また先月に続いて世界同時公開で,1ヶ月遅れでしか掲載できないことのボヤキから入らなければならない。『スパイダーマン3』はわざわざ試写を観に東京・六本木まで出かけたが,この映画はそれも叶わず,公開日の金曜の夜,京都のシネコンで観ることになった。字幕版2,吹替版1の3スクリーンでの上映でこの満員だから,配給会社が強気になるもの無理はない。
大人気シリーズの3作目で,一応の完結編である。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『マトリックス』3部作と同様,2と3を同時製作し,時期をずらして公開するというお馴染みの商法だ。両シリーズの続編がいずれも駄作だったから,いやな予感がした。1作毎に製作するのと比べて,どこかで緩みができるのか,それとも無理があるのかも知れない。いや,
2作目の『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(06年8月号)は満足度の高い娯楽大作だったから,手抜かりはあるまい。同時製作といっても,CG/VFXは2作目を仕上げてからじっくり描き込まれるから,品質で見劣りする訳がない。前作は,何しろILMが12年ぶりのオスカー奪還を果たした作品である。それ以上のパワーで臨んだに違いなく,その点でも抜かりはないだろう。懸念は2時間45分という前作以上の長い上映時間だ。
製作のJ・ブラッカイマー,監督のG・ヴァービンスキー以下,脚本・撮影・衣裳・音楽等のスタッフも,ジャック・スパロウ船長を演じるJ・デップ以下の主要キャストもそのままだ。1作目にジャックに殺されたはずの「呪われた海賊」バルボッサ(G・ラッシュ)が生き返って来ることは予告済みであるし,「深海の悪霊」のデイヴィ・ジョーンズ(ビル・ナイ)も健在だ。新しい登場人物は,アジアの海を統べる中国海賊の王サオ・フェンで,『グリーン・デスティニー』(00)のチョウ・ユンファが演じている(写真1)。いいキャスティングだ。
そうそう,バルボッサだけでなく,2作目ではスパロウ船長も怪物クラーケンの餌食となって死んだはずだから,まずこの主役を何らかの方法で生き返らせなければならない。その他,ウィル・ターナー(O
・ブルーム)の父「靴ひものビル」は救出されるのか,デイヴィ・ジョーンズの魂を引き裂いた「過去の恋人」の正体は誰か等々,10の謎がこの完結編で明らかになるそうだ。物語の設定としては,デイヴィ・ジョーンズの心臓を手に入れたベケット卿の世界制覇の野望に対して,絶滅寸前となった海賊たちは「伝説の海賊」9人を召集し,生死をかけた全面対決に突入するというものだ。
というのは後から資料を読んで分かった話で,予備知識なしに観たら,誰と誰が何のために戦っているのか,まず理解できないだろう。敵と味方も目まぐるしく入れ替わる。変幻自在,融通無碍と言えば聞こえはいいが,観客の予測を外すために,映像的にも物語的にもいじくりまわしているとしか思えない。前作のあの躍動感,楽しさはなく,序盤,中盤はかなり退屈だった。ただし,最後の50分は,大きな渦を挟んでの両陣営の怒濤の戦いだ。ストーリーなどどうでもよく,このスペクタクルだけを楽しむと割り切るなら大正解だ。
CG/VFXのボリュームは予想通り,いや予想以上だ。しかし顔面タコ足男のデイヴィ・ジョーンズだけは出ずっぱりだが(写真2),他に目ぼしい新キャラはいない。強いて言えば,スパロウ船長の復活に貢献する岩ガニはユニークで楽しかった。CGとしては,前半では大滝,後半は海の大渦巻きが圧巻だ。後者はこの渦を挟んで対峙するブラックパール号,フライング・ダッチマン号の戦いが延々と続く。勿論,いずれもかなり複雑な視覚効果のオンパレードであり,30分以上は続くこの戦いのデザインだけでも,かなりの大プロジェクトである。PreViz映像制作にも,本番のレンダリングにも,気の遠くなる人数と時間がかかっている。さすがのILMも1社ではこの分量は捌き切れず,Digital
Domain,Asylum,CIS Hollywood等,約10社の応援を得ている。
戦い終わってからエンディング(後日談)もゴテゴテとしつこい。エンドロールの後にも映像があるから,ファンは最後の最後まで席を立たない方がいい。完結編と言いながら,ちゃっかり4作目以降への伏線だ。
この映画を見終わってから,周りの観客から出た言葉は「あー,やっと終わった。長かった」「迫力はあったけれど,前ほど面白なかったなぁ」であった。それでも,興行的には大成功で快走している。海賊の底力だ。
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