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O plus E誌 2006年8月号掲載
 
 
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』
(ウォルト・ディズニー映画 /
ブエナビスタ配給)
      (C) Disney Enterprises, Inc. & Jerry Bruckheimer, Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月22日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2006年7月5日 梅田ピカデリー(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  徹頭徹尾エンターテインメント精神全開の第2作  
 

 ヒット作の続編は確実な興行収入が見込めるが,それにしてもこの映画は驚くばかりの記録で飛び出した。北米Box Office収入は,公開後3日間で何と約1億3500万ドル! 約154億円というから凄まじい。『スパイダーマン』(02)の週末記録も, 『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(05)の初日記録も軽く塗り替えてしまった。オープニング興収は映画の出来や面白さには必ずしも比例しないが,どうしてどうして,これがまた頗る面白い。きっと批評家筋の評価は高くないだろうが,観客の満足度は高いに違いない。徹頭徹尾エンターテインメントに徹したサービス精神は買えるし,まさにパワー全開だ。
 元ネタは言うまでもなく,ディズニーランドの人気アトラクション「カリブの海賊」で,ファミリー層にとっても知名度は抜群だ。その映画化第1作の前作『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(03年9月号)も良い出来だった。エディ・マーフィー主演の『ホーンテッド・マンション』(04年4月号)が子供だましだったのとは対照的に,VFXファンやジョニー・デップ・ファンの満足度も高かった。ILM担当のVFXも一級で,アカデミー賞視覚効果部門にもノミネートされていた。
 そこへ,製作ジェリー・ブラッカイマー,監督ゴア・ヴァービンスキー他の主要キャストは同じで,主演のジョニー・デップ(ジャック・スパロウ船長),オーランド・ブルーム(海賊の息子ウィル・ターナー),キーラ・ナイトレイ(提督の令嬢エリザベス・スワン)の3人が揃った続編となれば,品質は保証つきだ。この4年間でジョニー・デップやオーランド・ブルームはますます存在感のある主演作に恵まれて,大スターになった。前作ではまだ無名に近かったキーラ・ナイトレイも,主演作が続き『プライドと偏見』 (05)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるにまで成長している。
 時代設定は前作から3年後。ウィルとエリザベスが結婚式を目前に控えていたが,突如,海賊ジャック・スパローの逃亡を助けた罪で死刑を宣告される。一方のスパロー船長はといえば,「深海の悪霊」デイヴィ・ジョーンズと交わした13年間の血の契約が切れる寸前となり,「深海の魔物」クラーケンに海底に引きずり込まれる危険が迫っていた……。物語の詳細は省くが,デイヴィ・ジョーンズの心臓を入れた「死者の宝箱(デッドマンズ・チェスト)」を奪い合う大活劇に,登場人物が複雑にからみ合って巻き込まれて行く。
 何しろ,前半からとてつもなく目まぐるしい。ストーリーもよく分からないまま,次から次へと思わぬ展開の冒険の連続だ。まさにテーマパークのライド・アトラクション感覚で観客を翻弄する。よくぞこんな脚本を書き,それを映画の構図に収めたものだと感心する。途中,少しペースが落ち着いて物語の設定がようやく見えたと思ったら,そこから先はハリウッド流の大スぺクタクルVFXアドベンチャーが待ち受けている。いや正にサービス精神満点,エンターテインメント業であればここまで徹底してやりましょう,と宣言しているかのようだ。
 VFXの主担当はILMで,いまやそのエース級のジョン・ノールが前作同様の総合スーパバイザとなれば,ILMの威信をかけたハイレベルの仕上げに決まっている。総勢約400人の名前があっただろうか。『ポセイドン』以上の力の入れ方であることは間違いない。
 VFXシーンは数えられないほど多岐に渡るが,まず第1に上げなければならないのは,顔や首の一部が深海生物と化したというデイヴィ・ジョーンズの風貌だろう。顔の下半分蛸の化け物状態は,静止画だと特殊メイクにも見えるが,1本ずつ足がクネクネ動く様はCGでしか表現できまい(写真1左)。よくぞこんなクリーチャーを思いついたものだ。演じているビル・ナイの面影は全くない。彼の部下達も1人ずつ見ると,顔の上半分がなかったり,ヤドカリのように貝に覆われていたり,相当に凝った造形だ(写真1右)。
 この後に登場する大蛸のクラーケンの描写も素晴らしい(写真2)。形や表面属性は最近のCG技術をもってすれば朝飯前だろうが,構図や動きの表現が見事だ。ウィルと元提督のノリントンの水車上の対決シーンも秀逸だ(写真3)。この水車が外れて転がるシーンもまさにデジタル視覚効果の産物で,これはアイデア賞ものだ。

 
     
 

写真1 悪霊デイヴィ・ジョーンズは顔が蛸足状態。その部下達のメイクもCG技術のなせる技。

 
 
     
 
写真2 CG製大蛸のクラーケンが船を襲うシーンは圧巻
 
     
 
 
 
写真3 水車上での対決アクションはアイデア賞もの
(C) Disney Enterprises, Inc. & Jerry Bruckheimer, Inc.
 
     
 

 視覚効果以上に優れているなと驚いたのは,音響効果だった。ワクワクする躍動感を醸し出すかと思えば,重厚さや軽やかさも併せて表現できている。このサウンド・ディレクターはかなりの才能だ。ジョン・ウィリアムズを超え,いま一番売れっ子のハンス・ジマーに匹敵する力量だ。と思ってエンドクレジットを観たら,何だ,お気に入りのハンス・ジマー当人だった。ま,私の耳も安定した聴取能力があるということだが……。
 少し褒め過ぎたが,欠点を言えばこの映画は長過ぎる。もう30分縮めた方がコンパクトで良い。エンドロールの最後で,同時製作の『パイレーツ…3』の宣伝めいたシーンが登場するのはちょっと悪ノリし過ぎだ。

 
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