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O plus E誌 2008年11月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『その土曜日,7時58分』 :予備知識なしで観たが,実に面白かった。84歳の老巨匠シドニー・ルメット久々の力作だ。脚本も演出も全く隙がない。安易な強盗計画が破綻し,人間がどんどん穽に落ちて行く様を見事に描いてある。まるで松本清張の犯罪小説を読んでいるかのようだ。全く似ていない兄弟(フィリップ・シーモア・ホフマンとイーサン・ホーク)の対比も面白いが,似ている親子(アルバート・フィニーとP・S・ホフマン)間の憎悪・嫌悪の描写が凄い。演じる役者も凄い。自分が監督なら,こんな映画を撮ってみたい。原題は全く違うが,この絶妙な邦題にも痺れる。
 ■『ブーリン家の姉妹』 :ローマ教会からの脱退,イギリス国教会の創設という歴史を揺るがす大事件の原因となった姉アン(ナタリー・ポートマン)と妹メアリー(スカーレット・ヨハンソン)が主人公の物語である。あのエリザベス1世より,まだ前の時代の話だ。西洋史の勉強にはなるが,英国民なら誰でも知っている事件で,多分,新解釈の劇になっているのだろう。本邦でいえば,浅井三姉妹のようなものか。当然,16世紀の衣装の再現等で大作にならざるを得ないが,想像したほど重厚ではなく,期待したほどのコクはなかった。
 ■『ICHI』『ピンポン』(02)の曽利文彦監督の第3作目は,何と時代劇だ。それも売り出し中の綾瀬はるかを女座頭市に仕立てるとあっては,話題沸騰だ。彼女自身は,盲目の役も逆手居合の殺陣も無難にこなしている。助演は窪塚洋介と中村獅童というから,そのまま『ピンポン』コンビの起用である。盲目なのにメッチャ強いという設定は,誰がどう演じてもそこそこ面白く描ける。なのに,人物造形が稚拙で,脚本は単純そのもの,演出は児戯に等しい。これじゃ学生映画サークル並みの作品だ。いくら会社(TBS)がバックにいるといっても,監督としての力量に疑問符がつく。綾瀬はるかの熱烈ファン以外には価値無しだ(私にはあったが)。
 ■『その日のまえに』: 大林宣彦監督が,重松清の連作短編小説を映画化した作品だ。余命宣言を受け,「死」に直面する人々とその家族の心の動きを克明に描く。普通に描けば感動作のはずだが,物語の中心をなす若い夫婦(南原清隆と永作博美)の描写がどうもしっくりこない。明るく見せようとするセリフがうすっぺらで,感情移入できない。それでも,終盤にかけてはさすがに重厚な雰囲気が漂ってくるが,今度はエンディングがだらだらと長過ぎる。短く切ってこそ,余韻は残るものだ。そんな中で,ナンチャンの演技は好演の部類だろう。
 ■『かけひきは,恋のはじまり』  :ジョージ・クルーニーの監督・主演作品。恋のお相手役がレニー・ゼルウィガーと聞くと,およそ不釣り合いという気がしたが,どうしてどうして,1920年代のクラシックな出で立ちだと,このカップルが意外に合っている。邦題はアメフトの中年選手と敏腕女性記者のラブロマンスを強調しているが,むしろ存続すら危ぶまれたアメフトのプロリーグの苦闘が物語の中心だ。音楽・衣裳・インテリア・小道具等は勿論,画調やカメラワークまで徹底して「ローリング20's」を情感豊かに描く。
 ■『まぼろしの邪馬台国』  :盲目の郷土史家・宮崎康平の著した同名の書は,昭和42年の大ベストセラーである。「邪馬台国論争」を一般人に知らしめた功績はあったが,学説としては児戯に等しく,結論は失笑ものだった。なんで今頃それを映画化するのか理解しがたいが,吉永小百合主演の最新作という点だけが気になった。「邪馬台国探し」は添えもので,内容は破天荒なワンマン経営者の宮崎(竹中直人)と彼を支える献身的な妻の夫婦愛の物語になっていた。要するに,坂田三吉と女房・小春の九州版だ。ところが,およそ感動できない凡作だった。竹中直人はいつも通りの熱演で,助演陣の顔ぶれも悪くない。ロケにもVFXにも結構な製作費をかけている。セリーヌ・ディオンが主題歌を日本語で歌うというのも驚きだ。そこまで話題作りをしておきながら,中途半端でノレない映画だとしか感じないのは,企画が安直で,脚本の詰めも甘いからだろう。還暦をとっくに過ぎた大女優に,婚前の宮崎和子の役は厳しい。注視するに堪えないシーンもある。こんな安手の企画で主演を依頼するのは,永遠の美女にも日本中のサユリストにも失礼というものだ。
   
  (上記のうち,『まぼろしの邪馬台国』はO plus E誌に非掲載です)  
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