーストとなる実業家の妻(松嶋菜々子)と残された陶芸家の夫(ソン・スンホン)という設定は悪くない。原作品も演技はB級だったこと,邦画の平均的実力を考慮してもなお,脚本も演出もVFXも低水準だ。樹木希林が演じる霊媒師と平井堅が歌う「Unchained Melody」だけが,何とか合格点だろうか。本作と比べると,同じ邦画リメイクでも,10月号の『死刑台のエレベーター』の方が圧倒的に完成度も志も高かったと評価できる。
 ■『アメリア 永遠の翼』:1928年女性として初の単独大西洋横断に成功した米国の冒険飛行士アメリア・イヤハートの物語である。映像が現存する国民的ヒロインで,知的な雰囲気が漂う存在だけに,主人公を演じるヒラリー・スワンクの役作りにも苦労の跡が伺える。冒険を語る講演・出版,彼女の名を冠したグッズ販売での成功,女性の地位向上のシンボル的存在等,現代女性に贈るメッセージも多数盛り込まれている。イメージを傷つけないよう史実に忠実に描いたためか,最近のレディーズ・ムービーとしてはパンチが足りない。それでも,世界一周飛行に挑戦し,太平洋上の無人島に向かうクライマックスは俄然盛り上がる。事前知識のない人は,結末を知らずにこの緊迫感を楽しんだ方がいいだろう。
 ■『デイブレイカー』:時代設定は2019年。世界はヴァンパイアに支配され,人間は絶滅危惧種となっている。何だ,またまた人類破滅の危機かと思う。確かに今年は暗い近未来ものが何作もあり,ゾンビ系,非ゾンビ系の映画も沢山観たが,この組合せは初めてだ。不老不死だが人類の血を飲まないと凶暴化するヴァンパイアの描写はグロテスクで,代用血液開発の物語も面白みに欠ける。ただし,主役のイーサン・ホークをはじめ,助演のウィレム・デフォー,悪役のサム・ニールら実力派の演技は光っていた。人類を飼育する工場や近未来社会の描写は高水準であり,VFXでは炎の使い方が優れていた。部分的な見どころが多々ある一作だ。
 ■『武士の家計簿』:題名からも分かるように,時代劇ブームの中でのちょっとユニークな作品だ。原作は小説ではなく,「武士の家計簿 ―『加賀藩御算用者』の幕末維新」なる歴史教養書を脚色し,映画化したもの。武家の会計処理専門家一族が主人公で,チャンバラは一切登場しない。算盤と帳簿付けに生きる彼らの生活と子育ての中に,武士としての誇りと激動の時代を生きる逞しさが感じられる。堺雅人,仲間由紀恵,中村雅俊,松坂慶子など,豪華キャストの持ち味を生かした森田芳光監督の演出が冴えている。なかんずく「おばばさま」を演じた草笛光子の凛とした佇まいが,武士とは何かを物語り,この作品を引き締めている。
 ■『白いリボン』:冷徹な描写で知られるドイツ人監督ミヒャエル・ハネケによるクライム・ミステリーで,第一次世界大戦前夜のドイツ北部の寒村での出来事を描く。2009年のカンヌ映画祭パルムドール受賞作だが,その情報がなければ,全く製作された時代を当てられないだろう。露骨過ぎない,淡々とした古風な描写の中に,人間の心に潜む悪意,嘘,欺瞞等を巧みに織り交ぜている。なるほど達者な表現力で,映画祭の審査員達を唸らせるには十分だ。ただし,このテーマ,この時代を描くのに,モノクロ映像が必然であったとするのには同意できない。1つの表現法であっても,作り手と観客の間にある安易な了解に頼っているに過ぎない。
 ■『人生万歳!』:ウディ・アレンの監督作品もこれで40作目だそうだ。前作『それでも恋するバルセロナ』(09年7月号)は,舞台をスペインに移し,従来と一味違う情熱的な逸品を見せてくれたが,本作ではいつものアレン節に戻り,ニューヨークを舞台に少し風変わりな人達の人間模様を洒脱に描く。自殺に失敗し,妻とも離婚した元ノーベル賞候補の物理学者が,南部の田舎町出身の若い女性と再婚するという設定だけで,尋常でない物語だと予想できるだろう。何しろ冒頭から,主人公がよくしゃべり,観客にひたすら語りかける。字幕翻訳家に同情したくなるくらいだ。観る方も疲れるが,後はW・アレンの世界が待ち構えている。
 ■『最後の忠臣蔵』:赤穂浪士を戦闘集団と見立てた新解釈でベストセラーとなった小説「四十七人の刺客」の後日談として,池宮彰一郎が著した続編は確か「四十七人目の浪士」だった。それがいつの間にか改題され,この映画の題名にも踏襲されている。密命を帯び,1人生き残った寺坂吉右衛門(佐藤浩市)の討入り後の物語のはずが,本作はむしろ,討入り前夜に脱盟した瀬尾孫左衛門(役所広司)を中心に描いている。この二大男優の演技はさすがだし,じんと来て目頭が熱くなるシーンも随所にある。ただし,この中身で2時間13分は長過ぎる。脚本がかったるい。余りのスローペースの展開には,苛立ちすら覚えた。もっと様々な人間模様を盛り込み,寺坂吉右衛門を活躍させるべきだった。
 ■『モンガに散る』:台北の古い繁華街のヤクザ社会に生きる若者たちを描いた青春映画の秀作だ。友情,恋愛,裏切り,義侠心……,どんな時代や場所であっても,青春群像を描いた映画は気持ちがいい。舞台は1980年代だが,ちょっと懐かしい感じがして,最近作とは思えない味わいがある。かつての邦画の香りも,香港映画の香りもする,いい意味でいかにもアジア映画だ。『パッチギ!』(05)にも似てるし,主人公のモスキートは,若き日の健さんを彷彿とさせる。監督は俳優出身のニウ・チェンザー。達者な演出で,最近の日本映画が忘れてしまった映画作りへの情熱を感じる。
 ■『キック・アス』:何という痛快かつ意欲的な映画だ。バットマン,スパイダーマン等のアメコミのスーパーヒーローのパロディ版にして青春映画である。完全にB級映画のネタで,そのノリで製作されているが,アクションもVFXもA級だ。それでいて遊び心を忘れていない。メイン欄で紹介したかったが,締切間際の試写だったので,短評欄でしか紹介できないのが残念至極だ。復讐シーンで流れる「夕陽のガンマン」や「アメリカの祈り」等,まるでタランティーノ作品かと思わせる選曲もご機嫌だ。大都会の眺望も,少女のアクションも,バズーカ砲やロケット噴射装置のVFXも素晴らしい。それもそのはずDouble NegativeがVFXの主担当だ。
 ■『相棒-劇場版II-』:窓際族刑事・杉下右京(水谷豊)が活躍するTV刑事ドラマを映画化した前作(08年5月号)は,当欄ではその製作姿勢を酷評したのだが,興行的には2008年度上期大ヒット作品となった。その余波で,TVシリーズの視聴率もアップした。当然,2匹目の泥鰌を狙って,堂々の再登場である。相棒の刑事は,亀山薫・巡査部長(寺脇康文)から,神戸尊・警部補 (及川光博)に替わっている。武闘派の亀山刑事の方がコントラストの妙があったが,TV版も交替している以上,止むを得ない。2作目は,警察内部の陰謀を追うという,よくあるテーマだが,前作のように背伸びし過ぎていないことに好感がもてる。半面,冒頭の爆発シーン以外は,TVでもやれる規模だが,たっぷり2時間近い尺で物語を追えるので,杉下右京の魅力を存分に引き出していると評価できる。
 ■『リプレイガールズ』:ハリウッド帰りのYuki Saito(齊藤勇貴)監督の初長編作品で,自殺サイトに集まった12人の女子高生が繰り広げるサバイバル・アクション。YouTubeをもじった映像配信サイトの画面から始まり,自殺志願者のブログ上での文字ベースでの会話が続く……。『Re:Play-Girls (RPG)』という別表記からも分かるように,メールへの返信であり,クリアボタンを押してのリプレイであり,RPG風の登場人物紹介など,ネット感覚,ゲーム感覚で物語は進行する。「校内いじめ」や「思春期の自殺願望」という現代社会の重いテーマを同時代の最新メディアと絡めて描くのは,意図的な表現方法なのだろう。これがハリウッド仕込みなのか,日本映画にありがちな,気だるく平板な演出はなく,テンポは快適だ。低予算映画でありながら,日本刀で戦うアクションの振付,演出もしっかりしている。筆者の世代には,不愉快な人物,不可解な行動ばかりだが,そう感じるのは監督の演出の罠に嵌った証拠か。途中からは,このサバイバルゲームをどういう形で終わらせるのかの興味で観ていたが,結末の処理が少し甘い。入場料をとる商業映画である以上,もう少し明るく,希望に満ちたエンディングが欲しかった。  
   
  (上記のうち,『リプレイガールズ』はO plus E誌には非掲載です)  
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